過去50年の温暖化が6倍も過大にシミュレーションされている


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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 米国中西部はトウモロコシと大豆の一大産地である。地球温暖化による悪影響を懸念する報道があるが、実際のところ、過去50年の観測では、気温上昇は0.4℃しか起きなかった。これは、IPCCが用いる全球気候モデル(GCM)シミュレーションでは、6倍も大きくなっている。

 以下、本稿は米国ロイ・スペンサーのブログ記事を紹介する: Hot Summer Epic Fail: New Climate Models Exaggerate Midwest Warming by 6X July 3rd, 2020 
https://www.drroyspencer.com/

 スペンサーは衛星リモートセンシングによる気温観測の先駆者であり、NASAでの受賞歴もある一流の研究者だ。

 スペンサーは、過去10年間、米国農業への気候変動の影響について調査している。対象地域は、米国のトウモロコシと大豆のほとんどを生産する中西部の12州(アイオワ、イリノイ、インディアナ、オハイオ、カンザス、ネブラスカ、ミズーリ、オクラホマ、ダコタス、ミネソタ、ミシガン)である。

 メディアでは、米国中西部において、地球温暖化のため農業に悪影響が生じている、としばしば報道されている注1)

 しかし実際のところはどうか。

 トウモロコシの生産にとって暑さが問題になるとすれば夏季(6月-7月-8月)である。図では、この間の観測値(図中青、NOAA)、およびIPCCで用いられる大循環モデル(GCM)のシミュレーション(図中緑 CMIP5および図中赤 CMIP6)の平均値が比較されている。

 ここでNOAAは米国海洋気象庁である。CMIPとは、Coupled Model Inter-comparison Projectの略であり、シーミップと発音する。CMIPには、世界中から複数のGCMシミュレーションが参加する。CMIP5はその第5世代、CMIP6はその第6世代で、CMIP5がIPCCの第5次評価報告(2013年)、CMIP6が次期の第6次評価報告(2021年)に相当する世代である。

 図を見ると、夏季の米国中西部では、過去50年間に温暖化はほとんど無かったのに対し、シミュレーションは、何れもかなりの温暖化を示している。新しいCMIP6は、従来のCMIP5よりも更に温暖化している。


図 1970年から2019年までの米国中西部の夏季の気温上昇。観測値(青);以前のCMIP5気候モデル(42モデルの平均、緑);新しいCMIP6気候モデル(13モデルの平均、赤)。3つデータの勾配を比較するために、最初の年(1970年)でトレンドラインが一致するようにプロットした。上記のデータは公開されており誰でも入手できる注2)

 観測された50年間の勾配は0.086 ℃ / 10年(かろうじて有意)であった。これに対して、CMIP5の平均は0.343℃ / 10年で観測値の4倍、CMIP6の傾向は0.495℃ / 10年で観測値の5.7倍であった。

 地球温暖化によって穀物生産が減少するという懸念を示すシミュレーション研究は、このようなGCMによる気温上昇のシミュレーションに基づいて実施される注3)

 だが、過去についてすらここまで外れているシミュレーションに基づいて、将来の環境影響を試算することに、いったいどれだけの意味があるのだろうか? 研究としては一定の価値があるかもしれない。だがそれを予測だと思ってはいけないし、まして経済的負担の大きい温暖化対策の正当化には使えないであろう。

 GCMは、20世紀後半の気温上昇を再現するようにチューニングされている。しかしそれも、地球全体の年平均気温についての話であり、地域と季節を限定すると、図のように過去の再現もままならないようだ。他の地域や季節、特に日本についてはどうなのか、気になるところである。

 なお、GCMシミュレーションの問題点について、更に詳しくは下記リンクを参照されたい。
「コロナ後における合理的な温暖化対策のあり方」
https://cigs.canon/article/pdf/wp20200626.pdf

注1)
例えば、以下のリンクを参照
https://www.drroyspencer.com/2018/04/the-100th-meridian-agricultural-scare-another-example-of-media-hype-exceeding-reality/
注2)
GCMモデルの出力についてはKNMI Climate Explorer
https://climexp.knmi.nl/start.cgi
気温の観測値については米国海洋気象庁NOAA Climate at a Glance
https://www.ncdc.noaa.gov/cag/
注3)
例えばIPCCの第5次評価における農業への環境影響については環境省資料
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_spmj.pdf のp15を参照。
なおこのIPCCの報告には問題があることは以下を参照
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/4002?page=4