核融合炉はどこまで小型化できる?(その1)

そもそも核融合炉が大きくなる理由は何か?


元慶應義塾大教授、1990年代から国の核融合関連委員会にも関与

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 前回の「核融合炉は手の届くところにある」では、50万キロワットの熱出力をめざす核融合実験炉ITER(イーター)が、日・米・EU・露・中・韓・印の国際協力で進んでいることを紹介した。
 そのとき、ITERは非常に大型だと述べた。図1をみても、人の大きさ(画像左側の白丸)から、その規模がうかがい知れるだろう。


図1 画像はITER機構提供。人物を囲む白丸は筆者が追加

 ところで、最近の報道では「小型の装置で核融合が実現出来る」とするものが散見される。では、もはや大型なITERは無用の長物なのだろうか?
 決してそうではないことを説明しよう。
 ITERが大きくならざるを得ない理由は、単に「核融合を起こす」だけではなく、「核融合から熱を取り出し発電をする」技術を統合的に試験するためには、この大きさが必要なためだ。

 下図の中央には核融合炉の具体的な設計イメージを、その周囲に核融合炉の技術課題を説明してある。左側に書いてある項目①②が「核融合を起こす」ための技術で、右側の③④は、「核融合から熱を取り出す」のと「燃料製造」のための技術だ。
 ここで①②だけならば確かに小型なものも作れるかもしれない。だが③④まで同時に考えると、ITERのような大きさが必要になってくるのだ。


図2

 先に進む前に、まず核融合炉の基本をおさらいしよう。

 核融合炉では、水素の同位体(変わり種の水素)である重水素と三重水素を1億度にして核融合を起こす。海水を構成する水素のうちの1/7000が重水素である。三重水素のほうは天然にはほとんどないので、リチウムから核融合炉の内部で製造する。一億度になった水素は、原子核と電子がばらばらになった「プラズマ」という状態になる。このプラズマは磁力線を横切れないという性質があるので、核融合を起こすプラズマを強い磁場で閉じ込めるのが、ITERを代表とする磁場方式核融合炉の原理だ。

 磁場方式の核融合炉の構造を簡略化して示したのが図3だ。リング状に並んだ超伝導コイル(赤)の中にプラズマが閉じ込められる。図3右に、その断面を示す。プラズマと超伝導コイルの間には、ブランケットという構造物がある。


図3

 さて、ではどのような技術課題があるのか。図2を反時計回りに説明していく。

 まず①の超伝導コイルについてだ。核融合を起こすには、かつてない強い磁場を発生する大型の超伝導コイルが必要だ。また、この限られた空間内で、超伝導のための絶対零度に近い極低温と核融合に必要な1億度との温度差を保持するのが難しいのはいうまでもない。冷たいものと熱いものがぶつかるときには、材料には大きな力もかかる。

 次に②のプラズマ性能だが、1億度のプラズマを磁場で制御し、空中に浮かしながら燃し続けるのは、難易度が高い技術である。一方で、この難しさは、なにか故障とか異常とかがあればすぐに停止、という核融合ならではの安全性にもつながってもいる。また、燃料の重水素と三重水素はしっかり閉じ込めておきたいが、核融合反応の排気であるヘリウムは取り出したい、という相反する目標の同時達成も、難易度が高い。とにかく何でも閉じ込めればよいのではなく、取り出したいものもあるのだ。

 次が③の排熱部だ。プラズマの下の部分、図の茶色の部分、には排熱機構があり、ここはロケットノズル並みの高温になる。その除熱処理は、単なる冷却といえども難易度が高く、ITERの設計でも最新の材料と技術を駆使して、ようやく可能になった。

 ④番のプラズマを取り囲む水色の部分がブランケットである。ここでは、1億度のプラズマに直面している内側の表面を材料の許容温度に維持しつつ、同時に、ブランケット内部では、発電タービン用の高温蒸気や高温ガスなどを発生し、かつ、リチウムから三重水素を生産する必要がある。また、超伝導コイルを中性子から守る役割も求められる。一つ一つだけなら、比較的簡単なのだが、限られた空間内でこれらを同時に達成するのは容易ではない。

 単に核融合を起こすというだけでなく、核融合からエネルギーを取り出すためには、ここに述べた4つの課題を同時に達成しなければならない。核融合炉を実現するためのこれらの技術全体を統合して確かめるのがITERの役割なのだ。それゆえにITERは大型にはなったが、核融合炉の実用化には必ず通過しなければならない重大なステップである。これをクリアすれば、前回述べたように、実用化段階では十分に安価な技術にできる。