CO2濃度はどこで測っている


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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環境市場新聞 2025年夏季第81号季刊より転載

息の長いベストセラーに『南の島に雪が降る』(加東大介著ちくま文庫ほか)があります。第二世界大戦末期、ニューギニアでの兵士による劇団の活動を描いた作品です。飢えとマラリアに苦しむ戦地で、劇中に降る紙の雪を見た兵士が涙する話が記されていますが、実際の雪は南国でも降ることはあります。赤道直下のキリマンジャロは積雪していて、ハワイでも雪が降ります。

ハワイ島のマウナケア山は4000メートルを超える高山で、夏でも山頂の気温は5℃程度、冬には降雪します。山頂には日本の国立天文台のすばるやNASAなどの12の望遠鏡が置かれています。ここに天文台が集まる理由は、ハワイ島には産業活動がほぼなく、自動車の通行も少なく、空気が澄んでいるからです。

人為的活動が少ないことは二酸化炭素(CO2)の測定にも絶好の条件になります。自動車あるいは工場からの排気に含まれるCO2の影響を受けることなく自然界の濃度を計測できるため、マウナケア南側にあるマウナロア山にはアメリカ海岸大気庁の観測所が設置され大気の成分を計測しています。計測したCO2濃度は、世界の濃度の変化を示す指標として引用されるのが常です。

温室効果ガスと呼ばれる赤外線の一部を吸収する性質を持つ気体には、メタン(天然ガス成分です。牛のゲップもそうです)フロン類(冷媒で利用されていました)などがありますが、最大のガスは、主として化石燃料の燃焼に伴い排出されるCO2です。石炭、石油、天然ガスが依然として世界のエネルギー供給の8割を占めていて、その消費量と排出されるCO2は増える一方です。

気象庁も大船渡(綾里)と南鳥島でCO2濃度を計測しており、2025年3月発表の値はそれぞれ427.9ppmと425.7ppmでした。南極の氷に閉じ込められている空気の分析により産業革命前のCO2濃度は270~280ppmだったとわかっていますので、大きく上昇しています。CO2だけが地球を温暖化させているわけでもなく、さらに温暖化のメカニズムについてもわからないことがありますが、濃度を計測して整備することが重要であるのはいうまでもありません。

そんな中、報じられてたのはアメリカのトランプ政権が設置した政府効率化省による大気観測予算の削減です。トランプ氏は温暖化は発生していない、中国の詐欺だと主張していますのでCO2濃度測定の必要はないということでしょう。しかし、1958年以来継続されている観測データが途切れれば大きな損失です。アメリカ政府は予算を打ち切るでしょうか。