2011年に向けて新しい議定書案の提示を
澤 昭裕
国際環境経済研究所前所長
新しい議定書案に何を盛り込むか
しかし、一時のカタルシスに酔っていると、実際の戦況判断を誤る。よく考えてみると、京都議定書そのものが存在しなくなったわけではない。一方、米中も賛成した文書の性格は、法的拘束力がある義務を定めたものではない。つまり、京都議定書に替わる次期枠組みができた、ということにはならないのである。合意の二重構造はまだまったく解決していないのだ。したがって、2011年のCOP17で、日本が今年と同じ状況に陥ることは明白である。
京都議定書の第二約束期間の設定について同意しなかったことは、同議定書締約国の(拒否)権利としてもともと認められていたものであり、国際法上問題ある行為ではない。今回は、単にそれを再確認したにすぎないという評価もありえる。
来年までに状況を好転させておかなければならないが、日本に何ができるのだろうか。一言でいえば、新しい議定書案を提示することだと考える。
新しい議定書案のなかには、これまで真剣に検討されてこなかった途上国に対する具体的支援策について提示することが欠かせない。削減目標のレベルも大事だが、法的に拘束すべき対象を削減目標達成のための政策措置とできないものだろうか。また、これまで劣後してきた「適応」について、本当に困っている途上国に対して何が貢献できるのかを検討するべきではないか。こうした点が手掛かりとなるであろう。
議定書に基づく国際システムを支える法的構造も重要となる。その点については、温暖化交渉は貿易交渉と似ている。多国間がぎりぎりのバランスで妥協しつつ、成り立った国際システムをどのようにガバナンスするか、貿易交渉の世界では、さまざまな方法論が編み出されてきた。温暖化交渉でも、こうした先達の知恵を拝借し、次の議定書の骨格を検討していくことが重要なのである。