中国では悪天候は減少した
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
日本のお隣りの中国の観測データを見ると、雷雨、強風、ひょう、台風といった悪天候は減少してきた。モンスーンが弱くなったことがこの背景にある、とされている。
地球温暖化によって「異常気象が増えている」とよくメディアで言われるが、観測事実はどうだろうか。
Zhangらは、雷雨、強風、ひょうの50年間にわたる観測データを分析し、中国ではこれらの悪天候は減少してきた、とした(図1)。データとして用いたのは、中国の500か所における気象観測所のデータと、地球規模でデータを集め再分析している米国NCARのデータであり、どちらも同じ結果となった(Zhang, Ni, & Zhang, 2017)。
Sunらは、中国に影響を与えた台風の件数を分析した(図2)。その結果、台風の数は減少し、特に、強力な台風は顕著に減少してきた、とした(Sun, Ai, Song, & Wang, 2011)。
ZhangとSunの何れも、減少が起きた理由については、同定していない。Zhangは、モンスーンが弱くなったこと(図1(d))を合わせて示しており、これが関係しているのではないか、としている。
日本政府の報告書注1)(以下、単に「報告」)では、観測事実としては、台風に増加傾向は無かった、としている。IPCCも、世界の台風やハリケーンが頻発したり強大化したりはしていない、としている注2) 。
「報告」にもあるが、遠い未来についてのシミュレーション予測では、台風が強大化する、としているものがある。しかしシミュレーションには不確実性が多くあるので、まずは観測事実をよく理解したいところである。過去にも約1℃の地球温暖化は起きたのだ。ではそれで悪天候は増えたのだろうか? シミュレーションは、過去の変化を再現できるのだろうか?
日本においても、昭和の三大台風のような強力台風は近年来なくなっており注3)、Sunらの中国における報告と同じ傾向を示している。落雷、強風、ひょうのデータ、モンスーンの強度はどうなっているのか。興味あるところだが、残念ながら「報告」では触れられていない。
- 注1)
- 政府報告書「日本の気候変動とその影響」(2018年版)
http://www.env.go.jp/earth/tekiou/report2018_full.pdf
なおこの報告書にはいくつも問題点がある。詳しくは
http://ieei.or.jp/2019/05/sugiyama190515/
- <参考文献>
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- Sun, L. H., Ai, W. X., Song, W. L., & Wang, Y. M. (2011). Study on climatic characteristics of China-influencing tropical cyclones. Journal of Tropical Meteorology, 17(2), 181–186. https://doi.org/10.3969/j.issn.1006-8775.2011.02.011
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- Zhang, Q., Ni, X., & Zhang, F. (2017). Decreasing trend in severe weather occurrence over China during the past 50 years. Scientific Reports, 7(1), 1–8. https://doi.org/10.1038/srep42310