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欧州エネルギーシステムの危機


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監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子

本稿は、Alexander Stahel, The Crisis of the European Energy System, The Global Warming Policy Foundation Note 35
The Crisis of the European Energy System (thegwpf.org)を、The Global Warming Policy Foundationの許可を得て翻訳したものである。

欧州エネルギーシステムの危機

 欧州の電力網は、現代の奇跡といえる。それは世界最大の同期電力網(接続電力による)である。モロッコやトルコなど欧州連合に加盟していない国も含め、32カ国の5億2千万人のエンドユーザーと相互接続しているのだ。2019年、大陸の電力網全体の純電力消費量は2兆6350億キロワット時(kWh)だった。同期はしていないがつながっている国であるイギリス、アイルランド、北欧諸国、バルト諸国を加えると、3兆3000億kWh以上にもなる。これは大変な電力量である。

 電力網はイデオロギーではなく、あくまでも物理学に基づいて作られている。 例えば、ある物理法則によれば、電力網を流れる交流電流の発電量は、常に消費量と一致しなければならない。つまり、1年=525,960分の間、常に消費量(専門用語では「負荷」)と一致しなければならないのである。この単純な事実が、我々が直面している問題を理解する上で重要なことである。

 欧州全域の需要を満たすために、15分単位の短いブロックで常に電力負荷が予測され、何千もの発電機がその需要を満たすために競り合いを行っている。また、ネットワークの周波数は、電力網の健全性を測る重要な指標である。局所的に測定されるが、超地域的な重要性を持ち、需要と供給の間の不均衡を示す最初の指標となる。この周波数は、非常に狭い範囲内に収めなければならない。それができなければ、インフラへのダメージやシステムの完全な停止につながる恐れがあるためだ。

 周波数がズレる事象(インシデント)はさまざまな理由で発生するが、風力や太陽光発電の比率が高まるにつれて、より一般的な事象になってきた。再生可能エネルギーは需要に合わせた出力の調整できないため、供給不足に対応する目的で分単位で出力を上げることができない。そのため、電力網の観点からは信頼性に欠ける。その普及の影響は、周波数事故が2020年の33時間から2021年には52時間以上と、わずか1年で50%以上増加していることからも明らかである。2021年だけでも、欧州電力網では2件の重大(「スケール2」)インシデントが発生し、電力網運営会社Entso-e(欧州送電事業者ネットワーク)の専門委員会が最終説明報告書を作成しなければならなかった。

 欧州の電力網は、需要に見合うだけの電力を供給することが難しくなってきている。Figure 1はその問題を示している。ほとんどの国が電力の純輸入国であり、フランスとドイツ、そしてわずかにチェコに依存しているのが実態である。言い換えれば、ほとんどのヨーロッパ諸国は、自国のエネルギー安全保障に責任を負っていないのである。

特に問題があるのは次の数カ国である。

  • イタリアは、1990年代に原子力発電所を閉鎖し、陸上風力発電所を数カ所建設しただけで、洋上風力発電所はまったく建設していない。現在ではほぼ完全に天然ガスに発電を依存しており(訳注;イタリアの天然ガス火力の発電シェアは約50%)、しかも信頼できる供給を確保することができないでいる。
  • オーストリアは水力発電と天然ガスを併用しているが、電力需給のバランスをとるためにドイツに依存している。ドイツが過去20年間、原子力や化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を図る「エネルギー革命(Energiewende)」に取り組んでいることは、オーストリアの指導者の目には留まらなかったようである。
  • ハンガリーは電力網の燃料をロシアからの天然ガスに頼っている。
  • スロバキアとフィンランドは、少なくともいくつかの新しい原子力を稼働させることができたが、それは困難を極めており、費用もかかり、まだそのプロセスは完了していない。
  • オランダは天然ガスに依存しており、巨大なフローニンゲン・ガス田を保有しているが、そこでの生産を段階的に停止することを決定し、国際液化天然ガス(LNG)市場の言いなりになっている。

 全体として、かつて電力の主要輸出者であった欧州大陸の電力網は、現在、ノルウェー、スウェーデン、イギリスからの輸入に頼っている。しかし、短期的には4つの大きな問題があり、長期的には1つの巨大な構造的問題があるため、欧州大陸の政策立案者たちには警鐘を鳴らす必要がある。短期的な問題点は次の通りである。

フランスの原子力

 フランスは欧州の原子力発電のリーダーとして、年間4500億kWhを供給できるはずである。しかし、設備の腐食の問題により、その出力は著しく低下しており、運営を担当する国営電力会社EDFが発表した指針によると、2022年には3150億kWh、つまり生産能力のわずか59%にまで低下する可能性がある。EDFは過去に過大な期待を持たせておいて、実現しなかった経緯があるため、この数字を実現することさえ難しいかもしれない。

 その結果、フランスは最近、数十年ぶりに電力の純輸入国になり、電力価格が高騰している。イギリスとベルギーにあるEDFの原子炉の出力も大幅に低下している。

ドイツの原子力

 EDFの原子力発電所はメンテナンスが悪い。しかし、ドイツはそのようなことはなく、長い間90%をはるかに超える稼働率で運転している。また、理論的にはウラン燃料の安定供給が確保されている(実際には確保されていないが)。原子力発電はもちろんゼロ・カーボンであり、極めて安全である。しかし、2011年、メルケル首相の率いるドイツキリスト教民主同盟(CDU)は、連立政権への圧力を受けてドイツの全原発を廃止し、発電量のシェアを25%からゼロにすることを決断した。 そして2022年12月には最後の3基の原子力発電所(出力合計400万kWh)が閉鎖され(訳注:現在の予定では2基は閉鎖されず来年4月まで稼働可能な状態で維持される)、これまで欧州第2位の電力輸出国であったドイツが再び電力の純輸入国になる可能性がある。このことは、現在電力需要のかなりの部分を輸入に頼っているすべての国、特にイタリア、オーストリア、ルクセンブルクに深刻な影響を与えるだろう。

 ドイツでは、原発の代わりに休止中の石炭火力発電所を稼働させることが期待されているが、ロイターの報道によると、ほとんどの発電所が老朽化しており、再稼働させることができないとのことで、どれだけの発電所が稼働できるかは不明である(訳注:既に石炭火力と褐炭火力の稼働が決まったとの報道がある)。ロシアから供給されるはずの石炭の入手が困難な発電所や(訳注:8月からロシア炭は輸入禁止となった)、現在の石炭価格の高騰が経営を圧迫している発電所もある。そのため、ドイツ、ひいては欧州の多くの国々がガスに依存しており、ガスは現在非常に不足している。

ノルウェーの水力発電

 欧州は、ほぼすべての国が輸入国であり、残りのほとんどの国も間もなく輸入国になるため、供給不足を補うためにノルウェーとスウェーデンの水力発電に期待している。しかし、昨冬の降雪不足で貯水池の水位が低く、ノルウェー政府は輸出の制限を検討している。もしそうなれば、欧州の電力網は需要を満たせなくなる。

ウクライナ

 3月、ロシアの侵攻を受け、欧州とウクライナの電力網が接続された。この措置は、ウクライナの電力網に重要な支援を提供したが、欧州のエネルギー安全保障にとってはさらなるリスクをもたらした。

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