国内初の原子力リサイクル燃料貯蔵施設、RFS順調な出発


経済記者/情報サイト「withENERGY」(ウィズエナジー)を運営

印刷用ページ

 国内で初めてとなる使用済み原子力燃料の貯蔵施設(会社名:リサイクル燃料貯蔵株式会社、RFS)が、青森県むつ市で2024年11月に事業を開始した。そこを筆者は、25年4月に訪問した。施設は順調に、安全に運営されていた。停滞気味だった日本の原子力界で、久々の明るい話題だ。そして日本での原子力の活用を促進する重要な施設だ。

施設の全体像(リサイクル燃料貯蔵株式会社(RFS)提供)

施設完成で原子力発電の持続可能性が高まる

 この施設は、原子力発電所の敷地の外に初めて作られた使用済み原子力燃料の置き場で、「中間貯蔵施設」とも呼ばれる。原子力施設が集まる青森県下北半島の北部にある。RFSは東京電力ホールディングス(HD)、日本原電が出資し、これら2社の使用済み燃料の保管が事業の目的だ。昨年9月に東電の柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)から初の使用済み燃料が搬入され、昨年11月から保管が開始された。

 原子力では、2011年の福島原子力事故の後で新しい重要施設の稼働はなかった。このリサイクル燃料貯蔵施設は、新規制基準の施行後に初めて運用が開始される新施設だ。原子力燃料サイクル(核燃料サイクル)の一翼を担い、そして事業者の原子力発電の運用をより柔軟にし、持続可能性を高める重要な意味を持つ。

リサイクル燃料貯蔵株式会社(RFS)のビジターセンターの看板(筆者写真)

 原子力発電で発生した使用済み燃料はこれまで、原子力発電所内の貯蔵プールや敷地内の施設の金属キャスク(容器)で乾式保管されてきた。各発電所の規模や設備、運転状況などで違いはあるものの、その保管可能な量には限界がある。このRFSの施設は、原子力発電の施設外でそうした燃料を大規模に保管する初の施設となる。東電HDと日本原電は、原子力発電を今後運営する際に、使用済み燃料の保管場所に余裕ができた。今後は貯蔵場所にとらわれずに、原子力発電所の運営が柔軟に行えるようになる。

 さらにこのRFSの施設での安全な運営の実績、また技術や経験の蓄積は、各電力会社がこうした保管施設を作る場合にも役立つ。

巨大な設備、徹底した安全対策

 現場を見て感じたのは、安全への深い配慮だ。使用済み原子燃料は、世界のどこでも規制に基づき厳しく管理されている。RFSも厳重な管理を行い、堅牢な建物の中にある。施設では、放射線が厳重にモニタリングされている。建物の中に入った私も放射線の被曝は、当然ゼロだった。安全保持のために書くことを自粛するが、厳重な警備体制の上で入構が管理されていた。

 RFSの施設は、横62メートル、縦131メートル、高さ28メートルの分厚い鉄筋コンクリート製の建物だ。ここに国の許可の上ではウラン3000トン分の貯蔵が可能だ。またキャスクは288基設置できる設計になっている。さらにウラン2000トン分の使用済み原子力燃料を貯蔵する、2棟目の建設も予定されている。

巨大な施設内の設備。保管場所は6ブロックに分かれている(筆者写真)

施設のイメージ(リサイクル燃料貯蔵株式会社(RFS)提供)

 金属キャスクは微かに熱を持つ。温められた空気が上昇する性質を利用し、その温度差を利用した空気の自然対流で、施設内に風が流れ続ける仕組みになっている。そのために冷却に電気は必要なく、電源喪失による事故が起きることはない。

巨大な風の取り入れ口。ここから風が流れる(筆者写真)

巨大な風の排出口(筆者写真)

 使用済み原子力燃料は、巨大な金属キャスクに保管されている。輸送・貯蔵兼用で、発電所で封入されてから運ばれる。高さ5.2〜5.5メートル、直径約2.4〜2.6mの巨大な容器だ。

 このキャスクは外を特殊な金属に覆われ、二重の蓋があり、ヘリウムガスが充填され、その中にペレット状の使用済み燃料が長い管状の入れ物に入っている。キャスクを立てて並べて保管する。キャスクには放射性物質の閉じ込め、放射線の遮蔽、臨界の防止、除熱の4つを行う機能が備わる。その構造は堅牢で落下、火災、水没にも耐えられる。

使用済み核燃料の入る金属キャスク。人と比べると巨大さが分かる(筆者写真)

キャスクの構造(リサイクル燃料貯蔵株式会社(RFS)提供)

 この施設は原子炉などと違って、重大な災害が想定されない。つまり放射性物質の漏洩の可能性はかなり小さいと規制当局に認定されている。またこの地域の地盤は堅牢で、津波の可能性もほぼない。それでもRFSは災害のさまざまな影響を想定し、その際のキャスクの安全確保のための活動を行なっている。

再処理工場稼働までの「橋渡し役」

 日本は原子力燃料サイクル政策を推進し、使用済み燃料を再処理して利用する計画を立てている。この中間貯蔵施設は、再処理工場が稼働するまでの「橋渡し」の役割も果たす。同じ下北半島の六ヶ所村にある日本原燃の再処理工場は2026年度中の竣工を目指している。RFSに保管される使用済み燃料は再処理工場に搬出され、再加工されて約9割は再び発電燃料に、一部は高レベル放射性廃棄物として深い地下への処分が予定されている。

 またRFSは、使用済み燃料の永久的な保管場所とならないよう、青森県とむつ市との協定で事業期間が区切られている。昨年11月から最長50年間、2074年までに、1棟目での保管は終わる予定だ 。RFSは透明性の高い運営を約束し、住民説明を行い、県や市の調査を受け入れている。2000年から建設計画は立ち上がったが、当初から地元の自治体、多くの人々と協力関係にあり、反対運動はほとんどなかった。

 施設内での使用済み燃料の保管が限界に近づきつつある発電所が、東電、原電以外にある。RFSは「東電と原燃の2社の燃料を受け入れるのが当社の業務」としており、現時点で別会社からの利用申し入れの新しい動きはない。ただし、国や自治体の理解と調整の上で、原子力発電の活用のために、施設の利用があるかもしれない。これは、今後、状況を見極めたい。

 RFSの一杉義美地域交流部長は「住民の皆様のご理解、ご指導の下で、安全に保管実績を重ね、原子力発電を支えていくように、社員みんなで頑張っていきます」と抱負を語った。

原子力の柔軟な運用が可能に

 日本の原子力発電は事業者の真面目な、地道な努力で、少しずつ前に進んでいる。使用済み原子力燃料の貯蔵施設の運用開始も、その前向きな動きの一つだ。

 RFSは原子力を支える下北の人々と協調し、安全な実績を重ね、より原子力発電の運営を確実なものにしてほしい。そして日本のエネルギー産業の利益、その先にある国益に貢献してほしい。こんな希望を抱いた。