「ドイツの原発依存」はデマではありません – 事実です

「デマ」というデマを流すのは止めて下さい


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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 私はSNSをあまり利用していない。学生からは、ツイッター(X)とかインスタをやらないのか尋ねられることが多いが、メールとラインだけのやり取りにしている。

 理由は、ずいぶん前に子供から、「親父がSNSをやれば、時々炎上するから、やらない方がいいよ。炎上した時の誹謗中傷のコメント読めば不愉快になるので精神衛生上よくないからね」と言われたことにある。子供はさすがに実は小心者の私が誹謗中傷には耐えられないと分かっているのだ。

 ということでFacebook以外はやらないことにしたが、数か月前にネットでプチ炎上していると知人から連絡があった。なんでも私が「ドイツは原発依存とのデマ」を流している張本人との話がSNSで広まったらしい。

 この手の中傷の特徴は、どこが「デマ」なのか、まったくデータを示さないことだ。データで「ドイツの原発依存の主張」のどこが間違いか示すべきと思うが、示せないので、「デマ」と中傷して終わりなのだ。そんな根も葉もない話が直ぐに拡散するのもSNSの特徴だ。ドイツには原発依存して欲しくないと思っている人が、間違った話を拡散するのだろう。

 データを見れば、2023年4月の脱原発後ドイツがフランスの原発の電気に依存していることは明らかなので、ドイツは脱原発後も原発に依存していることになる。ドイツの原発依存はデマではなく事実だ。「デマというのであれば、その根拠のデータを示せよな。示せないだろう」と一部のSNS発信者のように毒づきたくなる。ドイツのフランスの原発への依存度は、今も高まるばかりというのが現実で、デマどころの話ではない。

 フランスの原発の電気がなければ、メルセデスベンツ、BMWなどが本拠を置くドイツ南部の工業地帯は操業停止に追い込まれる。ドイツの再生可能エネルギーによる発電量は北部の風力によるものが多いが、北から南への送電能力がないため、南部の原発停止後需要量を満たすことができない。そのため北部の電気を隣国に輸出し、南部は原発比率が7割のフランスから電力を輸入するしかない。見事にフランスの原発依存になっている。

 ドイツは、いま100億ユーロ(1兆6000億円)を投入し、総延長1万3700キロメートルの南北送電線を建設中だが、反対運動にあい一部の地下化を強いられ、完工予定は2028年に遅れている。少なくともそれまでドイツ南部はフランスの原発に依存しなければ停電してしまう。

 2023年4月の脱原発以降のフランスとドイツの四半期ごとの電力輸出入量は図-1の通りだ。ドイツのフランス原発からの電力輸入量は増える一方だ。フランスの原発への依存度は高まっているのだ。7月のドイツのフランスからの輸入量は18億4000万kW時、フランスへの輸出量は6900万kW時、輸入量の4%しかない。

 フランスの原発の電気への依存が高まった理由の一つは、原発停止だが、もう一つの理由は脱炭素だ。脱炭素のためには原発の運転を継続したほうが良いと思うのだが、緑の党が経済気候保護大臣と環境大臣を握るドイツ政府は、そうは考えない。源発の利用を望む世論も無視し(ロシア侵略前にはドイツの脱原発支持は65%だったが、エネルギー危機による電気料金上昇を受け、脱原発支持は20%まで下がった)、脱原発を進めた。その結果、ドイツの電力供給量は急速に減少している(図-2)。

 2018年の発電量5483億kW時は、2023年に4306億kW時になった。減ったのは原子力と火力の発電量だ。それぞれ719億kW時が67億kW時に2605億kW時が1652億kW時に減少した。おかげでドイツの家庭用電気料金は、エネルギー危機による化石燃料価格の上昇もあり、2018年の1kW時当たり29.47ユーロセントから2023年45.73ユーロセントに上昇した。日本円に換算すると70円を超え、日本の2倍だ。

 日本の再エネ推進派は、「ドイツはフランスの原発に依存していない。電力の輸出国だ」と主張している。実態は北部で余剰になった再エネの電気を南部に送電できないので、輸出するしかないのだ。余剰になった再エネの電気は時としてマイナス価格で輸出されるほどだが、購入する電気はただではない。輸出する電気を国内で使えるのであれば、使いたいが送電線がない。

 そのドイツは、昨年から電気の純輸入国になった(図-3)。理由は脱炭素と脱原発で発電設備が減少しているが、再生エネの設備では補えず、電力を輸入しているからだ。ドイツのフランスへの原発依存は深まるばかりだ。どこがデマなのか。「デマ」というデマをSNSで拡散した方、データで反論して下さい。

 ドイツが進める電力政策はドイツの製造業の競争力を奪うことにもなる。日本原子力学会誌「アトモス」の「Perspective」欄に数か月に一度連載しているが、11月号では「原発なしの脱炭素で追い込まれるドイツ」とのタイトルの論考を掲載し、ドイツの電力供給の状況とその産業への影響を解説するので、さらに詳しい事情が知りたい方は、お読みいただければと思います。デマを広げた方も是非読んで、正しく状況を理解して欲しい。