プラスチックリサイクル施設におけるリチウムイオン電池発火問題


公益財団法人日本容器包装リサイクル協会 プラスチック容器事業部 副部長

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 プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(以下、「プラ新法」という。)の施行に伴い、令和5年度より、一部自治体において、プラスチック製容器包装に加え、製品プラスチックの分別収集・リサイクルが始まっています。この原稿を執筆している令和5年7月の段階では、まだプラ新法に関するリサイクルが開始されたばかりであるため、プラ新法の実績報告は、秋以降に記事寄稿させて頂くとして、今回は、昨今増加しているリチウムイオン電池内蔵製品による発火問題について寄稿させていただきます。

一般ごみにリチウムイオン電池内蔵製品が混入し、発火トラブルが発生

 当協会と契約している全国のプラスチックリサイクル事業者35社での発煙・発火トラブル件数は、平成30年度は130件でしたが、令和元年度に301件に急増し、その後、発火件数は高止まりで推移しています。
 令和4年度では、発煙・発火の原因物と思われるのが「リチウムイオン電池などの充電式電池」132件、「加熱式タバコ」85件で、これらで7割を越えています。
 この発煙・発火件数には全国の市町村の清掃工場や不燃物処理施設で発生した発火事故は含まれていません。


【プラスチック製容器包装再生処理事業者での発煙・発火トラブル件数の推移】


【発煙・発火原因物の内訳】


【発火の原因となった加熱式たばこ】


【発火の原因となった電気掃除機のバッテリーパックに内蔵されたリチウムイオン電池】

リチウムイオン電池発火トラブルへの対策

 市民がごみや資源物を捨てる際、水際での対策強化が重要です。混入防止のために、リチウムイオン電池などの分別収集を行うことが必要です。
 私が有効な事例として紹介しているのは新潟県新潟市の分別収集の取り組みです。リチウムイオン電池を含む充電式電池は、「特定5品目」という区分で月に1回ごみ集積場で回収します。ごみ集積場に排出することは市民にとっても容易であり、有効な方法だと考えます。特定5品目に「電池が取り外せない小型家電」を追加し、ごみ集積所で回収していることにも注目しています。こうした取り組みの開始以降、新潟市から出されたプラスチック製容器包装からの発火トラブルは、ほとんど発生しておりません。
 収集現場側での対策として、中間処理施設でのリチウムイオン電池の除去技術の導入を進めることも重要です。簡易風力選別、レアアースマグネットプーリーによる選別、トロンメル+風力選別、ロールスクリーン選別などの除去技術を協会として紹介することも可能です。関心がある方は、お問合せください。


【リチウムイオン電池発火問題の解決策(筆者私案)】

 市町村やリサイクル現場の取り組みだけでは、リチウムイオン電池発火事故を防ぐことは難しいと私は考えます。国やメーカー等の取り組みが最重要だと考えます。
 まずは、日本国内の廃電池の回収量を把握し、目標値を設定することが第一歩です。(日本では、廃電池の回収量や回収率の公的データが無いと認識しています)。
 次に、リチウムイオン電池内蔵製品製造事業者、販売事業者の取り組みとして市民の分別排出時に分りやすい表示・マークを商品本体への表示することも重要です。表示・マークがあればすべて解決するわけではありませんが、市民が分別する際の目印を示すことは分別排出を行う上での基本条件です。輸入品についても国内製造事業者と同様に輸入事業者による表示の徹底が必要です。
 リチウムイオン電池内蔵製品を販売する際(インターネット販売を含む)に廃棄時の注意点の啓発を行うことも必要です。

最後に

 5年ほど前から、リチウムイオン電池発火問題を最重要課題として取り組んで参りました。活動を開始した当初は、危機を訴えても見向きもされない事も多く苦労しましたが、昨今は、皆さんにこの問題を知って頂けるようになり、国による検討会や対策も実施される段階に入ってきました。
 リチウムイオン電池発火問題は、一般廃棄物及び産業廃棄物処理の共通問題であり、最大の懸念事項のひとつです。私は一般廃棄物の業界におりますが、今回は産業廃棄物業界の皆様のお力もお借りして、様々な関係機関に様々な訴えを行ってきました。
 発火事故の現場は、市町村クリーンセンター・不燃物処理施設、プラスチック中間処理施設、プラスチックリサイクル工場、産廃中間処理施設など多岐に渡ります。現場では、なるべく発火しないよう、発火しても早期に消火できるよう対策を進めておりますが、対策には限界があります。市場にリチウムイオン電池内蔵製品が増え続けており、上流側(メーカー及び販売側)での対策を行うことが極めて重量です。
 プラ新法により製品プラスチックの分別収集が広がってくると、プラスチックであれば何でも排出しても良いという誤った考えから、加熱式たばこやモバイルバッテリーなどのリチウムイオン電池内蔵製品が、プラスチック資源物に混入するケースが増加することを危惧しています。
 当協会として、今後とも、リチウムイオン電池混入防止活動を継続して参ります。