自民党総裁選、エネルギーで対立軸-目立つ高市氏の原子力への関心


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高市氏の原子力へのマニアックな関心

 9月27日に自民党総裁選挙が行われる。そこでエネルギー・気候変動が重要な論点の一つになりそうだ。この問題をめぐる極端な行動を有力候補がしており、その審判の意味もある。その中で原子力に理解の深いのは、高市早苗氏だろう。


核融合戦略有識者会議に出席する高市早苗内閣府特命担当大臣(2023年2月、内閣府)

 かつて関係のある議員の政治資金パーティー兼政治セミナーに、2022年秋に出たことがある。高市氏は、こんな内容のスピーチをしていた。

 「原子力には追い風が吹いています。三菱重工さんが、革新炉『SRZ1200』の開発を関電さんなど、4社と共に行う良いニュースも出ています。私も核融合を〇〇先生(その議員)と一緒に頑張ります。形になれば原子力への支援はますます広がるでしょう」。

 革新炉の名前がスラスラ出てくるなど、彼女の原子力への関心の高さに驚いた。私も名前まで記憶はしていなかった。

 2022年に日本原子力研究所開発機構が核融合の実験装置「JT-60SA」を稼働させた。この予算措置について、21年に自民党政調会長として予算配分に影響力のあった高市さんは支援した。

 現在、彼女は、内閣府特命担当大臣として、経済安全保障、科学技術振興政策を主導する。そこで彼女は21年9月に、内閣府に「核融合戦略有識者会議」を立ち上げ、22年12月に中間整理を行なった。日本は核融合について世界トップの知見と技術力を持つが、研究機関、大学、企業、政府がバラバラに動き、産業化という視点は少なかった。彼女はそれをまとめようとしている。これは適切な着眼だ。そして彼女は会合に毎回出席する熱心さを見せた。

高市氏、関心が新型原子炉に傾きすぎ

 彼女の原子力への思い入れの背景は不明だ。しかし夫の山本拓前衆議院議員が福井県選出であり、原子力や新型炉に詳しかったので、情報をそこから得ているのかもしれない。

 ただし高市さんの原子力への関心は革新炉に傾きすぎ、バランスが悪い。革新炉は、岸田首相がテコ入れを表明しているものの、どの種類でも今着工しても早くて建設竣工、稼働まで十年先の話だ。そして彼女の好きな核融合の実用化は2050年ごろだろう。

 それよりも今の原子力と日本に必要なのは、おかしな原子力の規制政策の是正と、止まっている原子力発電の再稼働だ。そちらにも関心を向けてほしい。ただしポスト岸田の最有力候補の一人となっている高市氏の原子力への関心は電力・原子力関係者には、歓迎されている。私も同じだ。

「原子力票」が自民党総裁線を左右

 実は前回の2021年9月の自民党総裁では「原子力」票が影響した。原子力発電所の立地する場所は12道県になる。それらの地域の自民党の選出国会議員は全て2位の河野太郎氏以外の候補に流れた。党員の票も河野氏は多数を取れなかった。河野氏の反原発の姿勢を警戒したのだろう。

 今回、エネルギー問題で、高市氏以外に、良くも悪くも目立った行動をした2人が有力候補となっている。

 河野太郎氏は、反原発、脱原発の姿勢を取ってきた。自分がそれでは首相になれないことを理解しているのだろう。彼は今、内閣府のデジタル・行政改革担当大臣だ。その仕事の一環として、今年7月には日本原子力研究機構の茨城県の施設を訪問。「私は反原発ではない」と記者団に説明し、原子力に理解のある姿勢を見せるパフォーマンスを行なった。

発信力は優れるが異様な言動の小泉進次郎氏

 小泉進次郎氏は、環境大臣として、国の温室効果削減の数値の設定に関わった。日本政府は2021年4月22日、関係閣僚会議を開き「30年度までに温室効果ガスを46%削減する」と決定した。気候変動サミットに合わせた国際公約のためだ。この公約は今でも生きている。

 同月23日放送のTBS系の『NEWS23』で小泉大臣がインタビューに応じた。「46%に設定した根拠」について、小泉大臣は両手で“浮かび上がる”輪郭を描きながらこう語った。

 くっきりとした姿が見えているわけではないけど、おぼろげながら浮かんできたんです。46という数字が。

 つまり、彼はエネルギーに関わる数値目標の決定を、神がかり的な直感で決めたというわけだ。これはとても恐ろしい。

 ただし彼は発信力がある。2022年の福島原発事故の処理水放出の時に、その海でサーフィンを行って内外に報道、注目されるなど、目立つアイデアづくりは優れている。

与党自民党内で、エネルギーをめぐる議論の深まりを期待

 電力業界は、2011年の福島原発事故の後の原子力への批判、その後の起こった電力市場完全自由化の動きによって政治に大きな影響を受けた。「政治に振り回されるのはこりごり」(電力会社幹部)という状況だ。福島原発をめぐる混乱とパニックが鎮静化したと思ったら、原子力規制委員会が、日本原電敦賀2号機について、「不適格」という評価を下しても、政治も世論もこれを大きく批判しなかった。一般国民は原子力とそれを使う電力会社への批判はまだ根強くある、もしくは無関心の人が多いようだ。

 しかし、自民党の支持者、国会議員の場合は、一般国民と少し状況が違うだろう。お気楽な「反原発」や「再エネ万歳」を唱える政治家を疑問視する判断力を持つ人が多いだろう。

 エネルギーのことを学べば、常識ある人は、無資源国日本に原子力は必要、強いエネルギー産業が必要という結論に辿り着く。そしてまだ技術としても産業としても強みを持つ、原子力、重電、電力、エネルギーの産業を守ることを支援したいと思うだろう。いつも意見を言わず「検討する」ばかり言っていた岸田さんも、結局、原子力活用に2021年秋から政策の舵を転換した。ただし、福島事故後の政治による制度改変の混乱は、それほど大きく是正されなかったことは残念だ。

 エネルギーに限って言えば、首相として問題の改善と産業へのテコ入れをしてくれる期待の持てる人は、高市早苗氏だ。競う河野太郎氏、小泉進次郎氏が、脱原発や環境への過度の重視のイメージがある以上、エネルギーが重要な争点になるかもしれない。

 与党自民党内での、エネルギーをめぐる議論を深化させて、日本のエネルギー産業が政治の介入でおかしな形にならないことを願う。