停電は原発が原因との不思議な主張


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」からの転載:2019年11月11日付)

 台風15号が引き起こした千葉の停電は長期化したが、その原因は柏崎原発のせいだとする小出裕章・元京大原子炉実験所助教のラジオでの発言がネットで拡散していた。なぜ千葉の停電に原発が関係あるのか理解が難しいが、答えは「東電が柏崎原発の再稼働に1.2兆円かかるので、送電線のメンテナンスを怠ったせいだ。人災だ」とのことだ。

 直接発言を聞いていないが、拡散している発言が事実とすると、エネルギーの専門家にもかかわらず電気の知識がないことになる。停電の原因をニュースでも放映された高圧送電鉄塔の倒壊に求めているようだが、鉄塔の倒壊は停電長期化の原因ではない。高圧送電線は万が一に備えて予備能力が確保されている。能力の半分は送電事故を想定し、空けてあるのだ。今回の鉄塔倒壊による送電の途絶も翌日には回復されたはずだ。

 そもそも停電の原因が保守をしていなかったからという主張も間違いだ。設計値以上の強風が吹けば倒れることがある。どんな強風でも倒れない設備をつくれば電気料金は極めて高くなる。停電が長期化したのは、主として樹木の倒壊により各需要家向けの配電線が切れたためだ。送電線のメンテナンスとは何の関係もないし、たまに台風が来襲する場所で電柱の近くにある樹木の倒壊を防ぐことは難しい。人災なわけがない。

 昨年の北海道での停電時も北海道電力が泊原発を建設し、ほかの箇所に電源が分散されていなかったから、苫東厚真火力が地震により停止しただけで停電したとの報道があった。大型原発の建設に停電の原因があったとの主張だ。

 発電所は管理、保守コスト削減のため大型化するのが普通だ。特に、燃料を海外から輸入する日本の発電所では港湾設備を大型化し、輸入に係るコストを削減する必要があるのでーカ所に何基も建設するのは当たり前だ。

 多くの人は充分な電気の知識を持っていない。それにかこつけ、何でも原発が悪いと主張するのは無茶だ。事実を基にした冷静な議論を行うことはできないのだろうか。