やっぱり原発に頼るしかないドイツ


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

印刷用ページ

(「エネルギーレビュー」より転載:2023年05月号)

 ロシアのウクライナ侵略が大きく変えたのは、主要国のエネルギー安全保障の世界だった。中でも、天然ガスも石油も石炭もロシアに大きく頼っていたドイツは、なりふり構わないエネルギー調達に乗り出した。再生エネ大国と言われるドイツでも一次エネルギーに占める化石燃料比率は約4分の3もある。

 脱炭素に向かう中でロシアからの化石燃料削減が課題になる以上、国産の非炭素エネルギー比率、自給率向上策が必要だ。当初予定した2022年末の脱原発を延期したものの、今年4月15日には全ての原発を閉鎖する(原稿執筆3月中旬時点)計画だ。非炭素電源が必要な環境下、かつ国民の7割以上が原発の継続利用を望むにもかかわらず脱原発を行う。

 ドイツは電気の利用が難しい高炉製鉄、化学、肥料産業を抱えるので脱炭素のためには電源の非炭素化に加え、水素も必要だ。いま水素は、天然ガス、あるいは石炭から製造されている。水素1トンを製造するのに、天然ガスを原料とすると約10トン、石炭ではほぼ2倍の二酸化炭素(CO2)が排出される。脱炭素のためには化石燃料を利用した上で製造時に排出されるCO2を補足するか、非炭素電源からの電気を利用した水の電気分解により製造するしかない。

 再生エネの電気を利用して生産される水素は、グリーン水素と呼ばれる。欧州委員会(EC)は再生エネの電気の新規利用により電力需要と価格への影響が生じることを懸念し、「追加性」の規定を設けた。グリーン水素製造には新規に設置された再生エネ設備の電気を利用する原則を設け、追加性の具体的な内容を検討してきた。

 検討の過程では、フランスが原子力の電気を利用する水素もグリーンに含めるよう求め、ドイツは追加性の要件を緩和するように働きかけた。ドイツが必要とする量の水素製造の電気を再生エネ設備から得るには、国土面積が十分ではなく、設備を敷き詰めても発電量は不足する。加えて、脱原発ゆえに原発は利用できない。電解用再生エネの供給量に限度があるドイツは、新設設備100%でなくても認めるよう、また輸入水素には追加性を求めないようにECに要請したと伝えられた。

 今年2月にECは追加性の要件を明らかにした。新設再生エネ電源の利用を条件としたが、実施は30年からとし、それまでは緩和した条件での再生エネの利用を認めた。一方、再生エネに原子力は含まれないとしたが、電力の排出係数を条件として追加性を求めない規定も盛り込んだ。

 具体的には、CO2排出量、1kW時当たり65kg以下の場合には例外とされ追加性は求められない。適用されるのは、フランス(排出係数56g/kW時)とスウェーデン(28g/kW時)のみだが、実質的に原子力の電気による水素製造が認められたことになる。両国の発電量における原子力の比率は、それぞれ約7割、約3割だ。

 環境団体は30年からの追加性の適用についてグリーンウォッシュ注1)と批判しているが、政府、産業界からは定義が決まったので水素製造に対する投資が容易になると歓迎する声が上がっている。フランス政府は、自国で必要な量の水素を製造できないドイツ政府と、今後建設されるパイプライン経由フランスの原発の電気で製造された水素の輸出入を行うことで合意したと発表している。

 3月には、欧州の鉄鋼、化学、肥料業界と個別企業がECに対し原子力の電気で製造された水素の利用を訴える書状を提出した。重工業、輸送部門の脱炭素に必要な水素については現実的な枠組みで考えるべきと主張している。ドイツの産業界も原発を利用して製造される水素の利用を進める。つまり、ドイツは実質的に原発を利用することになる。水素の時代にも他国の原発に依存するしかないドイツの現実がある。

注1)
グリーンウォッシュ:企業等が、実態を伴わないのに、あたかも環境に配慮した取り組みをしているように見せること。