ドイツは水素を燃料にしない
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」より転載:2023年6月11日号)
ドイツでは、天然ガスを暖房用燃料として利用することが多い。ロシア産天然ガスの価格競争力が暖房での利用を拡大した。エネルギー危機前の2020年前半の欧州天然ガス価格は、日本のLNG輸入価格の半分以下だった。安い天然ガスが、ドイツの産業は無論のことビル、住宅の暖房も支えた。
しかし、脱炭素の時代を迎え、21年ドイツ政府は再エネ由来のエネルギーを65%利用する暖房設備の導入を25年から新築住宅に義務付けることを決めた。化石燃料による暖房設備の禁止だ。ロシア産化石燃料への依存脱却のため、政権は禁止時期を24年からに前倒しすることを決めた。
最も手っ取り早い設備はヒートポンプだが、初期費用が高くなる。政権の一翼を担う自由民主党は政権内で合意したにもかかわらず、下院にて可能な限り修正を行うとしている。ドイツ16州の代表から構成される参議院も24年導入は早すぎるとの立場だ。
35年までに水素関連インフラが導入される地区では水素に切り替える前提でガス設備導入も認められる条項が法案には含まれている。参議院の委員会が、将来でも水素の価格は高くなるしエネルギー効率の面からも水素条項には意味がないとして反対を表明した。
連立政権内での軋みも大きくなり連立瓦解の危機と報じられたが、緑の党のハーベック経済・気候保護大臣が実施時期を遅らせるなどの譲歩を示したことから、連立の危機は回避されそうだ。
導入が進むヒートポンプの世界の生産能力の約4割は中国が保有している。水素製造の水電気分解装置の中国シェアも約4割ある。脱ロシアが中国依存を招く構造は、再エネ設備だけでなくヒートポンプ、水素でも逃れられない。
ドイツでは、水素利用は電気の利用が難しい化学、高炉製鉄、セメント、肥料産業などに限定すべきとの声が大きい。日本では水素を発電用燃料に利用する動きがあるが、エネルギー効率とコスト面から慎重に考えることが必要だ。ここではドイツの議論を見習う必要がありそうだ。