事業者も投資家も頭を抱える洋上風力事業


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」より転載:2023年9月21日号)

 洋上風力事業を巡る疑惑が業界を揺るがしている。一部メディアは相変わらず洋上風力を再エネの切り札と報じているが、欧州では風力設備製造や洋上風力事業会社の株価が急落し、投資家は頭を抱えている。洋上風力に明るい未来は待ち受けているのだろうか。

 独シーメンスと西ガメサの合弁の風力設備製造企業は、昨年シーメンスエナジーの子会社となった。今年6月シーメンスが設備の品質管理が原因の損失を発表したことから、シーメンスエナジーの株価は一日で37%下落した。株価は依然低迷したままだ。

 世界一の洋上風力事業者デンマーク・オーステッドは、8月10日に今年前半の洋上風力事業からの収益が前年同期比57%増加したと発表したが、8月29日米国東海岸で進めている事業から5億クローネ(約105億円)、さらに米税制上の問題から最大6億クローネの損失が発生する可能性を発表した。株価は一日で25%下落した。21年年初に1000クローネを超えていた株価は、今300クローネ台になってしまった。

 欧米の洋上風力事業が難しくなっているのは、厳しい競争を勝ち抜き事業に漕ぎつけても、工事費、設備費、金利の上昇に耐えられないレベルの収益しか見込めないからだ。スウェーデン・バッテンフォールは英国沖事業の凍結を発表し、米国では洋上風力事業を進めているBP、EDF(仏電力)など欧州の大手エネルギー企業8社が、事業からの撤退、あるいは条件の再交渉に追い込まれている。

 石油メジャーの化石燃料事業の投資収益率は少なくとも15%と言われているが、シェルのCEO(最高経営責任者)は洋上風力の初期の収益率の目標を6%から8%としている。洋上風力事業に伴うリスクを考慮すると、決して高い利益率ではない。

 そんな利益率でも事業を進めざるを得ないほど競争環境は厳しいのだろう。だからと言って、事業を通し社会に貢献するという目的を忘れ、政治家に資金を提供し売電価格の上乗せを狙うのでは、やがて消えていく企業になる。