太陽電池のリサイクル

― 現状と課題 ―


ガラス技術研究所 所長

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 我国は、化石燃料だけでなく、太陽光の日射強度や安定した風力の再生可能エネルギーの資源も乏しく、さらに国際的な電力の連繋線もガスのパイプラインも通じていない。そのため太陽電池(photovoltaics,PV)の導入は、原子力発電と同じく、エネルギー自給率を高め、エネルギーの安全保障の一翼を担い、またPVのリサイクルは、PVパネルを国内で再生産し、経済安全保障に資する、と期待される。

 2011年の東日本大震災以降、PVの大量導入が始まり、PVの平均寿命の25年を経て、2030年代後半に大量の廃棄物が発生することが予想されている。その量は年間17~28万トンである。結晶系シリコンPVパネルが90%を占め、PVパネルの重量の70%がガラスであり、年間15万トン(t)前後の廃ガラスが発生することになる。このガラスは、ひ素やアンチモンの有害物を含んでいるため、リサイクル可能なガラスの量は年間3万tと少なく、残りの12万tの廃ガラスが毎年、管理処分されることになる。

 2010年代半ばから素性の不明なPVパネルの輸入が急増し、現在では輸入品が国内新規市場の100%近くを占めている。結晶系PVパネルの廃棄物は金属、有機物とガラスから成る。既にパネルの“分解”技術は開発されているが、有機物とガラスを“分離”する精度は低い。さらにガラスは成分によって物性が変化するので、廃ガラスを再利用するためには、成分分析して、“分別”しなければならない。廃PVパネルの「分解+分離・分別」技術の確立が急がれる次第である(図1)。


図1. 廃ガラスの分別
出典:NEW GLASS, No. 132, 2021年.

 PVパネルとそのガラスの主たる生産国の中国は、廃プラスティックと同様に廃ガラスを回収しない。ガラスのほとんどが、透過率を上げるためにAsやSbを添加した有害ガラスであり、放置すれば、ヒトの健康、水質、大気、及び土壌に悪影響をもたらすため、管理型処分が必要になる。異常なことであるが、欧州のWEEE指令では1000ppm(0.1%)未満のAsは非表示で、RoHSの規制対象にAsもSbも含まれていない。もちろん有害物を含まないガラスに置換すれば、「PV用ガラス→建築用白板ガラス→自動車用濃色ガラス→ビンガラス→ガラスウール→路盤材」というリサイクルも成立ち、廃棄物を減らせる。

 2020年までの日本のPVの累計導入量は71.4GWで、一人当たりの導入量(=将来の廃棄量)は、世界トップレベルである(表1)。また2020年の平地面積当たりの導入量は、先進国の英仏独の6.76,16.4,2.32倍であり、日本よりも累積導入量が多い米中の10倍を遥かに超えている。過剰な導入の結果、環境負荷が高くなり、土砂災害等の”環境に優しくない”状況が生じている。我国にとって適正な導入量は多くとも31(71.4÷2.3)GWと推定される。


表1. 国民一人当りのPVの c.導入量(a.累積導入量÷b.人口), e.発電量(c.×d.設備利用率),
“IEA PVPS T1-37, April 2020.”に基づき、設備利用率を調査して、推定.

 しかしながら、昨2021年の第6次エネルギー基本計画では、2030年のPVの導入目標は100GWであり、環境負荷を先進国並みに抑えながら、発電量を達成するには、PVモジュールの発電性能を2030年までに現状の約3(100÷31)倍、即ち45~60%にすることが目標になる。PVに限定せず、発電源の戦略的な研究開発が求められる。
 
 PVリサイクルのシステム化は、家電、建築、自動車用ガラスに比べて遅れている。リサイクルに当たっては、廃PVパネルの架台から取り外し、分解業者への搬送、有価物の分離、有価物及び廃棄物の輸送、廃ガラスの分別とガラス原料にするための成分調製、管理処分場の設置・運営、PVパネルの再生産と販売、等の全てにコスト負担が伴う。循環経済の動脈側のPVの導入促進のために、国民が平等に再エネ賦課金を分担しており、静脈側のリサイクルの費用は、売買電事業者や家庭等の受益者が負担するのが望ましい。行政、等のステークホルダーには、循環経済社会に向かって、課題の解決に真摯に取組むことが求められる。