気候変動対策は史上最大の詐欺である(その1)


筑波大学名誉教授

印刷用ページ

地球温暖化など起きていない

2025年9月23日に行われた国連総会の一般討論演説で、トランプ米大統領は「地球温暖化など起きていない」、気候変動対策は「史上最大の詐欺」だと述べた。地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱方針を正当化し、「グリーン詐欺から手を引かなければあなたたちの国は破綻する」と訴えた。この国連総会では、乗りかけたエスカレータが突然止まり、演説に使うプロンプターが作動しないなど、嫌がらせと考えられる対応が続き、トランプ大統領はお冠であった。そのため15分の演説が1時間に伸び、トランプ大統領の頭の中にある脱炭素政策に対する本音をたっぷりと聞くことができた。

以下は演説内容の抜粋である(一部意訳)。

「気温が上がろうが下がろうが、何が起ころうがそれは地球温暖化が原因だそうだ。私に言わせればこれは世界史上最大の詐欺行為だ。地球温暖化問題は悪意ある人々によるでっち上げであり、彼らは破滅への道を突き進んでいる。ご存じの通りCO2の排出はかつて非常に大きな問題だった。ヨーロッパは膨大な費用をかけてCO2排出量を37%削減した。ヨーロッパよくやった。おめでとう。多くの雇用が失われ、多くの工場が閉鎖されたが、CO2排出量は37%削減できた。しかし、これだけの犠牲を払ったにも関わらず、削減の効果は完全に消滅し、世界のCO2排出量は54%も増加した。多くの国々はCO2排出削減に熱心に取り組んでいるが、それはナンセンスだ。面白いことに、米国にはまだ過激な環境保護主義者がいて、すべての工場の閉鎖と停止を望んでいる。彼らはメタンを吐く牛はもう要らないので牛は皆殺しにする、などと信じられないことを望んでいる。こうした残酷なグリーンエネルギー政策の主な効果は環境保護ではなく、先進国の製造業と産業活動を発展途上国に再配分することである。そしてルールを守らない「汚染国」を大儲けさせているのだ。」
勿論、汚染国とは中国のことである。

トランプ大統領が「地球温暖化など起きていない」と言うと、多くの視聴者は科学を無視したとんでもない大統領だと思うであろう。だが、この言い回しは実に巧妙で正しい表現である。地球温暖化とは人為起源の温室効果ガスの増加によって起こる温暖化というのが気候変動枠組み条約での定義である。よって近年、温暖化は確かに起こっているが、その大半は自然変動なので、定義により「地球温暖化など起きていない」となるのだ。ここで自然変動とは、人為的CO2の増加がなくても生じる地球流体の変動を示す。最近は、地球温暖化とは言わずに気候変動という用語が用いられるようになった。それは温暖化の原因に自然変動が含まれることを意味している。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、近年の温暖化が人為起源で生じている事に「疑う余地はない」と述べているが、自然変動の割合は1割程度であり大半が人為起源である、という意味が込められている。ここにトランプ大統領との認識のずれがあり、温暖化の大半が自然変動によるものであると考える懐疑論者からすれば、「地球温暖化はでっち上げだ」という表現になり、両者がぶつかることになる。温暖化の原因を自然変動と人為起源に分離することは極めて困難であり、その割合は解っていない。

トランプ政権は、バイデン政権時代の脱炭素を最優先する「グリーンニューディール」というエネルギー政策を全否定した。豊富で安価な化石燃料を「掘って掘って掘りまくれ」と言い、新たな方針で経済成長と安全保障を達成する「エネルギードミナンス」という方針に大きく舵を切った。日本では参政党と日本保守党が脱・脱炭素を打ち出し、トランプ大統領の方針に同調しているが、自民党をはじめとするすべての他党はバイデンの脱炭素路線を踏襲している。その理由にはIPCCによる1.5℃目標がある。このまま温暖化が進むと、もう戻れないティッピングポイントを超えて温暖化が暴走し、コントロールの効かない灼熱地獄が待ち構えていると、環境原理主義者が人々を脅しているからである。しかし、恐竜が繁栄した約2億年前は今より13℃も気温が高かったが、気温が暴走することはなかった。地球温暖化が1.5℃を超えると暴走する、などという説明は脅しである。

よってトランプ大統領が「エネルギードミナンス」を達成するためには、この不安を解消する科学的根拠と法律改正が必要なのだ。そのためクリス・ライトエネルギー長官は、脱・脱炭素法案の手始めにCO2は有害ガスのひとつであるという2009年の環境保護庁による「危険性認定」の無効化を試みている。その科学的根拠として、5名の著名な科学者による気候作業部会報告書「温室効果ガス排出の米国の気候に与える影響に関する批判的評価」を公開した。リー・ゼルディン環境保護長官は、これは「米国史上最大の規制緩和」であり、1兆ドル(約150兆円)の経済効果が見込めるとした。日本もこれに倣うべきだ。すなわち10年で150兆円のグリーントランスフォーメーション(GX)投資をするという脱炭素の政府計画を完全に廃止することで、経済効果150兆円の規制緩和を実現すべきである。

トランプ大統領が脱・脱炭素政策を推進するためには、近年の温暖化は自然変動で生じており、CO2の増加が原因ではないことを科学的に示す必要がある。IPCCは、近年の温暖化が人為起源で生じていることはもはや「疑う余地がない」と言っているが、これは本当だろうか。科学者の97%が是と信じるらしいこの認識を反転させる必要がある。IPCCの1.5℃目標が達成できないと、灼熱地獄へ落ちるとの恐怖を煽り、人々を幼少期から洗脳している。脱炭素は世界の潮流であり、SDGsの名の下に国際政治の中心課題となっている。環境保護の法律ができて脱炭素に向けた再エネ投資やEV自動車の普及のために法外の資金援助が行われている。政治、メディア、学術、企業が税金を原資に潤うこの体制はまさに温暖化ディープステートであり、これを打ち崩すのは容易でない。一部にぼろ儲けしている人がいる。しかしトランプ大統領はそれを成し遂げようとしているのである。本稿ではその一助として、近年の温暖化の大半は自然変動であるとの科学的研究成果を紹介したい。

温暖化の大半は自然変動である

1988年にIPCCが立ち上がる頃、筆者はコロラドで開催されたCSMI第1回研究集会 (Climate System Modeling Initiative)にアラスカ大学地球物理学研究所の大気部門を代表して参加していた(田中 1989)。東西冷戦が終結し、政府の巨額予算が地球温暖化対策に流れて来ることが話題になっていた。衛星から見た地球の雲画像に「Global Change」と書かれた表紙のパンフレットが生々しかった。会議では気候モデルを用いた研究方針が議論され、1989年に1339億ドルの予算を1990年には1905億ドルに増額するとの方針が示された。当時開発中の12種類の気候モデルを相互に比較すると、晴天放射過程では一致する気候値が、雲の放射過程を導入した途端に大きくバラケる実態が示された。気候モデルが包含する雲などの諸問題を解決し、今後5年から50年先を対象とした気候モデル開発に一層の増強を図ることが確認された。これがIPCCの拠り所となる気候モデル開発と相互比較 (MIP) の始まりである。

1997年アラスカ大学構内に国際北極圏研究センター(IARC)が日米共同出資により建設され、地球物理学研究所長の赤祖父俊一教授がIARC初代センター長に就任した。北極圏では全球平均の2倍のスピードで温暖化が進んでいる。北極圏のアイス・アルベドフィードバックがCO2による温暖化を増強しているとのコンセンサスが形成されていた。人為起源のCO2の増加で地球温暖化が生じているという前提で研究費の予算配分がなされ、その一環でIARCも設立されたと理解している。観測研究に予算が配分される一方で、気候モデルによる将来予測が先端スパコンを用いて推進された。まず全球平均の2倍の速さで極域が温暖化する実態を気候モデルで再現することが課題であった。

IARCが設立される前の1995年と後の2001年に、赤祖父氏の主導で北極圏の温暖化に関する和達国際会議を2度開催し、その後も極域気候変動国際会議GCCAを7回開催した。筆者は赤祖父氏による温暖化研究の実働部隊として研究に励んでいた。国際協力の下で気候研究が推進されるなかで、2009年にはClimate Gate 事件が起こり、懐疑論が持ち上がった。マイク・マンのホッケースティック図がIPCC-AR3報告の目玉として掲載されると、賛否両論が寄せられるようになった。

そのころ、北極温暖化研究にもっと予算が必要であると積極的に動いていた赤祖父氏が、温暖化はCO2でなく自然変動で生じているという主張を開始し、懐疑派の筆頭のひとりに立つようになった(赤祖父 2008)。赤祖父氏は米国議会の公聴会で、温暖化の空間分布が観測と気候モデルで違うことに注目し、モデルの将来予測に対する不信感を説明していた。温暖化は人為起源でなく自然変動が原因との理解にたどり着いていた。この件を受けて筆者は2010年に、北極圏の温暖化の主成分分析を行った研究結果を論文で紹介している(Ohashi and Tanaka 2010)。1970年代から2000年代にかけて温暖化が急激に進行したが、その気温の観測データの第1主成分はシベリアと北米で温暖化しグリーンランドで寒冷化するパターンになる(図1右)。これは筆者が専門とする北極振動と呼ばれる自然変動のパターンである。一方で気候モデルによる過去の再現実験の気温データの第1主成分は北極圏で一様に温暖化するアイス・アルベドフィードバックパターンであった(図1左)。そして第2主成分に観測データと同じ北極振動パターンが得られた(図1中)。この結果はとても重要な意味を持っている。つまり現実大気の1970-2000年の急激な温暖化は、自然変動である北極振動で生じているのに対し、気候モデルは、急激な温暖化を人為起源のCO2の増加によるアイス・アルベドフィードバックでチューニングして再現しているのだ。自然変動で生じている温暖化を、気候モデルではCO2の温室効果で再現している、という本質的な欠陥の証拠なのだ。最新の気候モデルは精緻化されていて、このような差異は見られないかもしれないが、開発当初のモデルだからこそ見えた特徴である。

ジョン・クリスティーの衛星計測による温暖化を気候モデル予測と比較すると、衛星計測では2000年から15年間、温暖化ハイエイタスが起こって温暖化が停滞している。一方で、気候モデルは地球温暖化を過大評価し、大きく上ずれを起こしてしまっている。100年で0.7℃というリニアーな温暖化に約60年周期の自然変動が加算的に加わり1970-2000では急激な温暖化が生じた。図1は、気候モデルがこの自然変動の部分までCO2の温室効果により過大にチューニングしてしまった証拠である。2000年以降は自然変動が逆符号で加算されたために温度上昇が止まり、ハイエイタスが生じたと考えられる。筆者はこの解析結果から、温暖化の半分は自然変動であると主張した。

赤祖父氏によると100年で0.7℃というリニアーな温暖化も1800年ころまで続いた小氷期からの戻りであり、リニアトレンドも自然変動となる。よって近年の温暖化の半分が自然変動という私の推論は塗り替えられ、温暖化の大半が自然変動であるという理解に達した。赤祖父氏によるとCO2による温暖化への貢献は1割程度とされる。近年の温暖化は、そのほとんどが人為起源で生じているというIPCCの説明の真逆である。

(その-2)に続く。