貧しい国日本での太陽光パネル導入政策を問う


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」からの転載:2021年8月18日付)

 バブルが弾けた直後、90年代半ば日本の国内総生産額(GDP)は5.5兆ドル、世界のGDPの17%を占めていた。一位米国は7.4兆ドル、シェアは24%だった。今、日本のGDPは殆ど変わらず、米国のGDPは21.4兆ドル。米国のシェアは変わらないが、日本のシェアは6%になった。当時世界2位だった1人当たりGDPは、米国CIAデータでは韓国にも抜かれ世界44位になった。

 豊かな国ではなくなった日本で、新築戸建て住宅への太陽光パネル設置を2030年60%にする案が国土交通省で検討されている。設置義務化も選択肢の一つと報道されている。設置の主目的は、二酸化炭素削減だが、削減のため電源の非炭素化が一方で進んでいる。大規模電源と家庭の太陽光パネルのCO2削減コストを考えれば、その費用対効果はすぐに計算できる。おまけに電源の非炭素化が進めば家庭のパネルの削減効果はどんどん小さくなる。

 日本の家庭には太陽光パネル設置の経済的余裕があるのだろうか。米国エネルギー省の資料(2017年)によると、パネルを設置している家庭の年収中央値は、全世帯年収の中央値6万ドルを3万2000ドル上回る9万2000ドルだ。日本の世帯年収の中央値は437万円(2018年)。日本の世帯平均年収が最も高かったのは、四半世紀以上前の1994年、664万円だったが、いまは552万円だ。米国には高収入の世帯が多く、世帯平均年収は日本のほぼ2倍の9万1400ドル、1千万円を超えている。世帯年収が低い国日本では、大きな負担を強いる政策の導入は難しい。補助金でパネル導入を後押しするのだろうか。賃貸住宅に住む制度の恩恵を受けられない人は負担だけ強いられる。

 パネル導入が日本の産業に寄与することがあればまだよいが、パネルの8割以上は主に中国からの輸入品だ。国民の収入が減少している中で、隣国の産業を助ける余裕は日本にはとてもないと思う。何を達成するため導入される政策だろうか。戸建てを新築する多くの人も疑問を持つのではないか。