常識的な内容を評価-第7次エネ基の原案を分析


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経済産業省

策定進む第7次エネルギー基本計画

 政府はエネルギー政策の目標を定める第7次エネルギー基本計画の策定を進めている。昨年12月17日に経産大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長:隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は同計画の「原案」を示した。経産省・資源エネルギー庁は年内にも最終案を固め、24年度内に閣議決定を行う見通しだ。

 この基本計画は原則3年ごとに見直される。2011年の東京電力福島原子力発電所事故を受け原子力発電の取り扱いが注目されるようになった。原子力発電に関しさまざまな意見がある中で、エネルギー政策の基本である、安定供給、競争力のある価格、温暖化対策を実現するための原子力活用の比率が議論されていた。

原案のポイントとその評価

 今回の原案のポイントは以下と私は考える。

1.
第6次エネ基で示された「原子力を可能な限り逓減」の文言が削除された。
2.
検討の裏付けとして、エネ基において初めて2040年度時点でのエネルギー需給見通しが合わせて提示された。これまでは30年時点までの見通しだった。発電電力量は1.1~1.2兆キロワットアワー(kWh)程度(2023年度9854億kWh)とした。40年度時点の発電割合の見通しは再生可能エネルギーが4~5割程度、原子力が2割程度、火力が3~4割程度となっている。
3.
計画の前提になる発電コストが示された。1kWh当たりのコストは、現在発電量が最も多いLNG火力が、20.2円から22.2円。原子力が、16.4円から18.9円。事業用の太陽光が15.3円から36.9円。洋上風力が、18.9円から23.9円。再エネは導入状況に応じて幅を持たせた。ただし2040年の市場価格などの予測などは織り込んでいない。

原子力について「逓減」削除は当然

 原案に対して、一部のメディアや反原子力の活動家や政治勢力は、原子力の「逓減」の文言削除を批判している。しかし私はこの原案を妥当と考える。

 原案で原子力削減の文言がなくなることは事前に予想できた。岸田政権では2020年末に「GX政策」(GX:グリーントランスフォーメーション、脱炭素型経済への転換)を打ち出し、それが国のエネルギー・経済政策の柱となっている。そこでは原子力の活用を行うことが示された。その考えが、この原案でも反映されることは当然の流れだった。

 また審議会委員の人選も妥当と思われ、原案の方向は予想できた。分科会の下の発電コスト検証ワーキンググループの座長は秋元圭吾氏(RITE地球環境産業技術研究機構主席研究員)だった。彼は実績があり尊敬される研究者だ。

 出てきたコストの数値、また電力需要の増加も、エネルギー需要の実情から考えて違和感のないものだ。これまでのエネ基では、エネ庁内部で作成された数値が根拠になっていた。少し政治的に細工をしたかのように見える、再エネに有利な数字が出されていた。

 また原子力のコストが、他電源に比べて高くないことも、常識的に納得できる試算だ。また、これまで日本の産業空洞化や少子高齢化で、長期的には電力の需給は減る見通しが示されていたが、増加の可能性が示された。この1-2年、AI(人工知能)の発達や電化の広がりで近未来に大量に電力が必要になるとの見通しが日本と世界の研究機関で発表されており、その知見を取り入れたものだろう。

 原子力に関しては原案では、「優れた安定供給性、技術自給率を有し、他電源とそん色ないコスト水準で変動も少なく、一定の出力で安定的に発電可能」とのメリットを強調。立地地域との共生、国民各層とのコミュニケーションの深化・充実、バックエンドプロセスの加速化、再稼働の加速に官民挙げて取り組むとしている。また原子力発電所の新増設・リプレースについては、「廃炉を決定した原子力を有する事業者の原子力発電所サイト内での、次世代革新炉への建て替えを対象として、(中略)具体化を進めていく」と記載された。これも現時点では適切な見解だ。

 与党自民党も電源の多様化、現実的な再エネ政策を訴えてきた。原子力の活用とバランスのあるエネルギー源構成を訴えている。そのために、この原案は与党側も了承するだろう。(「第7次エネルギー基本計画の策定に向けた提言」 12月10日、自民党政務調査会)
 以前は脱原発、縮小を唱えていた野党の中からも、原子力推進を打ち出す政党も出てきた。。

政策の肉付けが課題に

 しかし、エネ基が変わっても、それに伴う現実的な政策転換ができるかは怪しい。

 岸田政権は、エネルギー政策を動かした。東日本大震災以降、自民党政権が原発政策を放置し、結果的に「脱原発」に向かってしまっていた。それをGXと絡めることで、重要電源として原子力を再評価する政策転換を行った。この政権が、この調子でエネルギー政策の正常化をしてくれると私は期待した。ただしその後がおかしかった。エネルギー政策での政治判断の必要な問題に、岸田政権は積極的に対応しなかった。政策転換は「口だけ」と言われても仕方がない結果だった。

 24年10月の衆議院選挙で、自民党・公明党の連立与党は過半数割れとなった。エネルギー基本計画は閣議決定の文書なので国会情勢の影響はあまり受けない。しかし、それを実行するために必要な法案の成立は国会情勢に大きく影響を受ける。政治状況では「絵に描いた餅」のように、無意味なものになる可能性がある。そして石破政権は、政策課題としてエネルギーをそれほど重視している気配がない。

 今回の選挙で勢力を伸ばして、現実的なエネルギー政策を掲げる国民民主党に期待する声もエネルギー関係者の間にはある。しかし今年7月の参議院選挙への影響を考えると、簡単に与党入り、もしくは与党と妥協するわけにはいかないだろう。また簡単に自公政権と妥協し得る問題は、交渉での材料にはならなさそうだ。

重要な政治判断が見送られる懸念

 原案に記載された政策を見ても、エネルギー自由化のもたらした功罪の検証と問題点の是正、原子力新型炉の国際技術協力と開発の加速、不透明な国際情勢に対応する危機管理体制の再構築など、大きな政治判断が必要な問題ばかりだ。しかも、いずれも国民が喜びそうな単純で分かりやすい答えを期待できなさそうな複雑な問題だ。

 そのために参議院選挙の前までには、与野党の賛否が割れるような法案を政権は出すことができないだろうし、エネルギー問題でもそうなりそうだ。ようやく現実的なエネルギー基本計画が策定されても、その影響は小さなものになる。その間に、エネルギーをめぐる大きな国際情勢の変化、そして国内での問題の放置による悪化が起こってしまうことを私は心配している。