風力と太陽光が生む電力は、化石燃料を置き換えることはできない


室中技術士事務所 代表

印刷用ページ

本記事は、筆者と米国のプロフェッショナル・エンジニアであるロン・スタイン氏との共同執筆“Electricity generated from wind and solar cannot replace fossil fuels!”の概要です。この論文は、America Out Loud NEWSに掲載されました。

Electricity generated from wind and solar cannot replace fossil fuels! – America Out Loud News

概要

世界では「風力や太陽光が化石燃料を代替し、完全な脱炭素化を実現できる」という期待が広がっている。しかし、これは現実的ではない。風力と太陽光が供給できるのはあくまで電力(electricity)のみであり、現代文明を支える化石燃料の多面的な役割を置き換えることはできない。

電力だけに注目して「エネルギー全体を再エネで賄える」と誤認する議論は、政策判断を誤らせる深刻な要因となっている。

化石燃料は、単なる燃料ではなく、次の3つの役割を担う重要な資源である。

1.
電力(electricity)
2.
輸送用燃料(transportation fuels)
3.
6,000種類以上の製品原料(products)

医療機器や電子部品、肥料、衣類、包装材、化粧品、洗剤など、日常生活のあらゆる製品に石油由来素材が使われている。病院で使用される滅菌済みのプラスチック器具、農業で使われる窒素肥料、データセンターで稼働するサーバー機器なども化石燃料に依存している。

輸送分野では、10億台以上の自動車、数万隻の大型船舶、数万機の航空機が化石燃料由来の高エネルギー密度な燃料で動き、これらを代替できる再エネ技術は現時点で存在しない。特に長距離輸送や航空分野では、化石燃料の持つ高いエネルギー効率を代替できる実用的な選択肢が見つかっていない。

一方、風力と太陽光には大きな限界がある。発電は天候や昼夜に依存するため、安定したベースロード電源としては機能せず、化石燃料や原子力のバックアップが必要だ。電力貯蔵のための大規模バッテリーはコストが高く、製造段階で環境負荷も大きい。さらに、風力タービンや太陽光パネル、蓄電池の製造にはレアアース、銅、鉄鋼、アルミなどの大量の資源が必要であり、これらの採掘・精錬・輸送には化石燃料が不可欠だ。

したがって、再生可能電力は「完全にクリーン」とは言えず、そのLCA(ライフサイクルアセスメント)全体で見れば環境負荷を無視できない。

急進的なネットゼロ政策は深刻なリスクを伴う。ヨーロッパでは再エネ依存を急速に進めた結果、停電やエネルギー価格の高騰を招き、石炭火力の再稼働やLNG争奪戦に追い込まれた。発展途上国では、料理や暖房、輸送に安価で手に入りやすい化石燃料が生活を支えており、これを失えば貧困と健康被害が拡大するだろう。エネルギー価格の高騰は社会不安を引き起こし、経済全体の成長を阻害する要因にもなる。さらに、化石燃料への投資不足は電力インフラの脆弱化を招き、長期的には先進国でも電力供給不安を生む危険がある。

「エネルギー」という言葉が電力だけを指すように誤用されることが、こうした政策誤りを助長している。電力、輸送用燃料、製品原料はそれぞれ異なる役割を持ち、相互に代替できない。

真の持続可能性には、クリーンな化石燃料技術の改善、責任ある再エネ導入、必要に応じた原子力利用が求められる。炭素回収、水素、先進地熱なども補完的役割を果たすが、単独で問題を解決できる技術は存在せず、複合的で柔軟な戦略が必要だ。

結論として、風力と太陽光は電力供給の一部を担えるに過ぎず、化石燃料が提供する電力、輸送燃料、製品原料すべてを置き換えることは不可能である。感情論ではなく、事実と科学的理解に基づく「エネルギー・リテラシー」を社会全体で高め、政策決定を支えることが、安定し公正なエネルギー未来を築く鍵となる。