台風は強くなっていない、とIPCCは言っている
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
「気候危機」「気候非常事態」といった言葉が流行っている。その「危機」の証拠としては「台風が温暖化のせいで強くなっている」という見解をよく聞く。
だが台風は強くなどなっていない。これはIPCCが2013年の第5次報告ではっきり述べており、環境省資料でも翻訳されているのに、なぜか完全に無視されている。
IPCCが必ず正しいとは限らない。しかし、根拠なく徒らに危機を煽るよりも、まず科学的理解を深めるべきではないか?
1.IPCCが言っていること
台風について、IPCCの最新のまとまった報告書は2013年の第5次評価報告書である。台風については、「政策決定者向け要約」の表1という、一番目立つ場所に書いてある(図1)。ただしこれは英文だし細かいので普通の日本人には読解が難しい。幸いにして、環境省がこの抄訳を作成して公表しているので、そちらをご覧いただきたい(図2)
これを見ると、「強い熱帯低気圧(=台風のこと)の活動度の増加」は、長期(百年規模変化)の「確信度が低い(=つまり、変化は観測されていない)」、人為的影響の可能性(=人間が排出したCO2等の影響かどうか)についても、「確信度が低い(=つまり、CO2等の影響とは認められない)」、としている。
他方で、「生じた変化の評価」として、「強い熱帯低気圧の活動度の増加」は、「1970年以降北太平洋でほぼ確実」としているが、これについても「人為的影響の可能性」は「確信度が低い」となっている。これは、「大西洋数十年規模振動(Atlantic Multi-decadal Oscillation, AMO)」による自然現象なので、人為的影響ではないからだ(図3)。
2.米国のハリケーンの統計で確認
上記で述べたことを統計で確認しよう。米国本土に上陸したハリケーン数には明確なトレンドはない。これは全ハリケーンで見ても、「カテゴリー4」以上に分類される大型ハリケーンに限ってみても同じだ(図4)。
そして、強力なハリケーンのランキングを見ても、近年になって強い台風が頻発するようになった訳では無いことが解る。図5は米国上陸ハリケーンの上陸時風速の史上トップ13件だが、マイケル(2018年)、チャーリー(2004年)以外は全て20世紀のものだ。
3.日本の統計で確認
これはじつは日本でも同じで、近年は強い台風が来なくなった。図6は日本上陸時の台風の中心気圧のランキングである。1970年ごろまでは強力台風が頻々と上陸した。特に昭和の三大台風(伊勢湾台風・室戸台風・枕崎台風)は、大きな被害を出した。対照的に、1993年以来、このランキングに入る強力台風が無い。
4.地球温暖化よりも油断こそが大敵
なぜ日本に強力台風が来なくなったのか、理由は定かではない。おそらく何等かの自然変動であろう。だとすると、また強力台風が来る日が、地球温暖化の有無にかかわらず、きっとやってくる。だが長い間強力台風が来なかったが故に、防災に緩みが生じている懸念がある。だとすると日本は大きな被害に見舞われる可能性がある。油断大敵、である。
同様の懸念は、米国についても指摘されている注6)。