変質するCOPと化石賞の化石化


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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(産経新聞「正論」より転載:2022年11月22日付)

COPの見本市化

 世界から3万3千人以上の参加者を集め、気候変動への対応を議論する国連会議COP27がエジプトで開催された。参加者数では昨年英国で開催されたCOP26に及ばないものの、会場の広さは過去最大級だろう。各国政府、企業やNGOが巨大なパビリオンを出展し、まさに国際見本市の様相だ。

 2015年のパリ協定採択を機にCOPは変質した。パリ協定は各国が自主的な目標を掲げ、進捗を報告し、前向きに取り組むことを義務づけるものの、掲げた目標の達成は法的義務とはしていない。政府間で交渉すべきことは減り、各主体が自分たちの取り組みをアピールする場となった。

 COPの役割の変化を踏まえ、日本の貢献や強みを積極的にPRしていくべきだろう。しかしこの国際見本市を毎年2週間も行う意味があるとは思えない。

「基金設立」は合意したが

 気候変動を巡る対立軸は複雑化している。一つは先進国と途上国の対立だ。「新たな南北問題」とも呼ばれるように「加害者」とされる先進国と、温暖化の被害を集中的に受ける一方、発展する権利を制約された「被害者」とされる途上国の対立構造を基本とする。

 COP27で途上国は自然災害の被害は先進国が引き起こした気候変動によるものと主張し、賠償する仕組みの構築を求めた。基金設立は合意に至ったが、先進国に余力はない。新型コロナに加え、ロシアのウクライナ侵攻で各国経済状況は極めて厳しい。途上国間の基金配分方法や、25年にもし米国で共和党政権となれば実際に資金が提供されるのかなど具体化に当たっては予断を許さない。

 もう一つは、欧米と中国・インドの対立軸だ。欧米には昨年採択されたグラスゴー気候協定を踏まえ、途上国にも野心的な削減への計画を立て削減目標を引き上げることを促したい思惑がある。しかし中国・インド等はこうした動きを警戒している。欧州が導入を検討する国境調整措置がこの対立をさらに先鋭化させている。

 欧州域内の産業界は排出量取引で炭素価格を負担している。域外で負担せず製造された製品には関税をかけるというのが国境調整措置だ。複雑なサプライチェーン(供給網)で排出量を正確に計測する手段がないこともあり、この制度のターゲットとされる中国・インドは、国境調整措置は環境の皮をかぶった保護主義で、パリ協定違反であると反撃を始めた。

 もう一つ興味深いのは欧州委員会と欧州産業界との対立だ。米国商工会議所や日本経団連が中心となり、経済団体はCOP期間中にビジネス対話を実施している。だが今回の対話には欧州産業連盟をはじめ独仏など常連の産業団体が軒並み欠席した。聞けば「域内問題で手いっぱい」だそうで、エネルギー危機に際しても気候変動対策目標を引き上げる欧州委員会と、産業界は鋭く対立している。

 日本が初日に、環境NGOが温暖化対策に後ろ向きな国に贈る「化石賞」を受賞したことが大きく報道された。しかし水素技術で火力発電の低炭素化に取り組むことが批判を受けるものとはどうしても思えない。会期中毎日、化石賞が発表されたが、世界最大の排出国の中国も、エネルギー危機で急速に石炭火力発電の利用を増やしたドイツも受賞していない。

 主催者自身もこれを「ショータイム」と呼ぶ化石賞のイベントは、もはや化石化している。

日本はどう貢献すべきか

 日本は政府・産業界共に派手なパフォーマンスを得意とはしない。だが各国の産業団体や研究者からは高い期待も示される。日本の貢献として3つ指摘したい。

 1つ目は、データの確保だ。エネルギー使用量やCO2排出量のデータ取得に関する知見が途上国には乏しい。加えて中国は、企業の排出データを国家管理の下に置き、国際的な業界組織にも一切提供を拒むという。世界各国が共同歩調を取るには透明性あるデータは欠かせない。

 日本が打ち上げた温室効果ガス観測衛星いぶき2号は、発電所など大排出拠点の排出量を高精度センサーを用いて宇宙から観測できるという。貢献価値は非常に高い。

 2つ目は防災だ。途上国は自然災害への補償を求めたが、本当に必要とするのは被害を縮小する技術だ。保険制度などを含め蓄積がある日本の貢献余地は大きい。

 3つ目は日本の高効率技術による世界の排出削減への貢献だ。日本国内の排出量削減も重要だが、世界全体の3%弱の排出量を半分にしたとしても、地球温暖化の解決にはならない。エネルギー供給危機に直面する世界で、エネルギー消費そのものを抑制する日本の省エネ技術への期待は大きい。

 日本の技術の普及による世界の温室効果ガス削減への貢献量を明らかにしようと政府は取り組んでいる。日本が目指す「環境と経済の両立」はこの制度が確立されるか否かに大きく左右される。政府と、技術を有する産業界が協力してこれに取り組むことが必要だ。