気候運動家が中国について誤解している6つのこと
―私たちが避けている中国に関する議論―
シーバー・ワン
Co-Director of Climate and Energy at the Breakthrough Institute
2025年10月31日シーバー・ワン
https://www.breakthroughjournal.org/p/six-things-the-climate-movement-gets
を許可を得て邦訳。
監訳 杉山大志 訳 木村史子
現在、気候変動とクリーンエネルギーに関する最大の注目すべきことはまさに中国で起きている。他地域で暗いニュースが溢れる中、中国における風力・太陽光発電、蓄電池、電気自動車、さらには原子力発電の記録的な導入拡大は、クリーンエネルギー分野の専門家や気候変動対策推進派にとって、またとない希望の光となっている。
中国におけるクリーンエネルギーの進展に対するこうした当然の盛り上がりは、単に規模の大きさだけでなく、技術面での紛れもない進歩にも支えられている。バッテリー性能の継続的な向上、大型風力タービンの開発、太陽光モジュールの高効率化、そして新たなナトリウムイオン電池や次世代太陽電池の商用化に関する有望な研究発表が相次いでいるのだ。楽観的な統計も悲観的な統計も含め、驚くほど多くのデータが溢れるこの国では、誰もが中国の物語の中に求めるものを見つけられる。右派ポピュリズムが台頭する時代にますます方向を見失いつつあるパブリック・インテレクチュアルたち、政策エリートら、そして世界的な気候運動は、中国主導のクリーンエネルギー革命を、世界を正しい軌道に戻すための「最後の、そして最良の」希望として捉えているのである。
しかし実際には、中国のクリーン技術開発における成功が気候変動に対するより希望に満ちた解決策を示したという考えは誤りである。中国の動向は脱炭素化に向けた大きな可能性を示す一方で、その実現には大きな障壁も存在している。これは、多くの人々が漠然と望む「温暖化抑制の最良シナリオ」が、実現不可能な道筋にあることを如実に物語っている。同時に、中国の抑圧的な統治体制と不透明な資本主義は、より公平で公正なエネルギー転換の実現に際しては、実際のところ大きな課題を投げかけているのである。
結局のところ、中国の政策は、地球温暖化が2~3℃上昇した世界で、エネルギー分野をはじめとする先進技術を中国産業が支配することを目指していると言えるだろう。気候変動の影響を考慮しつつも、その影響を最小限に抑えるために、最も効果的な手段を追求する多くの功利主義的気候思想家たちが、中国を太陽光発電・蓄電池設備の世界的製造拠点として歓迎している一方で、主だった気候変動対策組織が2~3℃上昇する未来を成功と認めるような状況を想像するのは難しい。
言い換えれば、気候運動がいやいやながらも自らの掲げる価値観を放棄し、中国の太陽光パネルや電気自動車を無差別に貪り食うことに何の得もない。気候変動のアドボカシーたちが中国、米国、ロシア、そしてインドやインドネシアのような発展途上国に対し、2℃を大幅に下回る温暖化抑制経路へと強引に導こうとする継続的な努力は、成功の見込みが疑わしいだけでなく、中国が、解決策を提供するよりもむしろ障害となることを肝に銘じる必要がある。より現実に即して言えば、世界の温暖化が2~3℃に向かう可能性が高いならば、気候移行における中国の役割に関する議論は、今そして将来にわたって世界中の人々にとってより良く、より公平な成果を確実に得ることに、正しく焦点を移して行わなければならない。
中国と気候変動に関する議論がより重要になるべき6つの主な理由は以下の通りである。
1. 全世界的な景気後退とクリーン技術サプライチェーンの中国集中により、正当か否かは別として1.5℃目標はもはや達成不可能となった
気候運動は、2100年までに地球温暖化を1.5℃以内に抑えるため、国際的な協力を常々呼びかけてきた。一方でこうした大胆な取り組みが問題を引き起こす可能性があることを認識し、気候変動のアドボカシーらや政策立案者たちは「誰一人取り残さない」公正な気候変動への転換も求めてきた。
1.5℃目標は、私たちが生きる世界においてもはや現実的ではない。2025年初頭から数えて、温暖化を1.5℃以下に抑える可能性が五分五分となるためには、人類のCO2排出量は1300億トンを超えてはならない。だが2023年、世界は化石燃料と工業プロセスから約380億トンのCO2を排出した。たとえ中国政府の現行公約を大胆かつ着実に実行し、2023年の119億トンから2060年までにゼロへ直線的に削減できたとしても、中国単独の排出量だけでこの残余枠は2039年末までに使い果たされるであろう。つまり、温室効果ガスに対する気候変動への対応策が驚くほど順調に進むか、大規模な人為的地球工学や炭素除去技術が導入されない限り、1.5℃という具体的な気候目標はもはや達成不可能なのである。
気候運動にとって次に望ましい結果は、化石燃料からの移行を可能な限り迅速に進めることであり、しかも理想的にはいかなる集団にも不均衡な被害を強いることなく実現することである。ここでもまた、現在の地球規模の状況では、クリーンエネルギーと気候対策の推進者たちに困難なジレンマが強いられている。非倫理的なクリーン技術サプライチェーンが不透明な中国産業ネットワークに集中している現状は、環境保護団体に「可能な限り迅速なCO2削減」と「社会的説明責任の慎重な履行」のトレードオフを迫ると同時に、複雑な地政学的緊張を巧みに回避する必要も生じさせているのである。
2. 中国の産業力は、他の分野では急速に進展しているにもかかわらず、気候変動対策における主要分野では進展を阻んでいる
中国政府の政策と産業界の取り組みは、太陽光・風力エネルギー、電池、電気自動車を広く実用可能な技術として確立する上で、また将来の電力・交通輸送分野を構築する基盤技術を確立する上で、疑いなく貢献している。一方で、中国産業の他の分野は世界の脱炭素化に取って大きな障害となっている。鉄鋼、アルミニウム、ガラスから、電池用グラファイト、炭化カルシウム、塩化ビニル(PVC)といったより知名度の低いものに至るまで、安価な石炭エネルギーを活用した中国の大量生産は、国内外を問わず代替手法の模索を阻害してきた。
これらのアップストリーム(原材料分野)における既存企業の優位性は、他国が自国の太陽電池・電池製造基盤を構築したり、よりクリーンな製造プラントの事業性を立証したりすることを困難にし、ダウンストリーム(製造分野など)におけるクリーン技術分野での大量生産技術の普及を阻害している。同様に、中国の積極的な重商主義や、電池・グラファイト製造プロセスなどのノウハウに対する輸出規制も、こうした技術普及を遅らせている要因となっている。
しかしながら、これらの課題は決して克服不可能なものではなく、次世代の研究開発、政策転換、そして中国内外におけるクリーンエネルギーへの継続的な取り組みによって、長期的には解決されるかもしれない。ただ現時点では、こうした重工業と製造業をめぐる摩擦が、気候変動問題と貿易問題の両面で各国が中国と交渉する姿勢に影響を与え続けている。中国においては、低炭素技術・産業と炭素集約型技術・産業の両方において、あらゆる巨大な数値が同居しており、その両方がともに真実である。太陽光パネルや電気自動車の動向に過度に注目するのではなく、より広い視野を保つことが引き続き重要である。
3. 気候パートナーシップが中国と米国、その他の国々の間の緊張を緩和できるという考えは、これまでずっと夢物語に過ぎなかった
長年にわたり、世界中の環境活動家、学者、政治家は、気候変動のような共通の問題に対する共同の取り組みが、米中間の高まる緊張を和らげるかもしれないと期待してきた。しかし、気候変動分野での協力が米中対立を緩和するという理論は、そもそも成立し得ないものだった。政治学者マイケル・マザールが昨年発表した論文では、米中のような大国間の対立が歴史的に解決されてきた方法―戦争、政治的不安定や革命、従属、あるいは戦略的同盟の再構築―について考察している。そしてマザール自身、より大きな環境脅威への対処として同盟関係が再構築されれば、双方が対立を乗り越えるきっかけとなるかもしれないという希望を述べていた。
しかし今日、トランプ政権下のアメリカが気候変動協力を通じて北京に和解の手を差し伸べるなど、想像するだけでも滑稽だ。同時に、中国の新たな気候目標が期待外れであること、そして前述の炭素排出量の計算から、中国の政策立案者たちが1.5℃目標に近づくことなど全く意図しておらず、急速な脱炭素化よりも成長を優先し続けていることは明らかだ。トランプ批判が流行しているとはいえ、より冷静に認識すべきは、米国政府が変わったとしても、いずれにせよ中国政府も、気候変動を、米中協力を促すほどの実存的脅威とは見なさないだろうという点だ。中国も米国も政策立案者は、自国がある程度の地球温暖化に耐えられると確信している可能性が高い。中国における長期的な国家インフラ事業—中国南方地域の水を北方地域に送り慢性的な水不足を解消するプロジェクトや、北部の砂漠化拡大を防ぐための植生による「緑の万里の長城」など—は、北京当局が気候適応策に一定の信頼を置いていることを示している。自然災害や熱波に比べ、中国と米国政府は、潜在的な経済的・軍事的紛争がもたらす混乱のリスクをはるかに重大な脅威と見なしているようだ。
現在の状況が求めるのは、気候行動を可能にする友好的な国際関係への空しい期待ではなく、むしろ敵対的な関係下でも生き残れる強靭な気候政策理論である。中国の気候政策を長年観察してきたラウリ・ミルリヴィルタは数年前に、競争そのものがクリーン技術と関連政策支援の進展をより加速させ得ると述べていた。実際、米国のNGOや業界団体が今年、国内のエネルギー革新補助金を一部維持することに一定の成功を収めた背景には、中国との競争が根拠となるという主張が大きく影響を及ぼした。ともあれ、こうした地政学的競争の雰囲気は理想的な状況とは程遠いものの、近い将来に消え去ることはないだろう。
4. 将来のエネルギーシステムを掌握することの地政学的な重要性を鑑みると、技術的・産業的競争は不可避である
多くの人が太陽光発電と蓄電池技術が世界を再構築するものだと熱心に信じているが、その世界を変える技術をめぐって各国が貿易紛争を始めると、ただただ落胆するばかりである。手頃な価格のエネルギーは、国の先端産業や経済活動全般の競争力を大きく強化するものだ。クリーンエネルギーへの移行が突きつける課題は、移行過程そのものと、想定されるクリーンエネルギーの未来の両方において、政府がいかに経済的立場を維持・向上させることが可能かという点に大きくかかっている。
太陽電池用ポリシリコンや電池化学薬品の製造能力は、エネルギーシステムの中核技術を掌握するだけでなく、化学気相蒸着(CVD)や バッテリーセル集合体の組立といった関連産業技術に依存する半導体チップ製造や軍用ドローンなどの分野でさらなる利益をもたらす可能性を秘めている。一方、自動車産業は、その経済的影響力、雇用創出能力、製造業全体への技術的波及効果を認められてきたことから、世界的に強力な国家支援と保護をこれまで享受してきた。同時に、電気自動車は多くの導入国に石油輸入依存を軽減する魅力的な可能性を提供している。
政府が自国の新興クリーン技術産業を積極的に保護・育成し、関連する知的財産を管理することには、多くの合理的な正当性がある。こうした世の中の動きから導かれる現実的な結論は、気候変動対策は利他的な協力を無駄に期待するのではなく、重商主義的な戦略的駆け引きの中で、とにもかくにも前進させねばならないということである。
5. 不透明な中国のサプライチェーンは、クリーンエネルギーと自動車技術における「サプライチェーンの公正性」に深刻な問題をもたらしている
環境団体が、目に見えて明らかな問題を無視しながら採掘・精錬・再生可能エネルギーや電気自動車の製造の改善を推進できると考えているなら、それは重大な誤りである。世界的に見て、多くの非倫理的なサプライチェーンが、責任追及から逃れるための主たる避難場所として中国を利用している。
中国の電気自動車や風力タービンの磁気ドライブには、紛争が続くミャンマー産のレアアース鉱石が使用されている。労働権利監視団体は、インドネシアのニッケル精錬所からブラジルにおけるBYD工場プロジェクトに至るまで、海外で働く中国人労働者への虐待を指摘している。新疆ウイグル自治区における太陽電池用ポリシリコン・冶金シリコン・アルミニウム生産には、国家主導のウイグル人強制労働プログラムへの関与疑惑が付きまとい、同地域の農業・繊維・工業部門全体への監視強化と相まって問題視されている。多くのクリーンエネルギー評論家が中国政府報道官のように強制労働リスクを無視する姿勢を見せる一方、中国国内におけるより広範な労働搾取問題(東北部における北朝鮮移民労働者の建設・衣料・水産・電子産業などの強制的搾取を含む)を浮き彫りにする多くの報道が存在する。カナダやポーランドで鉱山の崩落事故が発生し40名の労働者が死亡すれば数週間にわたり国内の主要ニュースとなるが、中国で同規模の鉱山・産業事故が発生しても、メディアの注目はすぐに薄れてしまう。
気候活動家は、チリやブラジルだけでなく、中国におけるリチウム採掘やアルミ精錬についても、優れた環境・労働慣行を主張しなければならない。しかし、サプライチェーンの環境・労務問題に関する研究は、中国に関する事例研究を黙認するか、あるいは明示的に排除することが多い。こうした選択的な沈黙は、ほとんどのNGOの批判から逃れ、中国を経由するサプライチェーンの継続的な発展を助長するだけである。言うまでもなく、環境保護団体がイーロン・マスクの政治観に反対してテスラを敬遠したり、コンゴ民主共和国産のバッテリー用コバルトの厳格な追跡と説明責任を要求したりしているならば、気候変動対策も同様に中国のサプライチェーンを精査すべきである。虐待的な労働慣行や強制労働は、決して容認できるものではない。ソーラーパネルや電気自動車も例外ではないのである。
もちろん、今日クリーン技術を最も効率的に生産できる工場は、既に稼働している工場である。政策の目的は、単に非倫理的な生産を市場から排除することではなく、それらの企業の実践に変化を促す努力を伴うべきである。目標は、コンプライアンスへの道筋を提供する責任ある調達基準を確立することにある。そして同時に、問題のある製造業者がコンプライアンスの順守を拒否した場合、取引を打ち切り代替サプライヤーから調達するという確固たる決意が、こうした取り組みには不可欠である。
6.世界中のクリーン技術という卵の大半を、一国が保持するひとつのカゴに置くことはできない
そもそも世界は、責任ある形で競争力のある代替クリーン技術生産を確立しなければならない。第一に、これは前述の通りサプライチェーンの公正性実現に不可欠である。第二に、グローバルに多様化したクリーン技術サプライチェーンは、脱炭素化の取り組みが経済的・災害的・地政学的リスクに晒される可能性を低減する。第三に、クリーン技術革新と製造のグローバルな多様化は専門知識と問題解決の取り組みを普及させ、エネルギー転換全体を強化する可能性が高い。
気候変動抑制の取り組みが重要である以上、世界のソーラーウェハー製造の95%以上、バッテリーセル製造の90%、永久磁石製造の90%以上が一国に集中し続けることは無謀な行為である。一国によるこうしたサプライチェーン支配は、将来のエネルギー政策を立案する他国にとっても懸念材料となる。地域のエネルギーシステムをクリーンエネルギー源へ転換するプロセスは繊細である。政府はサプライチェーンの混乱によって中途半端な状態に陥り、不安定な貿易と重なる可能性のある高騰した天然ガス価格といったリスクにさらされる危険性を考慮しなければならない。本質的に、政策立案者は「移行の安全性」を考慮する必要があるのだ。
最終的には、太陽光パネル、電気自動車、水素電解装置の製造が広く分散され、全世界で進展している状態こそが、健全なエネルギー転換の証である。もしこうした技術が単一の国以外では採算が取れない状況であるなら、それは重大な歪みが存在するか、さらなる努力と進展が必要であることを示している。
エネルギー転換の道徳の弧
これらの問題を結びつける共通要素は、現代中国が気候変動問題の解決策について提示するよりも、より困難な課題を浮き彫りにしているということである。
中国のクリーン技術製造と導入の規模に対する畏敬の念は、おそらく世界的な脱炭素化の取り組みを阻む諸課題を強く反映している。長年掲げられてきた気候目標は手の届かないところへ遠ざかってしまった。太陽光発電が電力供給に革命をもたらす可能性については議論の余地があるが、環境に優しい肥料やプラスチックがすでに手に入るという幻想を抱ける者はほぼいない。ある国ではソーラーウェハーの切断技術を実用化したが、他の国々はそれに追随するのに苦戦している。地政学的緊張と紛争が再び激化し、脆弱な技術サプライチェーンを脅かしている。
環境活動家たちは例えば屋根全体に太陽光パネルを設置するよう命じる権限を夢見るかもしれないが、そうした空想は、グランドキャニオンにダムを建設して水力発電を行うことや、手つかずのスカンジナビアのフィヨルドを掘り下げて銅を採掘するといったことと同様な問題を引き起こすことを見落としている。もちろんのこと、ほとんどの環境保護団体や政策決定者は、無慈悲な功利主義者などではなく、公平性と良識を大切にしてはいる。
中国国内に自由な市民社会が存在しない状況下においても、学者や各国政府、さらには一部の環境団体が、中国のエネルギー・環境政策に対する批判的フィードバックを提供し、研究を通じて中国エリート層に圧力をかけることで、一定の進展を促してきてはいる。しかし中国の政策枠組みに対しては、海外で活動する人々の連携が必要である。中国国家と産業が汚染、労働不正、人権侵害に対して責任を負うよう追及するためだ。世界のクリーン技術サプライチェーンの中心部の醜悪さを意図的に無視しようとする「正義ある気候変動対策」は、必然的に失敗するだろう。
結局のところ、世界の人々は2030年までに導入される風力・太陽光発電のギガワット数や、2050年までの年間CO2排出量、さらには2100年までの地球温暖化度数といった狭い目標を追求しているわけではない。気候変動緩和の究極の目標は、可能な限り最良の人類の未来、理想的には公平で公正、自由で繁栄した未来を実現することにある。そのためには、異論を許さない支配を優先させるような如何なる独裁政権についても、その存在自体が、この取り組みの精神に明らかに反しているという認識を踏まえて行動する必要がある。














