米国中間選挙の見通し


環境政策アナリスト

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 今年11月に予定されている米国中間選挙に向けて民主・共和両党陣営の動きが活発化している。今回の中間選挙では下院全議席、上院35議席、州知事の36ポストが争われる。中間選挙は現役大統領の信任・不信任を問うという側面もあり、残りの任期の大統領の影響力を左右する意味合いをもつ。現時点ではおおむね与党不利という報道がなされているが、本稿では最新情報による分析をしてみたい。

中間選挙をめぐる二つの論点

 これまでの中間選挙の趨勢としては現職大統領の野党が優勢となる。すなわち今回は共和党である。また今回米国ではエネルギー価格が高騰し、インフレが昂進していることは与党民主党に不利に働くと考えるのもおかしくはない。4月のクックポリティカルレポートの見立てでは下院は民主党が20~35の議席を減らし、上院は共和党が過半数を取り戻すというものだった。しかしながら、その見通しはすこし変わっている。多くの米国世論調査会社では、民主党の議席減少は10~20にとどまり、上院では民主党が過半数を維持するという見方も強まっている。
 もうひとつ考慮するべきことは、依然共和党内に影響力をもっているといわれるトランプ氏のマイナスイメージである。2021年ジョージア州では2つの上院選決戦投票が同時に行われ、結果的には民主党が2議席を確保したが、トランプ氏はジョージア州の大統領選および上院選挙に不正があったと主張しており、州務長官に圧力を加えたとされている。しかし、このとき共和党内部でも介入を巡って対立があったと言われている。また、連邦議事堂への襲撃を扇動したとされていることも党内で亀裂を生み出している。こうしたことから共和党有利の見通しは、すこし揺らいでいるとみられている。かりに中間選挙で共和党の票が伸びなかった場合には共和党ではトランプ前大統領の党内影響力に変化が起こる可能性もある。もちろん逆に上下両院の過半数を得たら、共和党内ではトランプ前大統領支持は維持されることになろう。どちらにしても中間選挙は共和党にトランプ氏の影響が残るか、または共和党が伝統的な親ビジネス・自由市場主義者の政党に戻るかの試金石となる可能性もある。

バイデン大統領の支持率の変化

 米国世論調査会社のリアルクリアーポリティックスの調査ではバイデン大統領支持率は就任後6ケ月の蜜月が続く中、4月には最高の支持率を出した後、2021年8月アフガニスタンからの突然の撤退を境にして不支持が支持を上回っている。2022年になってからエネルギー価格高騰およびインフレの昂進により、世論ではバイデン大統領の不支持率がますます増大した。もちろんウクライナ侵攻開始および一般教書演説の後は少し改善しているが、支持率改善に大きな影響は及ぼさなかった。しかし、7月に底を打った後、潮目は少し変わり、8月に、財政赤字の削減、国産エネルギー生産拡大、クリーンエネルギーの促進などを目指した「インフレ低減法案」が可決、成立してからバイデン大統領の支持率は回復基調となっている。

 また6月に女性の人工中絶権を認めた1973年「ロー対ウェイド判決」を覆す決定が出たことも、これに抗議する民主党支持者を一層活気づけた要因となっている。さらに8月にはフロリダ州のトランプ邸宅で連邦捜査局(FBI)が家宅捜査し、政府の機密文書を押収したことも共和党支持にとって不利な事態となった。とはいえ、まだバイデン大統領の支持率を高めるには十分であるとは言えず、中間選挙に向けてこの流れが一層強化されるかどうかは不明である。

下院の見通し

 下院は8月時点で民主党が220対211(空席4)の勢力を保持し、過半数を得ている。秋の中間選挙で民主党議員の31人が引退を表明しており、共和党は18人が引退を表明している。この点からすれば中間選挙では共和党有利が予測される。バイデン大統領の支持率の低さも民主党候補者にはマイナスである。またこれまで共和党下院予備選においてはトランプ支持者の勢力が優勢だった。すでに9人の共和党現職候補がトランプ氏支持派の新人候補に敗北している。象徴的なのが、連邦議会襲撃事件でトランプ氏を批判していた元副大統領の娘リズ・チェイニー氏が、8月の予備選でトランプ氏の支援を受けた候補に敗れたことだ。
 民主党サイドをみるといくつかの選挙区では中道派民主党候補が支持を伸ばしている。例えば、トランプ前大統領の弾劾裁判で検察官役を務めたニューヨークのゴールドマン氏は予備選で現職を破っている。ゴールドマン氏ら中道派民主党候補は白人高学歴層の支持が強い。民主党は白人高学齢層で共和党を12パーセントリードしている(白人労働者層では共和党が25パーセントリード)。ちなみに女性票をみると白人高学歴層では民主党が27パーセントの差をつけている(女性白人労働者層では共和党22パーセントリード)。世論調査会社によれば郊外居住主婦層を含む女性白人高学歴層は、最高裁が中絶権を覆した決定に強い懸念を抱いており、民主党候補への支持に動くとみられる。同様の傾向として、8月にバイデン政権が発表した、学生ローンの最大2万ドルの免除も民主党には強い追い風になりそうだ。バイデン大統領についても民主党についても白人高学歴層、特に女性はその支持基盤の核となりそうだ。

上院の見通し

 現在上院は50対50で副大統領が議長を務めるため、民主党がかろうじて過半数を占めている。したがって35議席を争う中間選挙では共和党は一議席余分にとるだけでよい。接戦となっている8つの改選議席をみてみると、共和党の8改選議席のうち7改選議席では、トランプ氏支持者が予備選で自派候補を立てることに成功している。しかしながら、最近の分析では多くの州でトランプ派候補よりも民主党候補が比較的優勢に選挙戦を進めており、トランプ派候補は中間層に訴えが届かず苦戦が目立っているようだ。トランプ派の支持を得ていないフロリダ州共和党ルビオ候補だけが民主党候補を引き離しており、トランプ派候補であるウィスコンシン州のジョンソン候補(現職)およびペンシルべニア州のオズ候補は、民主党候補、それぞれバーンズ、フェッターマン候補に差をつけられている。またトランプ派であるジョージア州のウォーカー候補も共和党の牙城の同州であるが、2021年の決戦投票で勝利した民主党ワーノック候補に離されている。以前はワーノック候補は中間選挙では議席を失うとみられていたが、今ではFBIによるトランプ邸宅捜査の影響もあり、優勢とされている。ウィスコンシン州、ペンシルベニア州、ジョージア州の結果次第であるが、共和党が上院の過半数を得るのは微妙な情勢となっている。なお、同時に行われる州知事選挙においてもトランプ派知事候補は必ずしも有利に選挙戦を進めていない。トランプ前大統領の圧力に抵抗したケンプ・ジョージア州知事(共和)が予備選でトランプ派候補に勝利している。

まとめ

 すでに述べたように、中間選挙は与党にとって不利というのがこれまでの一般的傾向である。また、今回は特にインフレの昂進とエネルギー価格の高騰が、一層与党にとってマイナスになっているはずである。共和党ではトランプ派について言えば最近の世論調査で優勢ではないとみられている。11月までこの情勢が続くかどうかは予断を許さないが、8月共和党のマッコーネル院内総務が「下院においては(共和党が)勝つ可能性が高いが、上院は別だ。個々の候補者の質が(上院の選挙の)結果に関係する」と述べている。これは上記のおよびウィスコンシン州、ペンシルべニア州、ジョージア州での共和党候補の苦戦を背景としたコメントである。下院は10年ごとに行われる選挙区割で現在は共和党に有利なものとなっていることもあり、下院は勝利できると一般的にもみられているが、マッコーネル院内総務のように上院の動向には慎重である人もいる。
 注目すべきは共和党の中でトランプ氏とマッコーネル院内総務の間のひびが、大きくなっていることである。トランプ氏は「マッコーネルは野党のリーダーではない。彼は民主党を恐れており、やるべきことが行われないであろう。すぐに共和党のリーダーを選ばなければならない」と批判している。この対立は中間選挙で有利なはずの共和党の票が伸びなかった場合、先鋭化し、党内のトランプ氏影響力の見直しにもつながる可能性がある。

出典:
2021年1月4日ブルームバーグ記事 
2022年9月9日NBCニュース
米国エネルギー情報局Petroleum & other liquids
国際技術貿易アソシエイツ