米政府原発支援の潮流
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」より転載:2023年5月1日号)
米ボーグル3号機原発が今年3月に送電網に接続し、1,2カ月以内に商業運転を開始する見込みになった。4号機も年末か来年年初には運転開始予定だ。2012年の計画段階では、4年後と5年後の運転開始を見込み、140億ドルの投資額だったが、完成は遅れ投資額は計画額の2倍を超えた。
今年4月に米国に出張し原子力関係者から状況を聞く機会があった。ボーグルについては新設が中断する間に施工技術、人材などが不足する事態になり工事を開始した時点で躓いたのが大きく響いたようだ。東欧などでは米国製大型炉への関心が高まっている中で、米国では資金調達面からも小型モジュール炉(SMR)に関心が集まっている。SMRが水素製造拠点になるともみられている。
連邦政府が拡充している大きな支援策は、生産税額控除(PTC)と投資税額控除(ITC)だ。ボーグル原発も2005年に導入された制度により発電量1キロワット時(kWh)当たり1.8セントのPTC、つまり税の還付を8年間受けることができる。昨年8月に成立したインフレ抑制法では、さらに制度が拡大された。
PTCは、24年時点で運転中の原発に対し32年までの間1kWh当たり1.5セントとなり、25年以降に操業を開始する新型炉は2.5セントのPTCを10年間、あるいは投資額の30%のITCが受けられる。さらに、炭鉱、石炭火力発電所の跡地などに建設すると控除額は10%上乗せされる。
ビル・ゲイツ氏が会長を務めるテラパワーは、連邦政府の補助金を受けワイオミング州でGE日立・ニュクリアエナジーの技術に基づく35万kWのナトリウム冷却高速炉建設計画を進めている。石炭火力跡地に建設されるので税額控除額は10%増になる。
日本でも建て替えが必要だが、リスクを抑制する英国式に加え米国式の制度を導入しなければ、自由化され料金の見通しが不透明な市場の中で投資やSMR建設のリスクを取る事業者は出てこないだろう。150兆円超の投資を想定するGX制度の有効活用が肝要だ。