科学を無視した地球温暖化議論
印刷用ページ(英 Global Warming Policy Foundation(2019/06/20)より転載
原題:「GLOBAL WARMING and the irrelevance of science」)
多くの分野で、政府は科学研究支援を独占しています。理想的には、政府が科学を支援するのは客観的な研究が有益だと考えているからであってほしい。残念ながら、アイゼンハワー大統領が1961年1月17日の引退演説(産軍複合体について警告した演説でもあります)が予想した通り「巨額の費用がかかるせいもあって、好奇心ではなく政府契約が研究の方向を決めてしまう」。こうした状況だと、政府が特定の科学的な結果を求めているとき、客観的な研究という理想を貫くのは厳しいものです。とはいえこれから示したいのですが、問題は単なるバイアスではありません。むしろ既存権力は、協力する科学者たちの見方とすら関係ない形で、物語をでっちあげてしまうということなのです。これはまちがいなく20世紀前半には起こっていたことで、ソ連におけるルイセンコ主義や注1)西側世界すべての社会ダーウィニズムと優生学注2)、さらに1960年代の根拠なきDDT悪者視注3)を見ればわかることです。どの現象も、何百万人もの死を招きました。そしていずれの場合でも、科学コミュニティは基本的に麻痺させられ、ヘタをするとそのお先棒担ぎさえやっていたのです。
気候危機もこの一覧に加わるでしょうか?どうもそのようです。政府の立場は明解です。以下にオバマ大統領が繰り返し挙げる話を示しましょう。
気候変動は極端な天候、野火、干ばつをもたらしており、温度上昇のせいで空気中のスモッグがずっと増えている。アレルゲンも増える可能性があり、これはぜんそく発作の引き金となる物質に曝される子供たちが増えるということなのです。
フランシスコ法王、オランデ大統領など、ほぼあらゆる国家指導者たちは、似たような宣言を口走っています。しかしこうした主張はどれも、ほぼ無根拠だしきわめて怪しげです。オバマとヒラリー・クリントンはしょっちゅうぜんそくの悪化を持ち出しますが、これはまったくのナンセンスです。市場調査で、脅しのネタとして効くという結果が出ただけです。
他の主張も似たり寄ったりのひどさです。1970年代に科学界は、温暖期を「気候最適期」と呼ぶのが通例でした。二酸化炭素が植物にとって重要であり、実質的に肥料なのだという話も広く理解されていました。だから初期の環境運動は、地球寒冷化の恐怖を煽ろうとしたのも当然でしょう。もちろんこれは工業排出特に硫化物のせいにされました注4)。
- 注1)
- Medvedev, ZhA. The Rise and Fall of T.D. Lysenko, Columbia University Press, 1969.
- 注2)
- Lindzen RS. Science and politics: global warming and eugenics. In: R Hahn (ed), Risks, Costs, and Lives Saved, Oxford University Press, 1996.
- 注4)
- Ponte L, The Cooling, Prentice-Hall, 1976
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【 著者紹介 】
リチャード・S・リンゼンは、マサチューセッツ工科大学における大気科学アルフレッド・P・スローン名誉教授。
解説:キヤノングローバル戦略研究所 杉山 大志
気候科学の第一人者であり気候変動研究の先駆者の一人でもあるリチャード・リンゼン博士による、気候変動にまつわる「政治」や「似非科学」に対する鋭い批判。
博士は、以下の点は気候科学の分野で合意されている、とする:
- ・
- 気候変動は存在する
- ・
- 小氷河期の終わる 19 世紀初頭あたり(排出が大きな影響を持つとされるように なるはるか前)から温暖化が起きてきた
- ・
- 人間の排出は気候変動に影響することもある
- ・
- 大気中のCO2濃度は高まっている
しかし、CO2が人類にとっての重大な脅威であり、即座の行動が必要である、という主張には科学的根拠が全く欠落しており、そこには政治的な思惑がたっぷりと入っていると、鋭く批判する。
リンゼン博士によるGlobal Warming Policy Foundation報告書が、山形浩生氏により邦訳された。ここに許可を得て紹介する。
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