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羽田検疫でコロナ陽性、隔離生活を送るの記


フリージャーナリスト(元読売新聞編集委員)


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 3月30日から4月9日まで、ポーランドのウクライナ国境に取材に行ってきた。そして羽田空港に帰国したところが、空港検疫でコロナ陽性となってしまい、執筆時点で隔離生活を余儀なくされている。
 環境問題に関係のないテーマで恐縮だが、私が体験した2022年4月初頭での、海外渡航に伴うコロナ検疫の現状を記したい。
 本サイトにはすでに山本隆三所長が、「コロナ禍で海外に出かけたら結構スムーズでした」という記事を寄稿されているが、所長の体験が成功体験とすれば、私のは「コロナ禍で海外に出かけたらコロナになりました」という失敗体験である。
 このサイトの読者には、社用、セミナー、学会などの目的で海外出張する人も今後増えていくのではないか。渡航前、帰国前、帰国後、結論の4つの部分に分けて書いたので、恥を承知で記す体験記のうち、必要な箇所を参考にしていただければ幸いである。

搭乗前のばたばた

 私は2月にワクチン3回目を接種済みだった。その証明書はスマホに接種証明書アプリをインストールして見られる状態にしてあり、英語記載の紙の書類も念のため市役所に行って取得しておいた。
 航空便予約は旅行代理店に依頼した。私的海外渡航の際は、ネットで自分で予約していたが、今回は航空便の急なキャンセルもあるかと思い、代理店に頼った方が無難だろうと判断した。フランクフルト経由ポーランド・クラクフ行きの往復を購入した。
 在京ポーランド大使館のサイトには、入国前24時間以内のPCRか抗原検査陰性証明書が必要とある。とすると出発前に空港で受診するしかない。
 出発時刻のぎりぎりのタイミングである9:00の予約を、羽田空港第2ターミナルの「木下グループPCR検査センター」に取った。「検査センター」の案内には検査前にチェックインはしてはならないとあったが、搭乗時間に遅れては元も子もない。
 先に第3ターミナル(国際線)のカウンターでチェックイン(預入荷物はなかった)をし、第2ターミナルに無料バスで移動して受診し、また第3ターミナルに戻ることにした。
 搭乗手続きでは、チェックインカウンター職員から、ワクチン接種証明書の提示が求められたが、スマホのアプリを開き提示すればよかった。
 個人的に痛感したのが、このサイトの大方の読者には必要のない指摘かもしれないが、スマホを使いこなす必要性である。「検査センター」への会員登録や結果の受け取りは全てスマホで行わねばならない。会場で社員の人には迷惑をかけながら、スマホの操作法を教えてもらい、なんとか出発に間に合うように検査を終えることができた。ちなみに都民は所定の書式に書いた紙を提出すれば無料である。
 フランクフルト空港のトランジットでは、ドイツへの入国審査を無事に通過し(この際、ワクチン接種証明書の提示の要請はなかった)、クラクフ空港に同日24:00近くに到着した。
 ポーランドはシェンゲン協定加盟国であり、ドイツへの入国手続きを終えている以上、入国審査がないのは当然としても、全く拍子抜けだったのは、検疫も全くなかったことである。つまり、荷物を持って歩いて行ったら出口から出てしまった。到着ロビーに出たとたん、なんだかキツネにつままれた様な感じがしたことを覚えている。

ショッピングモールの雑踏の中でも、マスク着用者はほぼ皆無だった(クラクフで):筆者撮影

地下鉄車内でも同様(ワルシャワで):筆者撮影

 ホテルにチェックインする時、マスク姿の私に対してレセプショニストが、「もうマスク着用の規制は解除されました。クラクフにようこそ」と微笑みかけた。


ウクライナ国境近くの町プシェミシルのウクライナ避難民たちも、マスク着用者は皆無(プシェミシル駅構内の発券所前で):筆者撮影

帰国前にPCR検査

 帰国が迫ってくると、今度は日本入国の際の条件を満たさねばならない。それは日本政府が義務付けている出国前72時間以内のPCR陰性証明である。厚労省のサイトで見ると、「有効な検査証明書を提示できない方は、検疫法に基づき、日本への上陸が認められません」と恐ろしいことが記してあり、証明書には政府が求める要素が一つでも欠けると日本に入国できない。というよりもまず帰国便に搭乗できない。
 在ワルシャワ日本大使館のページに、ポーランドの主要都市で日本政府が求める書式にのっとって検査する診療所のリストがある。そのうちの一軒が滞在していたクラクフのホテルから徒歩10分程度にあることが分かり、事前に訪問しておいた。


筆者がPCR検査を受けた診療所の入り口(クラクフで):筆者撮影

 事務担当の女性に「日本に帰国するのだが、日本政府が決めた書式の陰性証明書を用意できるだろうか」と尋ねて、コピーしてきた日本政府の書式を見せたところ、「ああわかっている、わかっている」という感じで、「予約は必要ない」と言って、「7:00~14:00 Mon~Fr」と書いたメモを私に渡し、「この時間内に来ればいい」と言った。
 出発2日前、7:00過ぎに受診に行った。2人すでに受診者がいて(ワクチン接種者のようだった)、15分程度待ったが、事務は前回とは違う女性で、「カード、現金?」と聞くので「カード」と答えて335ズウォティ(約1万円)を支払った。隣にいた看護師がすぐに鼻に綿棒を1回突っ込んで検体を採取し、あっという間に検査は終わった。
 「明日7:00からならいつでも大丈夫。日本の書式のものを用意しておく」と言って、「7:00~14:30(14:00ではなかった。30分の違いなど違いに入らない)」とメモをした検査料金の領収書を渡された。
 翌日、出発時刻14:50で余裕はあったが、7:00に診療所に行った。今度は待合室に患者はおらず、事務の女性も前日と同じ人で、結果については何も言わず、慣れた調子で結果を記した書類をハイと渡された。結果は陰性だった。
 まさに日本政府の書式に英語で書き入れてあり、ポーランド語の証明書も見ている前でホチキスで止めた。もう一部必要か、というので、万が一のことを考えそれももらっておいた。「もし陽性だったらどうなったのか」と聞いたら、彼女の英語は稚拙だったので私なりに解釈すると、「ポーランドはもう隔離政策は取っていないので、そのままクラクフに残ればいい」といった回答だった。
 こうして帰国への準備は済んだが、検査をした後くらいから、時々咳が出始め、体がやや熱っぽくなってきていた。ワルシャワでインタビューした研究者が、「これはCovid19ではない。ただの風邪だから安心しろ」と言いながら、しきりにくしゃみをしていたのが頭をよぎった。コロナ感染ではないだろうと高をくくっていたが、このまま熱が上がって搭乗を拒否されたらどうしようか、と不安の新たな種が頭をもたげてきた。

空港検疫で陽性判明

 しかし、クラクフ空港での搭乗も無事に済み、フランクフルトでの乗り継ぎもできて、羽田便は2022年4月9日夕刻、駐機場に駐機した。
 検疫場に着くとすでに長い列ができている。ただ列は意外に早く前に進み、5分程度で先端に来た。立っている係員が、入国者が提示するスマホ画面を見て、「検疫手続きの事前登録」を行っているかどうか確認する。画面が出ないのはスマホが空港のWiFiに接続されていないからだと幾人かの人が待つように言われていた。
 検疫手続きの事前登録(「ファストトラック」と英語名称がついている)とは、スマホにアプリをインストールし、質問票、誓約書、ワクチン接種証明書、陰性証明書を入国前に登録しておくもので、2022年3月から日本各地の国際空港で導入された仕組みである。厚労省の案内に「画面を見せるだけで手続き終了」とあるのは、誇大宣伝のきらいがあるが、検疫手続きの迅速化に大いに貢献していることは間違いないように見えた。
 表示できていた人はすぐ近くの最初の窓口に行く。逐次観察していたわけではないが、大半が事前登録を済ませていたようであり、そうでない人は別の窓口に誘導されていたが、さほど人数はいなかったと思う。
 最初の窓口でパスポートと、事前登録の2次元バーコードのスマホ画面を見せて、水色の紙に署名をする。渡航先などを聞かれ、さらに健康状態を聞かれたので「咳がある」と伝えると係員が医務官に相談するから少し待つように言われ、ちょっとの間席を離れた。戻ってくると、そのまま手続きを続けてくださいとのことで、次の窓口に行った。
 そこで、またスマホ画面とパスポートの提示が求められ、ワクチン証明書の有無などを聞かれ、次の窓口から抗原定量検査の手続きに移る。小さなロートに唾液を垂らして試験管に指定された量をため提出すると、結果を待つために待機する、通常は出発ロビーとして使われている場所に着いたのが18:20。降機してから約40分だった。
 手続きは迅速で効率的だったと思う。
 とてつもない長時間かかる、手続きが煩雑などといった、体験記もSNS上などで読んでいたので身構えて臨んだが、全くそういうことはなかった。最近になってもネットで、書類提出が膨大で非常に非効率的だったという報告を読んだ記憶がある。その記事も事前登録の開始前だったのかもしれない。
 ただ、今も人海戦術という感じで相当数の職員(大半が派遣会社からの職員)が働いており、感染の危険は排除されない中で献身的に働く職員の姿には頭の下がる思いがしたが、せっかく電子化された事前登録があるのだから、パスポートとスマホのバーコードをその場で機械に読み取らせ人定を行うなど、さらにデジタル化、効率化できる余地はあるようにも思えた。

 審査結果は大きなモニター画面に、個人の番号の下4桁の表示で示された。私の番号に近い番号が次々と表示されたが、私の番号はなかなか表示されない。悪い予感がしてきたところで、アナウンスで私の番号が呼ばれ、指定した場所に行くと検疫官から「陽性」と記されたステッカーの張った書類を見せられ、「この結果でした。あちらでお待ちください」と待機場の片隅に案内された。しばらくたつとさらに衝立の後ろの別の空間に導かれた。
 この空間はなぜか照明が落としてあって薄暗い。滅入った気持ちをさらに倍加させる。一緒に誘導されたのが少女とその母らしき人、中年サラリーマンという感じの男性だった。その前に来ていた4、5人がすでに椅子に座っていた。当然だが表情は皆暗く、自覚症状もないのに陽性と判定されたからだろう、憮然とした表情でスマホを操っている。
 フェースガードと防護服を着用した検疫職員が私のところに来て、渡航先、職業、現住所、万が一の際の連絡先等々、聞き取り調査をする。そして、無症状、軽症者が隔離されるホテルは銀座、西船橋などにあるが、選択の余地はない。調整に時間がかかるのであと数時間は待つだろうという。聞き取りが終わった時点で時刻を確認すると19:46だった。
 確かに延々と待った。パソコンで少しでも仕事をはかどらせようと思ったが、熱が上がりその気力もなく座席に横たわってうつらうつらしたところで、職員から隔離先は西船橋のホテルになりますと告げられる。
 空港を出発したのは22:30を回っていた。一般の乗降客とは完全に動線を分けているのだろう、職員の案内で空港の裏口のようなところから、駐車していたマイクロバスに乗った。座席シートは全てビニールで覆われていた。向かったのは私を含め男性3人。深夜の首都高高速湾岸線をひたすら走り、30分でホテルに到着した。
 名前を呼ばれた順にバスを降り、感染者専用のホテルの入り口から入って、検温、血中酸素飽和度のテストを受けた。深夜にもかかわらず、ここでも防護服を付けた5,6人が働いていた。外国人対応のためか、ネパール人だろうか、外国人系スタッフも目にした。「高熱で苦しければ飲んでください」と看護師から解熱剤アセトアミノフェンを処方された。部屋の鍵を渡されようやくたどり着くと、24:00近くになっていた。

 この記事の執筆時点で筆者はまだホテルにいる。
 同じフロアの廊下を決められた時間に歩く「散歩」、コインランドリーの使用(要予約)、宅配などの受け取り以外は、原則的に部屋から出られないし、身近に人の姿を目にすることはない。
 一日2回、検温と血中酸素飽和度測定を促す館内放送があり、結果をスマホに入力する。毎朝看護師から健康に関する問診が、ホテルの電話を通じてある。ただ、軽症だからと思うが治療はない。経過観察のみである。
 3回の食事は館内放送があった後に部屋のドアのすぐわきに置かれた椅子の上に置かれる。2回そのごみを係員が回収する。
 こうした隔離生活をどう受け止めるかは人により千差万別だろう。ホテルの部屋は4畳半にも満たないくらい。運動しようにも、例えば腕立て伏せをする空間もない。窓からの眺めは殺風景。酒たばこは禁止。ただ、テレビの視聴は可能だしSNSで外部とはつながっている。
 私の場合、新聞社勤めをしている時も、コロナ禍になってからは出社することも少なくなり一日中家にこもって原稿を書いていることも多かったから、さほど精神的に苦しいとは感じなかった。ポーランド取材の結果を早くまとめる必要もあり、原稿執筆で忙しくしている。
 SNSには、食事が貧相といった「告発」記事も散見されるようである。食事は市中で販売されているありふれた弁当とペットボトルの緑茶で、冷たいのが辛いが、私はこの種のことに不満を言うのははしたないと躾けられてきたので、食事はありがたく戴いていると言いたい。飲食物にもっと幅を持たせたければ、宅配業者を使って外部から購入することや差し入れも可能である(ただ内容物はチェックされる)。私はインスタントコーヒーと粉末ミルクを通販で取り寄せた。
 隔離期間は、症状がなければ入国日を0日目として7日間、8日目に退所できる。私の場合は軽症ではあるが、発熱(38度近く)、咳、のどの痛みなどの症状があったのでもう少し長いかもしれない。幸い症状は改善している。
 1階に事務局がある。隔離者と接触しないように、ここでも動線が分けられているが、シールド越しに中を伺うと、5、6人近くが働いているようである。
 事務局に聞いてみると、事務局職員が2、3人、配膳などを行う生活班の職員が3、4人働いている。外国人隔離者にも対応するためベトナム系、ネパール系などの職員も働いているが、日本人への対応もする、という。

依然として高いリスク

 山本所長の記事を読むと、タイはよほどしっかりした防疫体制を取っていると感じる。今回のコロナ禍で、欧州とアジア諸国のコロナ死者の数が格段に違うのは、こうした政府レベルの対応の違いがあれば、当然とも思える。
 従って渡航先によっても大きく違うとは思うが、私の体験から教訓を汲むとすれば次のようなことがあると思う。
 まず、海外の検疫の現状を知ることは難しい。刻々と変化しているので、日本外務省や当該国の在京大使館のサイトも最新情報を掲示しているとは限らない。だからネットなどの情報を集め、規制の最大値を想定して準備をした方がいいとしか言えない。ポーランド入国に関しても到着空港でPCR検査を受けられるというネット上の情報もあった。それでも羽田で検査を受けていったのだが、結果的に無駄だったにせよ、そうした方がやはり無難なのではないか。
 次に海外での感染のリスクは日本よりもはるかに高いことである。ジョンズホプキンス大学のコロナによる人口当たりの死亡率のランキングによると、ポーランドは日本の約13倍である。それだけの犠牲者を出している国だが、私が訪れたときは、マスク姿の人を町で見ることはほぼ皆無だった。いろいろな背景があろうが、日本の感覚から言えばきわめて緩い姿勢で疫病に対しているのがポーランドである。
 ただ、少なくとも欧州の大方の国はポーランドと同様の状況なので、いくら日本人がマスクをし、手洗いを励行したところで、感染を予防することは日本でよりもはるかに難しい。
 最後に、最大のネックともいえるのが、日本入国の際、義務付けられている陰性証明書である。私の場合幸い陰性だったが、数日遅ければ陽性だったかもしれない。そうだった場合に被る状況は想像するだに恐ろしい。帰国便はキャンセルしなければならないし、重症化すれば滞在国でコロナの治療を受けねばならない。それがすみ、陰性となるまでは帰国便に搭乗することもできない。現地の日本領事館に頼ることになるのだろうが、とても厳しい状況に置かれることになる。
 長々と書いてきたが結論めいたものを記せば、よほど強い必要がない限り、そして所属する組織が渡航先に支社などを持つか、あるいはしっかりした受け入れ機関がない限りは、とりわけ欧州への海外渡航は、少なくとも日本政府が帰国に際しての陰性証明書の提出を義務付けている間は、控えた方が賢明と言わざるを得ない。
 海外渡航を余儀なくされたのであれば、帰国を前にスマホでの検疫手続きの事前登録は必須である。
 3月1日から、指定国滞在歴なし、3回ワクチン接種者、空港のPCR検査陰性であれば待機なしで活動できるようになり、その水際措置の変更があったからこそ海外渡航したのだが、隔離を余儀なくされた。私の濃厚接触者がいたとすれば、申し訳ない限りだ。
 個人的には辛い体験だが、公共の衛生を守るために必要な措置であることはよくわかる。検疫所職員をはじめ政府挙げての取り組みがあってこそ、特に欧米諸国に比べ日本は10分の1程度の犠牲者で済んでいるのである。



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