急激な気温上昇を説明できない気候科学の崩壊

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監訳:キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 杉山大志 翻訳:木村史子

本稿はデイビッド・ホワイトハウス博士による記事「A schism in climate science, Net Zero Watch 13 Jun 2024」を許可を得て邦訳したものです。


2023年は観測史上最も暖かい年だった

 多くの研究者は、エルニーニョによる温暖化が衰退し、ラニーニャによる寒冷化が引き継ぐ、今から年末までの間に、何が起こるかを不安げに見守っている。その不安は大きい。今年は気候モデルの信頼性についての決定的な年になるかもしれない。

 現在のエルニーニョは2023年6月に始まり、太平洋に何年かに渡り蓄積された過剰な熱の放出弁となった。これは地球を未知の領域へと押しやり、気候科学者たちを動揺させた。実際のところ、なぜこれほど暑いのか、科学者たちはうまく説明できていない。

 2002年から2014年までの間、地球表面の温暖化が進まなかったことの説明がつかなかったというような以前の問題に続き、これはこの分野の信頼性に対する、最新の打撃に過ぎないという人もいる。また、昨年までは気候科学者は物事を説明するのが上手だったと主張する人もいる。しかしいずれにせよ、最近の温暖化は気候科学に宗派分裂をもたらした。

 昨年の急激な気温上昇は、気候変動の加速を証明するものではないことは明らかだ。単年度のデータは気候変動を示すものではない。

 要因について研究が進められている。火山噴火による冷却の影響や、海運によるエアロゾル汚染の減少などである。しかし、これらの要因は説明の一部でしかない。観測された温暖化の約半分程度にはなるかもしれない。だが完全な説明をするためには、太陽周期を含む自然変動を、気候モデルで通常考慮されるよりも高いレベルで含める必要があるのだ。

 もし8月までに気温偏差が安定しなければ、まさに未知の領域に入ることになる。おそらく自然は、一部の科学者が予想していたよりもずっと早く、気候システムの動作を変えようとしているのだろう。何が起ころうとも、気候モデルへの信頼は失墜するだろう。

 涼しいラニーニャ現象への移行が、どれほど早くこの暑さから解放するかはわからない。しかし、2つのことが明らかだ。モデルが不十分であること、そして人類は多くの科学者が主張しているほどには地球温暖化を理解していないことである。

デビッド・ホワイトハウス博士
宇宙物理学者。元BBC科学特派員、BBCニュース科学エディター。
david.whitehouse@netzerowatch.com