中国超限戦の尖兵 左翼知識人
書評: 高田 純 著『脱原発は中共の罠』
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
(電気新聞からの転載:2021年10月29日付)
1960年、日本の6人の作家・評論家が、国交のない中国を訪問した。その中に後年ノーベル文学賞を受けた大江健三郎氏がいた。彼らは主に日本国内の日米安全保障条約反対闘争を詳しく伝えるために時間を費やした。帰国後彼らは熱心な親中派になった。
その後大江氏は、2011年に「さようなら原発1000万人アクション」の呼びかけ人の一人となり「安倍新政権の原発増設・再稼働させようとする行為は許せない」と会見で述べた。だがその大江氏は、1964年に始まった中共の核実験・核武装に対しては、「核実験成功のキノコ雲を見守る中国の若い研究者や労働者の喜びの表情が、いかにも美しく感動的だった」と67年に書いている。
他方でフランスが核実験を始めると、彼は猛烈にフランス批判を始めた。フランスワインを飲まないというパフォーマンスまでやってのけた。一方で、中国の核実験に対しては完全に沈黙を続けた。
中国は64年以来、侵略したウイグル人の土地である楼蘭遺跡周辺のタクラマカン砂漠でメガトン級の大型核実験を繰り返した。総回数は46回、22メガトンに及ぶ。これは広島の原爆の1375倍にも及ぶ。特に楼蘭遺跡の近くで行われた3発の核実験では急性死亡は19万人、と高田氏は推計した。
ロプノール湖付近で核実験が繰り返されていたことを知りながら、中国政府の隠蔽に協力しシルクロードの歴史番組を繰り返し放送してきたNHKの責任は重い。
さて中国の政治・行政・メディア・教育界などへの工作は有名になった。世界各国での工作はクライブ・ハミルトンらが「見えない手」に書いた。日本への工作はCSISの報告書「中国の日本への影響」がまとめた。あからさまな工作をするまでもなく、日本の左翼知識人たちは元から反米、反核、反原子力で、共産主義が好きだ。だから、中国へ招待して接待する程度のことで、お手軽に活発な運動家に仕上がった。
脱原発は中国が仕掛けたわけではない。だが左翼知識人が日本で脱原発運動に精を出し、その一方で中国の原発は不問にすることで、中国にとって願ってもない友軍になっている。脱原発運動で日本は経済が衰退、原子力技術も失いつつある。中国は存分に原発を建設し、技術力を伸ばしている。
中国は世界を恒常的な戦争状態「超限戦」とみなす。使える手段はなんでも使う。日本の反原発運動は重要なコマだ。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず