世界の海氷はティッピングポイントに達したのか?

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監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子

本稿は、https://www.netzerowatch.com/all-news/has-the-worlds-sea-ice-reached-a-tipping-point
を、Net Zero Watchの許可を得て翻訳したものである。

南極の海氷(英国南極研究所)

 世界の極域の海氷面積が重要な転換期に差し掛かっていると指摘する声は後を絶たない。BBCは、世界の海氷面積が記録的な低水準に落ち込んでいることを伝え、北極圏の夏の終わりの面積が1980年代の平均700万平方キロメートルから2010年代には450万平方キロメートルに減少したと伝えている。

 一方、地球の反対側にある南極の海氷は、2010年代半ばまでは、縮小するだろうという予測に反し、驚くほど強靭だった。しかしそれ以降、南極大陸の海氷面積は、自然変動こそあるものの、非常に減少した状態が続いている。

 お望みであれば、自分でデータを照会して、その変動幅を確認することもできる。

日付ごとの最小値

 今年の北極海の日付ごとの海氷域面積は、記録的な低水準で推移している。氷縁はほとんどの地域で長期的な平均位置よりもかなり北に移動している。2025年1月の平均海氷面積は1,313万平方キロメートル(507万平方マイル)で、衛星観測史上2番目に少ない面積となった。これは観測史上1番目であった2024年12月に次ぐ出来事だった。

 南極海では、日付ごとの海氷域面積は一時的に平均を上回った後、長期平均を下回り、1月末には海氷域面積の下位10%水準をわずかに下回った。1月の海氷域面積は、2018年に記録した過去最低を5万平方キロメートル(1.9万平方マイル)上回るものだったが、1981年から2010年の平均を129万平方キロメートル(49.8万平方マイル)下回った。

 この南極のデータは、2年の異常な年の後に見られている。2023年は衛星観測史上例外的に海氷が減少し、ほぼ1年を通して気候学的に観測されている値の5パーセンタイルを下回った。その後、2024年における回復は僅かだった。

 ギルバートとホームズによれば、これは人為的な要因による気候変動に伴う海氷の縮小のひとつである可能性があるが、まだ結論づけるには時期尚早だという。

どのていど稀な事象なのか?

 しかしその一方で、イギリス南極研究所は、気候変動がなければ南極の海氷が記録的な低水準になる可能性は「極めて低い」と結論づけている。

 彼らの計算では、気候変動がなければ2000年に1度以下であるのに対し、人為的な気候変動があることによりその可能性は4倍になるというのだ!

 個人的には、ある事象が2,000年以上に1回以下の確率で起こる可能性が高いと結論づけているような気候変動に関する研究はどうかと思う。モデルの不確実性とそのばらつきを考えると、私はそのような数値の正当性に大した信頼を置くことはできないと考えている。

 今後どうなるかは興味深い。おそらく、同じモデルでは回復を説明することはできないだろう。興味深いことに、2025年1月の南極海の海氷面積は1980年1月よりも大きかった。

南極の再生力

 新しい研究によると、南極の主要な棚氷は、これまで考えられていたよりもはるかに強靭で、約12万年前の集中的な高温期にも耐えたという。

 西南極氷床(WAIS)の安定性について、これまで多くの議論がなされてきた。ケンブリッジ大学の研究者たちは、11万7000年から12万6000年前の最終間氷期におけるロンネ棚氷(WAISを囲む2番目に大きな棚氷)の変動を調査した。そして氷床コアの塩分濃度を調査した結果、その時期の氷床面積を知ることができた。

 すると、西南極氷床は当時の条件下でモデルが予測するよりも安定しており、かつ大きいことがわかった。これは、地球温暖化に反応して西南極氷床が崩壊する可能性が低いことを示唆している。