中国の政治工作を実名で暴く

書評: クライブ・ハミルトン、マレイケ・オールバーグ 著『見えない手 中国共産党は世界をどう作り変えるか』


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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電気新聞からの転載:2021年2月19日付)

 バイデンは長年にわたり、中国に融和的だった。

 だがこれには個人的な利害も絡んでいた。バイデンが2013年に公式に中国を訪問したとき、息子のハンターも同行した。それから2週間も経たずに、ジョン・ケリーの義理の子と設立したハンターの会社は、経験が乏しいにも関わらず、中国国営の中国銀行を筆頭株主としたPHRパートナーズというファンドを開設した。この企業でのハンターの株式は約2千万ドルの価値があるという。

 これは単なるバイデン親子の倫理の話にとどまらず、中国共産党が工作する手口を明らかにしている。これは「代理汚職」と言われるもので、トップリーダーは自分の手を汚さず、その家族らが関係を利用して財を成すものだ。

 その後、北京は15年にかけて積極的に南シナ海に進出したが、オバマ、ケリー、バイデンは何もしなかった。オバマは温暖化に関する米中協力を演出しパリ協定というレガシーを残すことに執着していた。

 中国は国連にも工作している。中国は、多くの機関でトップを務める。SDGsを推進する国連経済社会局も中国がトップを務めている。国連経済社会局は、一帯一路を国連のアジェンダに押し上げた。国際労働機関など多くの国連機関が一帯一路協定に署名しその正統性を高めている。

 中国は学界にも工作している。ネイチャーを出版している大手学術出版社の「シュプリンガー・ネイチャー」は、中国のオンライン・プラットフォームに掲載できる論文を中国当局に決定させている。

 著者はリベラルであり右翼ではない。母国豪州が中国共産党の工作で危機にひんしていると悟り、前著「目に見えぬ侵略」でその実態を暴いた。これはベストセラーとなり、豪州の世論を動かし、今の対中強硬姿勢を招来した。著者は日本の読者に語り掛ける。「もし中国を止められず、その思想が世界に広まり、力でアメリカを凌駕すれば、恐ろしい世界が到来する。私は中国共産党が指導する中国に支配された世界で生きたくない。私たちがいま当たり前に享受している全ての自由や権利が奪われる。自由なライフスタイルを、子供や孫の世代も享受してほしい。しかし中国が支配する世界では不可能だ」

 米中外交の展開に一喜一憂するのではなく、日本は我が事として中国と対峙しなければならない。本書は必読の教本である。


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『見えない手 中国共産党は世界をどう作り変えるか』
クライブ・ハミルトン、マレイケ・オールバーグ 著/奥山真司 監訳/森孝夫 訳(出版社:飛鳥新社)
ISBN-13: 978-4864108010