説得力増す地球温暖化懐疑論
書評:マーク・モラノ 著 、渡辺 正 翻訳『「地球温暖化」の不都合な真実 』
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
(電気新聞からの転載:2019年9月6日付)
2016年は過去150年で最も地球の気温の高い年だと言われた。しかしこれは強いエルニーニョ現象によるもので、その後は温度は下がった。結局のところ、過去20年ほどの間、地球の気温はほぼ横ばいだった。
CO2は増え続けていた。実に人類の累積のCO2排出の3分の1はこの20年間に起きた。それでも温暖化が起きないとすると本当にCO2は温暖化の原因なのか。
「地球温暖化は脅威で、急進的な対策が必要」とする温暖化「脅威論」は正しいのか。著者マーク・モラノは、これに疑問を投げかける温暖化「懐疑派」における中心人物である。温暖化全分野に関する該博な知識を持ち、懐疑派を支持する大物科学者の知見をまとめ、読みやすく刺激的に提供する。
温暖化を巡る政治についても歯切れ良い。国連や各国政府は、脅威論の研究にばく大な予算をつける。それは懐疑派の予算の3千倍だという。これが脅威派の世論と利権構造の源泉という訳だ。政治家やセレブの偽善ぶりの批判も面白い。ゴア元副大統領の自宅は普通の家庭の20倍の電気を使用し、プールだけでも7倍に達するとのこと。これを平均家庭以下にするという誓約に署名を求められたが、拒否したとか。
モラノは、地球の気温のモデル予測は当たらず、シロクマは絶滅どころかむしろ増えていることなど、脅威派が次々に繰り出す脅威論は、科学的知見やデータの裏打ちが無いか、むしろ逆のデータがある話だったと論じる。そして、世界の大物科学者が何人も、「科学的証拠」を調べ直して脅威論を疑い、それは間違いだと、声高に叫び始めたことを紹介している。
本書の筆致は軽快で読みやすいのみならず、膨大な脚注をたどって原典の発言やデータをチェックできるようになっている。時々勢い良すぎて滑っているところもあるけれど、脅威派の議論の乱暴さに比べると傷は浅い。
モラノは解決策も提案している。もし人類が温暖化の危機に直面しているなら、化石資源の利用を禁止・縮小するのではなく、自由市場と起業家精神を呼び覚まし、効率的で安価な新技術を見付けよう。かりに気温上昇が事実でも、30年にせいぜい0.1度から0.3度の話だから、急ぐ必要は何もない。例えば優秀な蓄電システムが完成したら、温暖化の「対策」を巡る論争は意味を失う。
渡辺正氏による邦訳は正確で読みやすい。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
「地球温暖化」の不都合な真実
マーク・モラノ 著, 渡辺 正 翻訳(出版社:日本評論社)
ISBN-10: 4535788871
ISBN-13: 978-4535788879