超限戦に勝つ電力供給を求む
書評:喬良/王湘穂 著、 坂井 臣之助 監修、Liu Ki 訳『超限戦 21世紀の「新しい戦争」』
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
(電気新聞からの転載:2020年8月7日付)
202X年、複数の新型ウイルスが日本国内で発生、爆発的な感染拡大が起き、生物兵器テロが疑われるが原因は判然としない。経済活動は封鎖され、人員確保が困難になる中、懸命のエネルギー安定供給はかろうじて続けられた。医療崩壊が迫る中で、今度は国内のあらゆる情報システムが突如ダウンした。ほぼ同時に複数の発電所がストップし、各地で大規模停電が発生。一部では火災も発生した。どうやらサイバー攻撃らしいがこれも原因が判然としない。都市部では治安が悪化し、テロと暴動が頻発する。SNSによるデマが意図的に拡散され、パニックと憎悪をあおっているようだ。生活物資は不足、医療は崩壊、治安も崩壊し、多くの地域は暴力的なグループの支配下に入った。
そしてついに、この大混乱の間隙をついて、日本の島嶼が軍事的に制圧された。もはや日本の戦意は失われており、実効支配が定着した。長引く大混乱を背景に、やがて敵国の傀儡政権が国内に誕生し、日本は自由を失ってしまう。
「超限戦」を読むと、このような恐怖のシナリオが、ありありと見えてくる。
超限戦とは、境界線の無い戦い、という意味だ。かつての戦争は、軍人が戦場で行うもので、庶民は関係なかった。戦争は武器で戦うもので、サイバー攻撃など無かった。兵器と民生品ははっきり区別がついた。だが今やこれらの区別はことごとく消失した。のみならず、戦時と平時の区別も、誰にいつ攻撃されているのかもはっきりしない。
こういった軍事・非軍事の無数の攻撃方法を変幻自在に組み合わせて使うことが21世紀の戦争の形である。これを20世紀末に喝破したのが本書である。出版直後に米国で同時多発テロが起きて予言が当たったと評されたが、その後20年を経ても、孫氏の兵法の如き哲学的な趣きの本書は、不気味なほどに現実を言い当てる。
さていま日本では、原子力は再稼働せず、石炭火力は減らされ、太陽光・風力発電が増えるという。だがこれで、我々は超限戦に勝てるだろうか? 足下ではコロナ禍と自然災害の複合リスクへの対応に追われているが、これに悪意ある敵が重なったとき、大混乱の中で、電力を供給し続けられるだろうか? 物理的にも情報システム的にも寸断された中で、戦い続けるための電力を供給するには、どう備えておけばよいのだろうか?
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
『超限戦 21世紀の「新しい戦争」』
喬良/王湘穂 著、坂井 臣之助 監修、Liu Ki 訳(出版社:角川新書)
ISBN-13: 978-4040822402