トランプの関税が米国のエネルギー価格を上昇させる
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート2月11日号」より転載:)
トランプ大統領のメキシコとカナダからの輸入品に対する25%の関税は、発動がひと月延期されたが、両国に工場を持つ日米独自動車メーカーは戦々恐々としている。
原油、天然ガスなどエネルギーへの税率は10%に下げられたとはいえ、米国のガソリン価格に影響を与える。米国の製油所はシェール革命以前から生産されていた国内の重質油に基づき設計されているが、米国を世界一の原油生産国に押し上げたシェールオイルは軽質油なので、重質油が必要だ。ベネズエラなどからの重質油が減っている中ではカナダ産原油抜きでは精製が困難だ。カナダ原油を使う中西部から西の広い地域ではガソリン価格の上昇は避けられそうにない。
電気料金も影響を受けるかもしれない。カナダからの電力輸入に課税するか不透明だが、課税の可能性があるとされる。オンタリオ州首相はもし25%課税されれば、電力輸出を止めると述べている。輸出は水力発電からの電気が主体だが、課税されれば米国の天然ガス火力に対し競争力を失うので、輸出は自然消滅するとの意見もある。
カナダの電力会社ハイドロケベックを一昨年訪問した際には、クリーン電力として米国北東部の州での需要が高く、需要増に合わせニューヨーク州向けに送電線を建設しているとの話を聞いた。完成間近の送電線の能力は120万kWある。関税により輸出が影響を受ければハイドロケベックには大きな痛手だ。
北東部の多くの州がカナダからの電力輸入を行っており、関税が導入されれば、その影響は大きい。マサチューセッツ州知事は、影響額は1億ドルから2億ドルに上り、州の電気料金を5%から10%引き上げると述べている。電気料金は北東部以外では影響を受けないので、関税が多くの州でトランプが嫌いなEVを有利にするのは皮肉だ。
トランプ大統領は電力輸入に課税するのだろうか。カナダから電力輸入を行っている北東部の州は全て民主党の地盤だ。民主党支持の州だけが影響を受けるのであれば、関税が課せられるかもしれない。世界でも例をみない電気への関税は実行されるのだろうか。