中学生のためのやさしい温暖化問題(その1)
中学生・高校生に考えて欲しいこと
小谷勝彦 / 山本隆三
NPO法人国際環境経済研究所 理事長/NPO法人国際環境経済研究所 所長
中学校で学ぶ生徒から、総合学習の一環として温暖化問題を学んでいるので、温暖化に関する意見を聞きたいとの質問が当研究所のホームページに寄せられた。その質問の内容は以下の通りだ。
- ①
- 脱炭素社会は実現できるのか。
- ②
- 脱炭素社会を実現させるためには、個人、企業は何ができるのか。
- ③
- 現在、日本、および世界の二酸化炭素排出量はどのような状況か。
- ④
- 温室効果ガスの排出を抑制し、排出された二酸化炭素を回収することで実質的にゼロを達成することが、脱炭素社会実現に向けて重要だと私は思っています。その際、どのように二酸化炭素を回収するのでしょうか。また、回収された二酸化炭素をどうするのでしょうか。
- ⑤
- 脱炭素社会実現のためには、多くの人に「脱炭素社会」について知ってもらうことが必要だと思います。世界の人々に関心を持ってもらうには、個人、企業はどうすればよいとお考えでしょうか。
中学生あるいは高校生の時から社会的な事柄に関心を持つのは良いことに違いないが、世界には温暖化以外にも多くの問題がある。日本に住んでいれば、あまり気づくこともないが、アフリカのサハラ砂漠以南(サブサハラ)では、10憶人の住民の内半分以上は電気のない生活をしている。夜は灯油ランプの生活だ。そのため児童、生徒の学びにも影響があるだろう。貧困も問題だ。例えば、インドでは栄養失調の人が依然として2億人を超えている。
温暖化が進めば、南西アジア、サブサハラに住む自給自足経済で暮らす人たちは大きな被害を受けると言われている。温室効果ガスを排出せず温暖化を引き起こしていない、これらの人たちが温暖化の影響を受けるのは理不尽との指摘がある。これらの人たちが温暖化の大きな影響を受けないようにするには、自給自足経済から抜け出す経済発展が必要であり、そのためには当面競争力のある化石燃料を使用するしかない。
COP26のグラスゴー合意文章では、当初案の石炭火力の「段階的廃止」が、インドに代表される途上国の反対にあい「段階的縮小」になった。マスコミではインドを悪者にする論調が多かったが、途上国に、供給国が多様化され安定供給に寄与し、価格競争力がある石炭の廃止を約束させるのは無理だろう。
以前インド、ムンバイの街中で渋滞に巻き込まれたことがある。同乗していた人から、「裏通りを抜けていくが、目を閉じておいた方がいいかもしれない」と言われた。その意味は裏通りに入って直ぐに分かった。渋滞していた裏はスラム街だったのだ。アフリカの貧困地区でも泥で作った家に住んでいる人がいたが、インドでも状況は似たようなものだった。確かに、目を閉じた方が良いかもしれない。正視することに耐えられない状況で暮らしている人を見るのは辛い。世界の貧困問題は、喫緊の課題だが解決の歩みは遅い。SDGsの17の目標の第一にあげられているが、2030年までに解決することが可能なのだろうか。
問い合わせを戴いた中学生には、担任の先生経由次のコメントを先ずお送りした。
温暖化問題も重要ですが、世界については、多くの考えることがあります。いま、地球の人口は80億人に近づいています。そのうち、一日1.9ドル以下で暮らしている人が約7億人います。国の物価水準で調整した数字なので、日本で言えば一日約200円で暮らしている人です。日本ではそんな人はいないですが(日本では200円では暮らせませんが、世界には200円でなんとかやりくりしている人が7億人いるということです。かつてインドに出張した時に読んだ新聞の世論調査で驚いたのですが、インドでは生まれてから一度も満腹感を味わったことがない人が国民の8割を超えています。いつも飢えている状態ということです)、世界では、その日の暮らしに困り、いつ餓死するかもしれない人が多くいます。
持続可能な開発目標(SDGs)では、17の目標があります。その一番最初に「貧困をなくそう」が出てくるのは、そのためだと思います(スライド1)。地球温暖化の問題も重要です。たとえば、温暖化が進むと気候が極端になり、アフリカでは雨が降らなくなり、農業を行うことができなくなる可能性が指摘されています。アフリカの多くの国では働いている人の7,8割の人が農業に従事しています(スライド2)。約10億人の人口のうち電気がない人が半分以上です。電気がきていないので、工業とか商業とかを行うことは難しいですね。温暖化により農業に影響が出れば多くの人は仕事を失い、自給自足の生活を失います。一部の人は、既に難民として欧州に逃れています。さらに、一部の人は過激派に入り生活の糧を得ています。温暖化が難民から過激派まで生んでいると言えますが、電気があり、農業以外の産業があれば、温暖化の影響はそれほど大きくならないと言えます。温暖化以外にも考えるべきことは多くあります。
温暖化は難しい問題です。地球の気温が上昇しているのは事実です。また、二酸化炭素をはじめ温室効果ガス濃度が上昇しているのも事実です(スライド3)。ただ、私たちは、温室効果ガス濃度がどの程度上昇すれば、地球の気温がどの程度上昇するか正確には分っていません。気温上昇には都市化などさまざまな影響もあるためです(世界中で人々は都市に集中して住むようになりました)。ノベール物理学賞を受賞した真鍋叔郎さんが開発した「モデル」などを利用するシミュレーションにより予測を行っていますが、その幅は大きく(スライド4)、影響を正確に予測することは難しいです。2100年に気温が約5度上昇するとニュースは伝えますが、その数字は予測の最も高い温度です。さらに、難しいのは、温度上昇が環境、社会にどのような影響を与えるかわかっていないことです。気温上昇が2度であれば壊滅的な影響を与えると言われていますが、正確にはよく分かりません。前提の置き方で様々な経済予測があります。
ただ、どんな影響があるか分からないのであれば、火災保険と同じで保険料を支払って保険をかけるしかありません。ただし、その保険料で私たち(地球上のすべての人です)が、さらに生活が苦しくなるようでは困ります。世界では、さらに餓死者をだすことになるでしょう。温暖化対策は大切ですが、私たちが対策にかける資金には限度があります。特に、日本は、2050年ネットゼロを宣言している主要国、米、英、EU、カナダ、韓国のなかで、最も所得が低く、経済が成長していない国です(スライド5)。約2000万人、人口の16%の貧困層をかかえています。今後人口も大きく減少すると予測されています。米国、EU、英国などと日本の経済情勢、社会事情は大きく異なっています。残念ですが。
中学生の具体的な質問に回答した後、担任の先生経由再度メールを戴いた。具体的な質問への回答と中学生からの再度のメールについては、その2をご覧いただければと思う。