中国で進むごみ分別改革とプラスチック規制(第三部)
~使い捨てプラスチック製品等の生産・販売・使用の禁止措置~
井上 直己
上智大学大学院地球環境学研究科 准教授
3月16日、17日投稿の前半記事(第一部、第二部)においては、中国における使用済みプラスチック等の海外からの輸入禁止、そして分別義務化による国内リサイクルの推進の動きを紹介したが、そもそも国内でのごみの発生自体を抑制するために、中国政府は2020年1月、使い捨てプラスチック製品等の生産や使用などを禁止する、大きな政策を打ち出している。しかしその解説の前に、中国政府が2008年に実施した「プラスチック制限令」(限塑令)について簡単に触れたい。
1.2008年の「プラスチック制限令」
中国政府はプラスチックによる「白色汚染」への対策として、2008年に既に、「プラスチック制限令」注1) を施行している。同令は、厚さが0.025mm未満の「超薄型」のレジ袋などの生産と販売を禁止したほか、スーパーなどでのレジ袋の無償提供を禁止し、有償化を制度化した。例えば、スーパーでは、レジ袋は大きさに応じて1枚当たり0.1~0.4元(約2~6円)の価格で売られている注2) 。同制度化から10年が経過し、その効果としては、新華ネットは、「スーパーや商店でのビニール袋使用量が3分の2以上減少し、合計で約140万トン減少した」と報道している注3) 。筆者が2020年1月に北京を訪問した際にも、スーパーで隣りの中年女性がレジにおいて「袋は要りません」と言って、ポケットから使用済みレジ袋を取り出したのは印象的であった。
一方、チャイナネットにおいては、これらの措置を以てしても、プラスチックごみは増加し続けており、その要因として、経済成長と消費拡大の他に、近年特に増加が著しいフードデリバリーやEコマースによる宅配便において、業態として包装や袋、弁当容器、食器などのプラスチックを大量に使用していることが指摘されている。宅配業において2016年にビニール袋の使用量が147億枚に達した点が指摘されている注4)。
2.2020年1月の「プラスチック禁止令」
こうした実態を受けて、中国政府は対策の強化を打ち出した。国家発展改革委員会と生態環境部(いずれも日本の「省」に相当)は本年1月19日に、「プラスチック汚染対策の一層の強化に関する意見」を発表し、2020年末までに、プラスチック製品の生産、販売及び使用を禁止や制限することとし、2022年末までに、使い捨てプラスチックを著しく減少させ、代替品の普及をし、資源利用やエネルギー回収の比率を大幅に引き上げていくこととした注5)。
具体的には、2020年末までに、使い捨ての発泡スチロール製食器、使い捨てのプラスチック製綿棒の生産と販売を禁止。マイクロビーズ(洗顔料などに含まれる微小な球状のプラスチック)を含む日用品の生産も同年末までに禁止するほか、2022年末までに販売も禁止することとなった。
プラスチック袋については、これまで実施してきた厚さが0.025mm未満の超薄型レジ袋の生産・販売の禁止は継続しつつ、今回は更に、北京市や上海市などの直轄市や省都を含む主要都市においては、商業施設やスーパーやレストラン、フードデリバリーサービス(外卖)などにおいて、生分解性ではない非分解性プラスチック袋(通常のもの)の使用を、2020年末までに禁止することとなった。つまり、現在有償である0.025mm以上のレジ袋については、本年末までにすべて生分解性プラスチックのものに置き換わるという方針である。
使い捨てプラスチックの象徴的存在になっているストローについても、中国全土のレストラン業界において、2020年末までに使い捨ての非分解性プラスチックのものの使用は禁止される。また同様に、使い捨ての非分解性プラスチックの食器についても、使用が禁止される。そのほか、ホテルなどにおいて使い捨てプラスチック製品を進んで提供することや、配送業において非分解性プラスチックによる包装をすることなどを、期限付きで禁止するなどしている。
こうした禁止措置などを設けるという方向が打ち出されたことは、循環型経済の構築という観点からは、間違いなく大きな前進であると評価できる。報道によれば、それまでの制限令はレジ袋に焦点を置いた局所的対応であったのが、今回の禁止令は使い捨てプラスチックの生産から流通、消費、回収利用までの、すべての段階において規制が及ぶこととなったほか、これまでの単なる禁止や制限に、今回は生分解性プラスチックへの代替が加わっており、実効性が期待できるとされている注6) 。
3.「プラスチック禁止令」の実効性と課題
一方、中国政府の特に環境政策の分野においては、制度整備の次に大きな焦点となるのが、それら制度を如何にして執行するかという点である。全国一律ですべての用途において禁止となれば、上流の生産部門への立入検査などで規制の担保が可能となるが、この禁止令は対象地域などが段階的であるためそうはいかない。例えば非分解性のレジ袋について言えば、2020年末までに北京市などの大都市において禁止し、2022年末までにその範囲を全国の中小都市に広げることとしているが、つまりは、禁止地域とそうでない地域が併存することになる。また、該当都市ではスーパーなどの小売りで禁止されるものの、業務用や輸出用などには依然として非分解性の袋が利用可能のようだ。小売店などで使用されている袋を見ても、それが非分解性なのか生分解性なのかを見分けるのは容易ではなく、違法行為を捕捉するのは困難を伴う。大気汚染対策においては、政府の環境部門が督察部隊を編成し、各地方において工場などの法執行状況を監察することで効果をあげてきたが、プラスチック禁止令の規制対象主体は無数に存在するため、執行の行政コストも高くなるのではないか。今後如何に執行するかが注目される。
別の課題は、生分解性プラスチック製品の生産・供給体制を早期に確立することであろう。そして、その巨大な市場が出現するところ、日本企業にとって進出するチャンスとなるかどうかが注目される。また、マイクロビーズの生産等禁止措置については、欧米やタイなどで実施されたが、日本ではまだ実施されていない。しかし、マイクロビーズを含む製品を日本国内で販売している日本企業も、中国で生産している場合には、今回の措置により生産ができなくなり、日本国内の市場にも影響を受けることになる点に注意が必要である。
最後に、2020年1月にプラスチック製品生産等の厳しい禁止方針を公表し、その期限が同年末、というのは日本では考えられない程の急な措置と言える。しかし、海洋や土壌などの「白色汚染」が深刻化し、それに伴い、EUにおいても使い捨てプラスチックへの規制が打ち出されるなど、各国の「規制競争」が進む中、中国政府はスピード感を持って規制を開始し、プラスチック対策の市場を押し広げていくという国家戦略を明確に打ち出しているものと評価することもできる。こうした動きは、日本政府の戦略作りにも大きな示唆を与えている。
- 注1)
- 中国政府ネット. “国务院办公厅关于限制生产销售使用塑料购物袋的通知” (2007)
http://www.gov.cn/zhuanti/2015-06/13/content_2879030.htm
- 注2)
- チャイナネット. “新版塑料袋价格每个0.1-0.4元 已做好上市准备” (2008)
http://www.china.com.cn/economic/txt/2008-05/14/content_15210096.htm
- 注3)
- 人民ネット. “7年少用塑料袋140万吨(美丽中国·调查)” (2016)
http://scitech.people.com.cn/n1/2016/0217/c1007-28130400.htmll
- 注4)
- チャイナネット. 「『レジ袋制限令』のさらなる推進、全社会の行動が必要に」 (2018)
http://japanese.china.org.cn/life/2018-06/11/content_51982105_0.htm
- 注5)
- 中国国家発展改革委員会, 生態環境部. “国家发展改革委 生态环境部 关于进一步加强塑料污染治理的意见” (2020)
http://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/2020-01/20/content_5470895.htm
- 注6)
- 経済ネット. “新版‘限塑令’来了,将促环保升级” (2020)
http://www.jingji.com.cn/shtml/sankei/91595.html