風力発電のコストは高止まりのままだ

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監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子

本稿はゴードン・ヒューズ 「Wind costs will remain high」2023.6.26 をNet Zero Watchの許可を得て翻訳したものである。

 6月23日、金曜日のシーメンス・エナジー社の株価暴落は、同僚と私が10年以上にわたって検証してきた風力発電のコスト問題をいみじくも浮き彫りにした。実際のところ、(i)風力発電は、陸上・洋上ともに、私たちが聞かされているよりもずっと割高であること、(ii)風力タービンの性能は、同社が報告したような種類の故障が原因で、大部分が経年劣化する傾向にあること、これらのことが重い事実なのである。この結論を裏付ける強力な証拠は、再生可能エネルギー財団が2012年と2020年に英国デンマークについて発表した報告書に示されており、地球温暖化政策財団ネット・ゼロ・ウォッチが最新情報を提供している。

(訳注:邦訳記事については以下を参照:
洋上風力発電 コスト予測と実績
陸上風力発電のコスト上昇 
風力発電のコストは上昇している-英国からの報告-

 シーメンス・エナジー社のニュースを見ると、「警告していたじゃないか」と言いたくなる。しかし、この問題は、電力料金を通じて直接的に、あるいは(年金基金やその他の投資手段を通じて)風力発電所の所有者として間接的に、私たち全員に影響を及ぼす、より広範な病気の症状と言える。シーメンス・エナジー社の株価急落は衝撃的だが、これは期待はずれの結果に市場が一時的に反応したに過ぎない、と片付けられてしまうかもしれない。期待外れの理由と風力発電の将来性への影響を理解するためには、目先の話の裏に隠された本質を見抜く必要がある。

 シーメンス・エナジー社の発表では、陸上タービンの故障率が予想を上回ったことに焦点が当てられていた。これらの故障は主要部品の問題によるものだが、新聞報道においては、最近の大型タービン世代ではより体系的な設計上の欠陥が見られるとされている。そしてこれまでの発表では、洋上タービンの問題に言及しているが、市場の反応を見る限り、今回の問題が陸上タービンに限ったものだと考えている者はほとんどいないようだ。さらに、大手タービンメーカー各社はそれぞれ固有の問題を抱えているが、シーメンス・エナジー社に限らず、各社において予想以上の故障率によって高額な保証費用が発生している。

 重要度の高い順に並べると、注意すべき点が3つある:

(a)シーメンス・エナジー社をはじめとするメーカーは、故障率の上昇により、その性能を保証することができなくなる可能性があり、部品の交換や風力発電事業者への補償のために追加費用が発生することが想定される。これらの費用は、同社が計上しなければならなかった評価損の根拠となっている。投資家は、同社が風力タービンの販売時に利益を計上しながら、将来的な保証修理費用に十分な備えをせずにきたことを痛感しているはずだ。

 会計的には、新規契約については将来の利益がどうなるか認識する必要がある。契約の収益性が低下することが明らかになった場合、同社は従前に計上した利益、ひいては貸借対照表の資産価値を評価減しなければならない。実際には、おそらく故意ではないであろうが、シーメンス・エナジー社は過去と現在の収益性について投資家を欺いているのだ。この問題は予想可能(かつ予測されていた)であったため、経営幹部は自らの立場に居心地の悪さを感じているはずだ。

(b) 性能保証の期間は限られており、多くの場合5~8年であるが、故障率の高さは、タービンが設置された風力発電所の残りの耐用年数を通じて持続し、パフォーマンスに影響する。将来の運用コストは予想以上に高くなり、出力は大幅に低下する。これは、風力発電所が古くなるにつれて収益とコストの間の利ザヤがどのように変化するかによって定まる運転寿命を縮めることになる。収益の低下とコストの上昇は、建て替えまたは代替設備が必要となる時期を早めることになる。このような状況変化は、事業者が数年の運転後に風力発電所の株式の大半を売却する相手である年金基金などの金融投資家が得る収益を、時として大幅に減少させることになりかねない。

(c)シーメンス・エナジー社や他のメーカーは、高い故障率につながる部品や設計の問題は、時間をかければ解決できると主張するかもしれない。それは確かにそうかもしれない。エネルギー技術の歴史を見ても、導入当初は大きな問題を抱えながらも、最終的には解決された新世代の機器の例は数多くある。しかし、このような初期の問題によって、多くの企業が深刻な財政難に陥ったり、倒産に追い込まれたりしているのも事実である。この場合の過ちとは、風力タービンがそのような不具合とは無縁であるかのように装うことであった。

 風力発電のコスト削減を正当化する根拠はすべて、より大きなタービンが発電量当たりより低い設備投資コストで、大きな発電コストの変化を伴うことなく、より多くの出力を生み出すという仮定にあった。しかし今、そのような楽観論がまったく正当化されないことが確認された。開発プロセス全体が、はるか遠くにあり、あまりに早すぎたのだ。繰り返しになるが、これは予測可能だったことであり、実際に予測されていたことでもある。風力タービンが他のタイプのエネルギーのエンジニアリングに影響を与える要因とは無縁であるという考えは、これまでも常に馬鹿げていた。結局のところ、風力発電所の資本コストも運転コストも、主張されているほど急速には下がらず、まったく下がらない可能性もあるということだ。イギリス、ヨーロッパ、アメリカにおける現在のエネルギー政策は、技術的な現実から切り離された熱狂的なロビー活動によって強化されただまされやすい楽観主義という砂の土台のうえに立つ砂上の楼閣ということだ。

 長期的には、(b)と(c)が大きな問題となる。なぜなら(a)に関しては、きちんとしたアナリストは、風力産業による将来の風力発電のコストと性能に関する主張を真に受けるべきではないことをとっくに認識してきたからだ。彼らが自分たち自身と投資家を騙していることは、2010年代後半から明らかだった。残念なことに、私たちは今、経済や生活水準に影響を及ぼすあらゆる要素を伴う、高いエネルギーコストのかかる未来に縛られている。