原子力こそ環境問題の解決策

書評:マイケル・シェレンバーガー著 藤倉良、安達一郎、桂井太郎 訳『地球温暖化で人類は絶滅しない 環境危機を警告する人たちが見過ごしていること』


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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電気新聞より転載:2022年8月19日付)

 著者のシェレンバーガーは環境運動家としてスタートした。だがいまは、最も環境に優しいエネルギーとして原子力を熱烈に推進している。この本では急進的な環境運動がいかに世界の人々にとって有害かを分厚く語る。

 彼らは2030年までに世界が温暖化によって滅びるとしているが科学的根拠はない。IPCCや国連などの報告書を好きなように曲解しているだけだ。著者はこの点を環境運動家に直接、繰り返し問いかけて、その欺まんを暴いている。そして、英国などでは過激な運動家が道路や鉄道を封鎖したが、それで通勤できず給料を棒にふった人々、不安が募って精神状態が悪くなった若者などの苦情を紹介している。

 著者は、貧しい国で、最も貧しい人々と生活を共にした。そこで海外からの環境主義の押し付けの数々の害に直面した。コンゴでは、水力発電を建設できず、人々の薪炭利用が続いた。炭が焼かれ、都市に出荷される。これによってゴリラの生息域が失われ、時に人々とトラブルを起こして射殺される。ブラジルでは、セラードと呼ばれる生産性の高い土地での大豆生産が制限され森林保全を強要される。この代わりに生産性の低いアマゾンの森林地帯が開墾されて、かえって森林が多く失われる。

 再生可能エネルギーはコストが高く不安定なので経済開発の役にたたず、面積を多く使うので環境にも悪く、CO2削減の役にも立たない。バーモント州では、有名な気候運動家ビル・マッキベンと民主党の有力議員バーニー・サンダースらの提唱により、再生可能エネルギーと省エネルギーによってCO2を大幅削減する計画が施行された。だが実際には、同州の排出量は1990年から2015年までの間に、計画された25%の減少ではなく16%の増加に終わった。この理由の1つは原子力発電所の閉鎖だが、これとてマッキベンが提唱したことだった。

 人類がCO2を出しており、大気中のCO2濃度は増えており、気温も過去100年で1度程度上昇した。これからも緩やかに上昇を続けるだろう。だが世界では今でも貧困と戦う人々が多くいてその経済成長が優先順位の第一だ。そして経済成長のおかげで自然災害の被害者数も激減してきた。この確固とした流れが急に逆転して人類が絶滅するなどという気候危機説は有害でしかない。冷静に考えれば原子力を推進すれば済み、経済を破壊するのは誤りだ。


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『地球温暖化で人類は絶滅しない 環境危機を警告する人たちが見過ごしていること』
マイケル・シェレンバーガー著 藤倉良、安達一郎、桂井太郎 訳(出版社:化学同人
ISBN-13:978-4759821710