次の世代、原子力で社会合意ができる希望

-高校生アンケートで見えたもの-


経済記者。情報サイト「&ENERGY」(アンドエナジー)を運営。

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 「福井県 高校生の原子力に関する意識調査 2022」という調査にコメントを寄せ、内容を精読する機会があった。2005年度生まれの人たちがエネルギーをめぐり、何を考えているのかを知ることができた。原子力へのイメージは悪いが、「知りたい」という希望も多かった。エネルギー問題で、次の世代には、熟議により未来が創り出せるかもしれないとの希望を抱けた。紹介してみたい。


福島第一原発の工事現場、2017年10月。
事故が日本のエネルギー問題に影響を与え続けたが、その状況は変わりつつある(筆者撮影)

原子力、「危険」のイメージが約8割−「知りたい」との声

 この調査結果は、福井南高校のホームページに掲載されている。

 同調査は昨年6月に福井県の高校2年生(主に2005年度に生まれる)1882人、東京の高校生の161人にアンケートをした。

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原子力という言葉へのイメージ(複数回答)との質問に上位5つをみると、福井県の高校生は「危険」が77.5%と最も多く、次に「必要」とした人が38.9%、「役に立つ」32.0%、「暗い」17.0%、「気になる」15.5%だった。(図1)

(図1)問:あなたは「原子力」という言葉を聞いたとき、どのようなイメージを思い浮かべますか。
次の中からあてはまるものをすべて選択してください。

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東京の高校生の原子力のイメージでは、「危険」82.0%、「暗い」47.8%、「必要」35.4%、「役に立つ」23.0%、「わかりにくい」「気になる」がともに19.9%だった。福井は原子力施設が集まり、東京は電力の大消費地だ。原子力が身近にないと、マイナスのイメージが強まることがうかがえた。そして福井、東京共に、高校生の間では、原子力についてネガティブなイメージが強いことも確認できた。

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福井の高校生が原子力発電を意識したのは中学校1−3年が26.0%、小学校4−6年生が25.1%だった。意識のきっかけは「授業」39.0%、「ニュース」18.2%だった。2005年生まれの人は、就学前に東日本大震災、東電の福島第一原発事故を経験した。記憶が少なく、その衝撃が他世代より小さく、学校で学ぶ人が多かったのかもしれない(図2)。

(図2)問:意識するようになったきっかけを教えて下さい。

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2021年の高校2年生への調査、つまり2004年度に生まれ、震災の2011年には小学校1年生であった1学年上の人たちへの調査では、福井の高校生の「危険」の割合が80.2%、「暗い」が19.6%だった。22年の調査より少し多かった。年を経て少しずつ、東電の原子力事故の衝撃が薄らいでいることがうかがえる。

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福井・東京の高校生に、今後の日本ではどのようなエネルギーを利用するべきかという問い(複数回答可)では、太陽光発電が70.9%で、風力(61.4%)、水力(56.0%)、バイオマス(53.8%)、地熱(42.6%)、原子力(31.9%)だった。

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最近のキーワード、「カーボンニュートラル」について、福井・東京の高校生の46.7%が「知らない」、28.8%が「あまり知らない」と回答した。この言葉はあまり浸透していなかった。カーボンニュートラルは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることで、日本は2050年に達成することを目標にしている。

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全体で125件の自由記述による回答があった。それを記す高校生はエネルギー・この問題に興味を持つ人だろう。その中で60件が、「もっと学びたい」「学ぶ機会がほしい」と述べていた。

読み取れる高校生の冷静さ

 統計で読み取れるのは、原子力に対するイメージの悪さだ。「危険」という印象を持つ人が約8割もいた。ただし立地地域の福井の高校生は前述の理由で、東京の高校生よりも、少しだけ良い印象を持つが増えていた。また「必要」「役に立つ」が3割以上いた。高校生に、単純な原発拒否の考えは広がっていない。多様な意見があり問題を冷静に見ていた。これらは感覚的に結果を予想できたが、それが数値で裏づけられたのは興味深かった。

 一方で回答からは「カーボンニュートラル」という考えをそれほど知らないこと、再エネへの過剰期待などが読み取れた。高校生はエネルギーをめぐる全体像を、なかなか捉えられない、教えてもらっていない、断片的に情報を得てしまうことが推定できた。正確な情報をより多く学べば、適切な答えを導き出せるかもしれない。

 寄せられた自由記述は全体の8%程度だ。その高校生の意見の半分は、教育や情報についてのものだった。この問題に関心があり、学ぶ機会がほしいと要請していた。「メリットを言うべき」「中立の立場の情報がほしい」などの声があった。

 エネルギー問題の報道を続けてきた私には、これらはうれしい回答だった。興味深い、面白い問題が数多くある現代の日本において、エネルギー問題だけを高校生に考え続けさせることはできないだろう。しかし、それを4%程度とはいえ、真摯に考え続けようとする高校生がいることは心強かった。

社会合意こそ、エネルギー問題を前進させるが…

 エネルギー政策づくり、そしてその実行は、国民の理解と協力が不可欠だ。しかし、どの国でも原子力、気候変動、それに関連するエネルギー問題は、政治的な争いに巻き込まれてしまう。日本の場合には、2011年の東京電力の福島第1原子力発電事故があったためなおさら対立の材料になってしまった。そのためにこれまで賛成か反対かの対立だけが目立ち、議論をして合意を重ねる取り組みが少なかったように思える。

 しかし福島の原発事故から11年以上が経過し、冷静な議論を始めるときと考えている。原子力を使わないことによる、弊害も目立つようになった。電力料金の上昇や電力不足による停電の危機だ。アメリカ、フランスなど他の先進国のように、社会合意を作り出せないだろうか。

 このアンケートでは、近未来に活躍する17歳の人々の考えをアンケートで知ることができた。2040年には、この世代の人々が社会の中心になる。原子力への警戒は強いものの、そして関心を持つ人は一部ではあるものの、政治的な偏見なく、さまざまな情報によって自ら判断を下そうという姿勢がうかがえた。

冷静な議論、学びから得られる社会合意の可能性

 私は原子力を活用するべきという考えだ。そして高校生たちの意見を、誘導しようとか、操作して原子力を支持させようという傲慢なことを主張するつもりはない。しかし、彼らから柔軟な、固定観念にとらわれない姿が見えた。その状況を活かし、エネルギー問題で合意を作り出すことはできるかもしれない。

 難しいことだが、民主主義を守り、問題を解決するために、合議と熟議を私たちは重ねなければならない。これまでは、対立や批判でエネルギー問題に向き合い、さまざまな問題を解決できない失敗をしてしまった。熟議と合意を重ね、若い世代が原子力とエネルギーをめぐる問題を解決していくことを願っている。その可能性を私はこのアンケートから読み取り、期待できた。

 できれば、次の世代を待つのではなく、今からエネルギー問題の合意づくりを行いたい。ようやく岸田政権が原子力政策を活用に転換し、世論の多数もそれに肯定的だ。しかし、反対意見も一定数あり、政治的にそれを取り下げない勢力もいる。欧米諸国のような合意を作り出すことは難しいだろう。