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ドイツ企業の海外移転が加速か


ジャーナリスト


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 ロシアによるウクライナ侵略が長期化し、エネルギー価格の高止まりが続いている。

 これまで、ドイツのヨーロッパ経済での「一人勝ち」を支えていた一つの要因が、ロシアから安価なエネルギーの供給を受けられたことにあった。それを基にした製品を世界、特に中国市場に輸出し、ドイツ経済は好調を維持していたのである。

 そのモデルがウクライナ侵略後は成立しなくなった。「ドイツのビジネスモデルが揺らいでいる」(公共放送ARD)との指摘も出ている。

 ドイツの新規契約者の天然ガス、電気価格はすでに2021年10月から上昇をはじめ、2022年初頭には、それぞれ、1キロワット時当たり19.4セント、同47.5セントとどちらも前年同期比で2倍強となっていた。

 2021年夏は風が弱く風力発電量が少なかったことや、長期的な傾向ではあるが、化石燃料への投資が減少していることなどが価格上昇の原因だった。

 その中で起きたのが、ウクライナ侵略だった。対ロシア制裁の一環として、ロシア産の石炭、石油に対する禁輸措置が発動され、天然ガスの輸入削減が図られた結果、エネルギー価格の上昇に拍車をかけた。

 ガス価格は、3月初めに急上昇し、一挙に4倍となった。その後少し落ち着いたが、7月入り再び急騰し、9月には7倍にまでなった。その後下落したものの、依然として前年の2倍程度の20セント/1キロワット時で推移している。


出典:公共放送NDRのサイトより

 電気料金の動向も大体同じで、10月に56.5セント/1キロワット時をピークにその後やや下落したが、40セント/1キロワット時を上回る高い価格が続いている。  


出典:公共放送NDRのサイトより

 ロシアからドイツに直接天然ガスを供給する、バルト海海底のパイプライン「ノルトストリーム」は、爆破されたこともあり当面、使用不可能である。ドイツ北部ヴィルヘルムスハーフェンの液化天然ガス(LNG)ターミナルは12月21日に稼働を開始したが、パイプラインに比べ、コストの上昇は避けられない。

 ハーベック経済・気候保護相は、ガス価格の低下は2023年末に期待できるだろうが、2021年のレベルに戻ることはない、などと国民に対し資源高への覚悟を説いている。

 当然だが、ドイツ経済界の危機感は強い。

 企業の倒産件数は1万4700件で、2009年以来、初めて増加し、昨年比で4%増となった。特に売上高1000万ユーロ以上の企業の比較的大規模な倒産が目立つ。

 企業に対しては、コロナ禍やインフレ対策として給付金や税控除が行われており、必ずしも経年比較が意味を持つわけではないが、エネルギーや原材料費の高騰を消費価格に転嫁できない企業が、今後も厳しい経営を余儀なくされると予想されている。

 これまでの産業立地の優位性が失われたことから、ドイツ企業の間で生産コストが安い他国に生産拠点を移す動きが生まれるのが自然だろう。

 すでにウクライナ侵略の前から、海外移転の加速化に警鐘を鳴らす記事がドイツメディアに散見された。

 2022年2月21日付のARD(電子版)によると、ドイツ産業連盟(BDI)の行った、ミッテルシュタントとよばれる中小企業対象のアンケート調査で、回答した418社のうち、65%がエネルギー高騰で対応を迫られている、23%が経営存続が難しくなっているとし、さらに約20%が一部生産拠点の海外移転を考えていると答えている。

 ウクライナ侵略後、エネルギー価格が上昇したことで、この傾向が加速している。

 自動車産業連盟(VDA)のヒルデグラート・ミュラー会長は10月、南ドイツ新聞のインタビューで、「電気料金はすぐに下げなければならない。会員の半数は投資計画を取りやめないし延期し、5分の1以上の会員が海外移転を進めている」と警告している。

 こうした経済界をはじめとする国民の不満にこたえて、ドイツ政府は11月、ガス価格に上限を設けることを決定した。大企業などの産業用ガスは2023年1月から2024年4月までの間、7セント/1キロワット時、一般家庭や中小企業のガス代は12セント/1キロワット時を上限価格にする。

 ただ、こうした措置も産業界を納得させるには不十分なようだ。

 11月29日に行われた経済・気候保護省などが主催する会議で、ドイツ商工会議所連合会(DIHK)のマルティン・ヴァンスレーベン会長は、「非常に高いエネルギーコストのために、ドイツ企業が海外移転する現実の危険がある」と語った。海外移転を口実にドイツでの一層の条件改善を求める発言とも受け取られているが、危機感の強さの表れでもある。

 連邦統計局の調査によると、エネルギーコストの高騰を理由に、すでに60企業に1つが海外に拠点を移した。

 ヴァンスレーベン会長は、「ヨーロッパに比べて米国は明らかに魅力的(な立地条件)になっている」と述べた。現在、海外移転先として最も有力となっているのが米国で、エネルギー価格が場合によってはドイツの10分の1程度であることがその最大の理由となっている。米国もこの機を逃さず、安価なエネルギー価格や税制で誘致を積極化している。

 海外投資先としては、これまで中国が最も有力で、自動車大手フォルクスワーゲン、BMW、電機大手シーメンス、化学大手BASFなどは、今も中国国内に工場を建設するなど対中投資を拡大している。

 しかし、ウクライナ戦争を契機に、ドイツが権威主義国家と距離を置き、サプライチェーンの多角化を進める傾向は、徐々にではあるが強まるだろう。欧州連合(EU)は、インド、アセアン諸国との経済関係を強化し、自由貿易協定(FTA)締結を進める動きを強めている。今後、ドイツ企業のこれらの国々への移転も活発化するだろう。
 
 ドイツ政府としては国内産業の空洞化は避けねばならず、産業政策は難しいかじ取りを余儀なくされる。経済界からは、エネルギー価格の抑制策ばかりでなく、国内投資を容易にするための一層の規制緩和や税制改革、外国人労働者の受け入れを求める声が強い。



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