放射線廃棄物の処理処分は循環型社会の活動。
できる・できないではなく義務のようなもの(前編)


東京大学名誉教授、前・内閣府原子力委員会委員長

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放射性廃棄物について、処分場がないとの意見を聞くことがある、しかし、果たしてそうだろうか?1970年代に、ごみの処分場がなかったために、最終処分場を抱える江東区と、清掃工場建設を拒否した杉並区が対立し、東京ゴミ戦争と呼ばれ世間を騒がせた。しかし、その後、多くの区に清掃工場が作られ、燃えないゴミの埋め立ても行われており、大騒ぎだったことを知る人々は現在では少ない。杉並区の清掃工場は数年前に建て替わったが、話題にもならなかった。放射性廃棄物に限らず、生活や産業活動に伴って、廃棄物は発生する。廃棄物のリサイクルと処分は循環型社会の活動である。放射性廃棄物は産業廃棄物の一形態であり、その処理処分は、できる・できないではなく、循環型社会における義務のようなものではないだろうか?欧米では原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物処理処分が進展している。

1.循環型社会と廃棄物

我々の生活や社会活動は、資源を利用し、製品やエネルギーや食料を生産・消費している。廃棄物も発生する。我が国における物質フローを図1に示す。資源は国内外のものだけではなく、発生した廃棄物を処理して循環利用しているものがある。作られた製品は輸出されるほか、土木構造物、建築物、自動車などの耐久財として国内に蓄積される。電力生産や輸送や製鉄、セメント、食料として消費されるものもある。発生した廃棄物は、減量化され、そのごく一部【2.3%】が最終処分される。施肥として自然還元されるものもある。循環利用量は年々増加し、2022年度の最終処分量は2000年度の約5分の1である。

図1 我が国における物質フロー
出典:令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第2部第3章 循環型社会の形成、環境省

廃棄物は一般廃棄物と産業廃棄物に区分される。一般廃棄物は市町村に処理責任があり、産業廃棄物は事業者に処理責任がある。一般廃棄物の排出量は総排出量、一人当たりの排出量とも、2000年ごろをピークに2割以上減少している。一般廃棄物は焼却などの中間処理により約7割が減量化されている。資源化量は約2割で、約1割が最終処分されている。産業廃棄物は一般廃棄物の約10倍発生しており、近年その総量はほとんど変わっていない。産業廃棄物は中間処理による減量が約43.4%、再生利用量は約54.2%、最終処分量は約2.4%である。再生利用される割合が大きい。最終処分場の残余年数は、一般廃棄物が約25年、産業廃棄物は約20年で、最近は残余年数が少し伸びている。最終処分場を持っていない市町村も約17%あり、民間の最終処分場に埋め立てを委託している(参考資料1)。

2.東京ゴミ戦争

昭和の高度成長期には、東京ではごみが急増し、未処理のまま埋め立てられていた。ごみ収集車からは汚水が垂れ流され、ハエや蚊、悪臭などの対策は追い付かず。ごみの大半を受け入れていた江東区では、被害が深刻化した。東京都は区ごとに清掃工場を建てようと計画したが、工場建設が進まないことから、江東区はごみの受け入れを拒否し、激しく紛糾した。都は1966年に高井戸に杉並清掃工場建設を発表したが、建設反対期成同盟が発足し、都の測量隊の立ち入りを阻止した。建設候補地近くに住む社会派の作家が建設に反対して話題になったことがある。美濃部東京都知事が1971年に東京ゴミ戦争を宣言した。その翌年末から、複数回にわたって、江東区が杉並区のごみ搬入を阻止した。反対運動は全国的に注目を集めたが、1974年になって東京地方裁判所から和解勧告が出され、和解が成立した。1979年から清掃工場が建設され、1983年に本格稼働した。初代の工場は2012年にその役割を終え、建て替えられた工場は2017年から稼働している(参考資料2)。

3.原子力施設の廃止措置と廃棄物

役割を終えた工場やビル、機器、配管などは解体され、産業廃棄物として処理され、再利用と処分がなされている。原子力施設についても、役割を終えると、廃止措置と廃棄物処理処分を行う必要がある。原子力施設の廃止措置は、わが国では、原子力発電所の廃止措置、研究用原子炉など研究開発施設の廃止措置、東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置がある。米国、英国、フランスなどの核兵器国では、原子力発電所と研究開発施設の廃止措置に加えて、核兵器用プルトニウムの生産に使われた核開発施設や、退役した原子力潜水艦の廃止措置がある。

原子力施設の廃止措置に伴って排出される廃棄物は、非放射性の産業廃棄物が大部分である。放射性のものは、その程度に応じて、低レベル放射性廃棄物、高レベル放射性廃棄物などに分類される。高レベル放射性廃棄物は使用済み燃料や、使用済み燃料を化学処理してプルトニウムを取り出した残りの廃液やそれを固化したものである。

原子力施設の廃止措置は発生する廃棄物の処理処分と一体である。廃止措置で発生する廃棄物の行先が決まらないと、廃止措置を円滑に進めることはできない。行先は最終処分場である必要は必ずしもない。使用済み燃料を最終処分するまで貯蔵する中間貯蔵も行われている。原子力開発と利用で先行した欧米諸国では、原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物の処理処分が進んでいる。米国と英国とフランス、スウェーデン、フィンランドと日本の例を紹介する(参考資料1)。

3.1 米国の原子力施設の廃止措置と廃棄物の処理処分

米国の民間の原子力発電所は停止後60年以内に廃止措置を終了することが求められている、その許認可は原子力規制委員会の所掌である。廃止措置の方法は即時解体(DECON)と安全貯蔵(SAFSTOR)を選択できる。前者は施設閉鎖後すぐ、機器や施設を除染・解体する方法で、終了すると原子力規制から解放される。米国では必ずしも発電していた会社が廃止措置も行っているわけではなく、廃止措置を専門に請け負う企業がある。米国の高レベル放射性廃棄物処分場はまだ稼働していないので、使用済み燃料を貯蔵容器に入れて、発電所サイトの一部に置く施設が残っている場合が多い。対策として、別の場所に民間の統合中間貯蔵施設を作る計画が進行している。安全貯蔵は遅延解体とも呼ばれ、放射性物質が減衰するまで原子炉施設を管理し、その後解体・除染を行う方式である。初期の発電炉で、安全貯蔵を選択しているものがある。原子力発電所の廃止措置に伴って発生する非放射性の産業廃棄物は州の処分場に処分される。低レベル放射性廃棄物は全米4か所にある民間の処分場に処分される。

米国など核兵器国には、この他に、核兵器関連施設の廃止措置がある。米国の核兵器開発は、エネルギー省が管轄する国立研究所で行われていた。ワシントン州ハンフォードでは、プルトニウム生産用原子炉で、照射したウラン燃料を硝酸で溶解して、プルトニウムを取り出す作業(再処理と呼ぶ)が第2次大戦中より行われた。廃液を貯蔵したタンクが、長年の間に腐食し、土壌汚染を引き起こし、コロンビア川の汚染が懸念され問題になったことがある。1989年にエネルギー省と環境保護庁と地元との間で協定が結ばれ、エネルギー省は環境管理課を作って、環境修復を行った。数基あったプルトニウム生産用原子炉は除染され大部分は解体された、密閉管理(ENTOMB)されているものもある。密閉管理は施設をコンクリートのような耐久性のある材料で覆い、放射性物質が許容レベル以下に減衰するまで管理する方法である。土壌汚染も処理されている。

全米で廃止措置と環境回復の対象は、最初は31州にまたがり107か所あり、広大だったが、この30年間に多くのサイトで完了し、残りの10数サイトで作業が続いている。全体の必要費用は2000-3000億ドルで75年計画である。予算は毎年60億ドル程度で、長期間にわたって巨額の予算が安定的に手当てされている。なお、エネルギー省の施設の安全規制はエネルギー省自身が行い、原子力規制委員会は担当していない。米国の行政活動検査院(GAO: Government Accountability Office)はエネルギー省の廃止措置、放射性廃棄物、環境クリーンアップなどについて報告書を出している、勧告も行っている、GAOの報告書は連邦議会で参照され、担当省庁の予算や人員に反映される。

3.2 英国の原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物の処理処分

米国や日本で原子力発電をおこなっている電力会社は民間企業であるが、英国では電力市場が自由化された1990年までは、国が電力の供給、発電用原子炉の開発などを行っていた。英国は核兵器用のプルトニウムを生産する原子炉をもとに、発電用原子炉を開発した。コールダーホール型と呼ばれる第一世代炉と、改良型ガス炉と呼ばれる第2世代炉がある。現在は、第一世代炉はすべて停止し、第2世代炉は、一部が停止し廃止措置に移行したが、現在も多くが発電に使われている。運転を行っているのはEDFエネルギー(フランスの国有電力会社EDFの完全子会社)である。これらの英国の発電用原子炉は黒鉛を原子炉材料に用いている。運転中に黒鉛中の不純物が放射化し、中レベル放射性廃棄物になる。放射化した物質の減衰を待つために、遅延解体が英国では選択されている。すなわち、停止した発電用原子炉から、使用済み燃料を搬出し、非放射性廃棄物や低レベル放射性廃棄物として廃止措置を進められる建物・設備を解体し、残りの中レベル放射性廃棄物である黒鉛が収められている原子炉容器を含む原子炉建屋は、長期間の貯蔵ができるように作業を行い、約60年間安全貯蔵し、原子炉の解体を停止後約80年目からスタートさせる計画である。

英国の原子力施設の廃止措置は、2005年に作られたNDA(Nuclear Decommissioning Authority)が一元的に行っている。NDAは廃止措置とサイトの環境回復のみならず、使用済み燃料、ウランやプルトニウムのなどの核物質管理、放射性廃棄物の処理処分も担当している。高レベル放射性廃棄物地層処分の担当機関であるRWM (Radioactive Waste Management)もNDAの傘下にある。NDAは5年ごとに戦略を作成し、パブリックコメントを経て公開している。戦略から事業計画が作られ、半年と年度の報告書が作られている。長期間にわたる廃止措置の進捗を簡潔に記載した報告書も公開されている。

英国は、高レベル放射性廃棄物の地層処分場はまだないが、一般廃棄物・産業廃棄物や低レベル放射性廃棄物処分場は稼働しており、発電用原子炉と研究開発施設の廃止措置が進展している。図2に英国の廃止措置サイトと各サイトの廃止措置費用の割合を示す。

図2.英国の原子力廃止措置サイト
出典: Nuclear Provision: the cost of cleaning up Britain’s historic nuclear sites, July 4 2019

セラフィールドには、核兵器用のプルトニウムを生産するために1940年代に原子力施設が作られた。その後、プルトニウム生産用原子炉から取り出した燃料のみならず、第一世代炉のコールダーホール型原子炉の使用済み燃料、第2世代炉の改良ガス炉の使用済み燃料、欧州や日本の電力会社の軽水炉使用済み燃料を再処理(使用済み燃料棒を剪断し、核燃料を硝酸で溶解して、プルトニウムを取り出す化学処理)するための核燃料再処理プラントが次々につくられた。これらは、現在すべて廃止措置中である。スコットランド北端のドーンレイでは、1950年代から高速増殖炉の開発が行われた。高速増殖炉燃料の再処理も行われた。これらの施設の廃止措置が進行している。2019年の報告書によると、廃止措置費用は、セラフィールドが75.6%、地層処分が8.3%、ドーンレイが2.2%と大きい、図2のそのほかの多数の地点は、主に第一世代のマグノックス炉の廃止措置が行われているサイトである。廃止措置費用の100年間の毎年の見込み額も公表されている。英国の会計検査院(NAO)と英国議会は廃止措置の実行状況や予算を継続的に監視し、報告書を公表している。

英国の低レベル放射性廃棄物処分場はセラフィールドの近くのドリッグと、スコットランド北端のドーンレイにあり、処分が行われている。英国は高レベル放射性廃棄物を含め既存の処分場に処分できない廃棄物は地層処分する方針である。地層処分担当機関のRWMが処分場立地のための活動を行っている。英国の地下2000mまでの地層データが、全国の13地域についてまとめられ、英国地質調査所から公開されている。英国の地層処分場の選定プロセスは、地元の主体的な参加と地域のパートナーシップを重視した公募方式である。2000年代にカンブリア州の2つの市が関心を表明し、地質のスクリーニングが行われたが、州議会が次の段階に進むことに反対して、2013年にサイト選定プロセスから撤退した。現在は2014年の白書に基づいて、サイト選定プロセスが再度進行している。英国の会計検査院は原子力施設の廃止措置や放射性廃棄物処分について報告書をいくつも出している。

参考資料

1.
岡 芳明「原子力発電と社会、第3章 原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物」AMAZON, 2024年3月
2.
杉並区「東京ゴミ戦争」https://www.city.suginami.tokyo.jp/s007/10582.html

※(後編)に続く