電気事業における脱炭素化に向けた課題を踏まえた成長志向型の排出量取引制度の在り方


The Federation of Electric Power Companies of Japan

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1.はじめに

 2024年10月現在、政府のカーボンプライシング専門ワーキンググループにおいて、2026年度から本格稼働する排出量取引の制度設計に向けた議論が進められている。本稿では同ワーキンググループの第1回会合(9月3日開催)におけるヒアリングの場で、電気事業連合会が発表した内容を紹介する。

2.電気事業における脱炭素化に向けた課題

 電気事業連合会の会員各社は2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、S+3Eの同時達成を前提に供給側の「電源の脱炭素化」と需要側における最大限の「電化の推進」の両面から積極的に取り組んでいるところである。


【電気事業を取り巻く状況(安定供給の毀損と将来電力需要の増大)】
 しかしながら、近年、電力の供給力不足などを要因とした需給ひっ迫が発生するなど、安定供給が毀損しS+3Eのバランスが崩れている状況にある。更に、電化やデジタル化の進展に伴い将来の電力需要については増加が見込まれている。こうした状況下において、電力の安定供給を確保し、わが国の経済成長と国民の暮らしを支えていくためには、蓋然性の高い需要想定を前提に、足下から将来にわたり供給力を確保し続けることが必要である。そのためには脱炭素電源の拡大に向けた投資に加え、十数年を要する電源開発のリードタイムや脱炭素技術の開発状況などを踏まえ、トランジション期においては、一定規模の既存火力発電の活用が不可欠である。


【脱炭素電源投資に向けた課題】
 前述した足元の供給力不足は、卸電力価格のボラティリティ上昇等、様々な要因により、特に火力発電において投資回収予見性が低下し、新規投資が停滞したことなどにより顕在化したものであるため、脱炭素化に向けた電源への投資拡大にあたっても、この状況を改善していくことが課題である。

 加えて、各脱炭素電源は以下のとおり、技術やコスト、事業収益性の確保、地理的・社会的制約などの面から、普及拡大に向けて解決していかなければならない課題を抱えている。特にコスト面に関しては、わが国の経済、産業競争力、国民の暮らしへの影響の観点から、電気料金の影響なども総合的に勘案しながら導入していく必要がある。

3.GX実現に向けた排出量取引制度の在り方について

 2023年7月に閣議決定されたGX推進戦略では、成長志向型カーボンプライシング構想の基本的な考え方として、カーボンプライシングの導入にあたり、直ちに導入するのではなくGXに集中的に取り組む期間を設けることや、エネルギーに係る負担の総額を中長期的に減少させていく中で導入することを基本とすることなどが示されている。この考え方に基づき、2028年度から化石燃料賦課金、2033年度から発電事業者に対する特定事業者負担金(排出量取引制度における有償オークション)を導入することとなっている。この時間軸を踏まえると、排出量取引制度の本格稼働として2026年度から始まるGX-ETS第2フェーズは、社会全体としてGXに向けた先行投資にしっかりと取り組まなければいけない期間にあたる。
 こうした点や前述した将来にわたる安定供給の確保や脱炭素電源投資に係る様々な課題等の実情を踏まえ、GX-ETS第2フェーズを成長志向型の排出量取引制度とするためには、次の点を考慮した制度設計が行われることが重要である。

【脱炭素への移行(トランジション)に対する考慮】
 電力需要の増加が見込まれる中、安定供給を確保し続けるためには、脱炭素電源開発のリードタイムや技術・コスト面などの課題も踏まえれば、一定規模の既設火力発電を利用しながら電源の脱炭素化を進めていくことが不可欠である。このような状況の中で、早期に過度なカーボンプライシングが導入されたとしても、電力業界の脱炭素化には寄与せず、カーボンプライシングによる電気料金の上昇を通じ、社会全体の負担上昇、脱炭素投資原資の喪失につながりかねない。安定供給を確保し、わが国の経済成長と国民の暮らしをしっかりと支えながら着実に電源の脱炭素化が進められるよう、トランジションの時間軸を意識した目標水準の設定が重要である。

【事業運営や投資の予見性確保】
 脱炭素電源への投資判断にあたっては、排出量取引制度が中長期的にルールや価格面において予見性の高い制度であることが望ましい。予見性確保の観点からは、1つは、第2-3フェーズ間で制度骨格に大幅な変更が伴うことがないよう、第3フェーズを見据えた制度設計が必要であるということ。もう1つは炭素価格の上限・下限価格を導入し、価格変動リスクを抑えることが重要である。ただし、上限・下限価格の水準設定においては、GX投資促進の観点だけではなく、経済社会・国民生活、企業の負担への影響の観点も考慮した検討が必要である。

 加えて、第3フェーズ・有償オークションを含むカーボンプライシング全般についてもGX実現の観点から留意すべき点がある。

【電化の推進と整合的な制度設計】
 現在のGX推進法では、特定事業者負担金(排出量取引制度における有償オークション)は発電事業者のみが対象となっている。脱炭素に係るコストは、国民の行動変容を促す観点からも、広く社会全体・国民全体で負担すべきものであるが、発電事業に負担が偏るようなことがあれば、電気料金の上昇につながり、カーボンニュートラルに不可欠な電化の阻害になり得る。エネルギー間の公平性が確保され電化の推進につながるようカーボンプライシングの制度設計を検討する必要がある。

【GXに伴う追加負担に対する理解の醸成】
 GXはエネルギーや経済の姿を変え、我々の暮らしを変える大変革であり、GXを通じて国民の皆さまが受ける利益と追加的な負担に対して、国が率先して国民理解の醸成を図っていくことが不可欠である。

【既存政策との関係整理】
 電気事業には高度化法に基づく非化石電源比率義務や省エネ法火力発電効率ベンチマーク指標等、カーボンプライシングと目的・効果が重複する既存制度が存在する。全体の整合性が取れるよう、カーボンプライシングと既存制度の関係整理が必要である。

4.おわりに

 我々、電気事業者はGX実現に向けて供給側・需要側の両面から最大限取組みを進めていく。排出量取引制度を含むカーボンプライシングが、こうした事業者の取組みを支え、わが国の経済の発展と充実した国民生活の実現につながるものとなるよう、制度設計が行われることを期待したい。