気候市民会議を通じたフランスの社会実験(後編)
~市民による提言が組み込まれた法案のポイント~
永田 公彦
Nagata Global Partners 代表パートナー(在フランス)
今月1日公開の前編で、気候市民会議の設立(2019年10月)に至る10年間の経緯、及び気候市民会議が政府に提出した149の提言(2020年6月)の内の約3分の1が反映された気候変動対策関連法案(le projet de loi “Climat et Résilience“)注1) が先月10日閣僚会議に提出されたことをお伝えした。
そこで本稿では、同法案のポイントを以下に示す(主要部分の要約)。
カーボンスコアの義務化(1条)
食品のNutri-Score(ニュートリスコア:フランスが2017年に最初に導入し現在欧州7カ国に拡がる食品の栄養評価の5段階格付表示)のように、消費者が購入する一部の製品・サービスにCFP(カーボンフットプリント)の表示を義務化(5年以内に施行)
集団食堂での菜食メニューの導入実験(56条)
地方自治体は、2021年9月より10年間は、学校食堂で毎日選択できる菜食メニュー提供を、これを恒久化する前段階の試みとして実施可能
集団食堂での食材の高品質化とオーガニック化
2025年までに、社員食堂等を運営する民間の集団食事サービス事業者は、持続可能な高品質食材を50%(内20%をオーガニック製品)使用することが義務化される(学校等の公的食事サービス事業者は来年1月1日からこれが義務化予定)
農業用窒素肥料の削減強化(59条)
2024年には、農業用窒素肥料の利用削減目標に達していない場合は、2024年より課税を開始
バルク(非パッケージ)商品の流通促進(11条)
バルク商品の拡大発展に向け、2030年以降、大・中規模スーパーにおけるバルク販売特化売場面積目標を20%に設定(尚、バルク販売小売業態については、2021年1月25日公開の下記の記事を参考いただきたい)
【 欧州で「パッケージフリー=量り売り」の商品流通が急増する理由 】
永田公彦 パリ発・ニッポンに一言! ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
化石燃料広告とプロモーション活動の禁止(4-5条)
化石燃料に関する広告、及びCSA(国家放送委員会)による「環境に悪影響を及ぼす製品のプロモーション活動削減のための行動倫理規定」にそぐわない販売促進活動の禁止(対象エネルギーリストを示す政令発効後に即時施行)
低排出ゾーンの創設(25条)
全国45の都市圏(人口15万人以上の都市対象)を低大気汚染地域に指定。規定水準を超える汚染濃度に達した場合、汚染物質排出量の多い車両から通行禁止措置を講じる(2030年より施行)
近距離国内航空便の運航禁止(35、37条)
列車にて2時間30分未満で移動可能な都市間の国内航空便の運航を禁止(気候市民会議は4時間以内としていたが最終的に2時間30分に短縮) 。また、電車利用を促進するため、航空会社は2024年までに全ての国内便の温室効果ガス排出量を100%相殺すること
交通道路分野でのエネルギー関連税の強化
地方自治体による道路エコ税導入(31条)、2030年1月1日以降95gCO2/km NEDC又は123g CO2/km WLTP以上排出する自家用車の新車販売を禁止(28条)、自家用車の排出ガス規制の強化、専門家向けディーゼル税の優遇税制の段階的廃止
エコサイド(生態系や自然を破壊する行為)の犯罪化適応(63-65条)
生態系に対し、深刻かつ永続的に影響(少なくとも10年間)を及ぼす環境破壊を意図的に行った場合、エコサイド犯罪の処罰として10年の懲役と450万ユーロの罰金を課すことが可能
室内熱を大量放出する建物の賃貸禁止(41、45条)
室内熱が大量に外へ漏れる建物の賃貸を2028年以降禁止(現在同国でこの対象となる建物は推定5百万件)。建物売却時のエネルギー診断を義務化し、集合住宅のエネルギー性能診断を一般化。また、暖房付きテラスを禁止するための法的枠組みを明確にする。さらに2040年までに、建物の総合的なエネルギー改修を義務化する
業務用建物に対する再生可能エネルギー設備の設置又は屋上緑化に関する義務の厳格化(23条)
都市化法で、商業面積1000m2以上の商業施設と物流施設に課している再生可能エネルギー設備の設置義務、又は屋上緑化義務を500m2に引き下げ、2024年1月1日に施行
土壌荒廃化率の50%以上削減(46-47条)
都市近郊地域の開発による農地や森林等の土壌荒廃化を、2030年までの10年間で過去10年間に比べ半減させる
土地の荒廃化を防ぐための一部新たな商業施設の新設を禁止(50条)
土壌の人工化をもたらす可能性のある10,000平方メートル以上のショッピングセンター等の商業施設の新設を禁止
紙製印刷物の家庭への配布の禁止(9条)
宛名が無記名の紙製印刷物の家庭への配布禁止措置を36か月間実験的に実施
公共調達における環境への影響の配慮(15条)
公共調達法を改正し、公共の工事やサービスの発注、公共財産や備品の調達において環境負荷を軽減するための配慮を義務づける
以上が、気候市民会議の果実の一部としての法案内容のポイントとなる。
今後、同法案は今月末に国会の特別委員会で審議が予定されている。同時に、環境保護を憲法に盛り込む文章が、マクロン氏が望む国民投票前の必須ステップとして今月には国民議会で検討されることになっている(同法案では、フランスが「環境と生物多様性の保全を保証し気候変動と闘う」とする憲法第1条にこれを盛り込むと規定している)。