算数も経済学もできない独緑の党


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」より転載:2022年10月11日付)

 本連載執筆時点では、脱原発が決定していましたが、その後ショルツ首相が、運転中の3基全てを4月15日まで利用可能な状態にしておくことを決断しました。首相令という異例な形の決断になりましたが、首相令が関係閣僚と同時にマスメディアにも配信され、透明性のある形で発表されました。
 緑の党の閣僚からはコメントはでていないようですが、緑の党の一部議員からは首相決断に対する批判と不満が表明されています。

 ドイツ政府は、今年末に計画通り3基の原発を閉鎖し脱原発を実現することを決めた。7月から行われた冬季の電力需給に関するストレステストの結果、原発の継続利用に踏み切るとの期待も周辺国にはあった。ロシアからの化石燃料供給減少により価格が上昇し、エネルギー危機に陥っている欧州諸国にとり、ドイツの原発の継続利用による化石燃料消費削減は助けになる。ドイツが1年間原発を利用すれば、LNG換算400万トン以上が節約可能になり、高騰する価格を冷やす効果がある。

 しかし、脱原発運動を源流とする緑の党が、独連立政権の中で経済、外務、エネルギー・環境関係大臣を握る以上、周辺国が期待する原発の継続利用の可能性が小さいことは事前にも予測されていた。ハーベック経済・気候保護相は、「ドイツには十分なエネルギーがあり、原発を継続利用しても冬季のエネルギー需給には影響を与えない」とコメントしていた。どういう計算をしてもエネルギー需給に影響を与える筈だが、緑の党は算数が苦手なのだろう。

 ベアボック外相は、「既に脱原発のため何十億ユーロも使用しており、脱原発を中止すれば今までの投資を溝に捨てることになる」とコメントし、経済学の基礎知識がないことを白日の元に晒してしまった。経済学あるいは経営学では意思決定に際しサンクコスト(埋没費用)を考慮してはいけないと教える。

 既に使った費用、時間がもったいないと考えてはいけないとの教えだ。例えば、プロジェクトAの事前調査に1億円使った後、違う案件Bが登場した。どちらの案件を選択しても使用した1億円は戻ってこないので、サンクコストを考える必要はない。今からの収益に基づきAあるいはBを選択すべきだが、つい1億円がもったいないと考えAを選択しがちになる。

 正確なデータも持たず、経済学の基礎知識もないまま意思決定を行えば、間違うのも無理がない。直接迷惑を受ける周辺国は、政策決定に必要な知識を持たない独緑の党に呆れていることだろう。