紫色の水素も忘れてはいけない
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」からの転載:2020年12月21日付)
数年前まで水素利用に熱心なのは、日本を含めた東アジアの国と褐炭利用の水素製造の計画を持つ供給国豪州だったが、2050年温室効果ガス純排出量ゼロ宣言とともに欧州諸国が水素に注力し始めた。電力部門の排出量をゼロにした上で電化を進めても、産業部門での化石燃料使用は残る。ゼロ達成には水素利用しかなさそうだ。
その水素をどのように製造するかが大きな課題になってきた。今、水素の大半は天然ガスを中心とした化石燃料から製造されているが、製造時に大きなCO2の排出がある。フランス電力の資料によると化石燃料からの製造では1kgの水素製造で10kgのCO2が排出される。
朝日新聞も社説で水素と酸素で電気を起こす燃料電池であればCO2を出さないと取り上げていた。製造方法にも言及しているが、意図的なのか原子力による水素製造には触れていない。化石燃料から作られるグレー水素をまず取り上げている。正確には天然ガスからのグレー水素と石炭からのブラウン水素に分かれているが、触れていない。一方、化石燃料利用でも排出されるCO2を捕捉し貯留するブルー水素には触れている。
再生可能エネルギーが作り出すグリーン水素を排出削減の本命として取り上げ、活用には再エネを思い切って増やすことが必要不可欠と社説は主張している。CO2を排出しない電気からの電気分解で水素を作る必要があるのはその通りだが、パープル水素(以前はバイオマス利用による水素を指していたが、今は原子力利用の水素を指す)には全く触れていない。
再エネから水素を作るのでは、価格競争力に問題がある。欧州ではパープル水素も低炭素水素として認める方向にある。電化が難しいと考えられる航空機、一部の製造業などでは水素利用を進めざるを得ないが、電気のコストが安くなければ水素も安くならない。原子力利用の水素は大切な選択肢になりそうだが、日本では原発再稼慟も進まず、設匿許可の取り消しを命じる判決まである。水素社会実現は簡単ではなさそうだ。