世界の温度は何度上昇した?温暖化クイズ:何問正解できますか?
有馬 純
国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授
(GEPRからの転載)
温暖化問題について冷静な議論を促すGlobal Warming Policy Foundation のウェブサイトに興味深いクイズが掲載された。地球温暖化をテーマに以下の12の三択問題が掲げられており、大変面白いので、温暖化問題に関心のある方は、試みられたい。
a) 増加傾向にあるとの点で強い証拠と高い信頼性がある(strong evidence and high confidence)
b) いかなる傾向についても証拠を欠いており、信頼度も低い(lack of evidence and low confidence)
c) 減少傾向にあるとの点につき、中程度の信頼度がある(medium confidence)
1問回答するごとに正解か、不正解かが示され、全ての設問に答えると、正解とその根拠となる情報ソースが示される(正解、情報ソースはウェブをご覧ありたい)。
結果はいかがだったろうか。筆者は全問正解だったし、日頃、本欄を読まれているような人であれば、さして難しくはないかもしれない。
しかし新聞やテレビの報道を通じてしか温暖化問題に接することのない圧倒的多数の人々はかなりの確率で誤った答えを選ぶのではないだろうか。今夏の酷暑、台風の大型化がしばしば地球温暖化と結びつけて語られるのを聞けば驚くにあたらない。
筆者は本年3月に本欄で「ファクトフルネスと気候変動」という小文を書いた。ベストセラーとなったハンス・ロスリングの「ファクトフルネス」では世界の人口分布、極貧人口、平均寿命、災害死亡者数等につき、13の質問を掲げているが、大半の人は正解率が3分の1以下とチンパンジーのランダムな正解率よりも低いという。
ファクトフルネスに触発された上記の12の設問でも同じような傾向が出ると思われる。その理由の一つが「世界はどんどん悪い方向に向かっている」と考えがちな「ネガティブ本能」である。
メディアも「世界は悪い方向に向かっている」という記事を好んで掲載する。その意味で気候変動は格好のトピックであり、活動家の主張も取り上げられやすい。しかもその主張が過激であればあるほど、メディアカバレッジは大きくなる。
今、メディアの寵児になっているスウェーデンの16歳の女性環境活動家、グレタ・トウーンベリはその好例だろう。彼女がたった一人で始めた金曜日の学校ストライキは今や世界各地に広まり、環境保護団体から彼女を「21世紀のジャンヌダルク」と呼んでいる。9月23日の国連気候サミットで演説するため、ニューヨーク入りする際も、温室効果ガスを排出する飛行機を使わず、わざわざ2週間かけてヨットで大西洋を横断するという念の入りようである。
グレタ・トウーンベリを初めとする活動家の議論は「世界は滅亡に瀕している。だからドラスティックな対策を今すぐにとらねばならない」というものである。しかし、現実は彼らが主張するように悪化の一途をたどっているわけではないし、世界が直面する問題は温暖化だけではない。
貧しい途上国の人々にとっては貧困撲滅、雇用確保、教育・医療の充実、それらを可能にする経済成長が何よりも重要であろう。彼らの目から見れば、「飛行機は温暖化防止に逆行するからヨットでニューヨークに行く」というグレタ・トウーンベリの行動は遠い世界の話であり、「お金と時間のある人の贅沢」と映るのではないか。
温暖化問題の位置づけを相対化したり、温暖化のもたらす危機に疑義を呈することは活動家にとって瀆神罪に等しいものと映るかもしれない。上記の設問に全問正解すると以下のような表示が出る。温暖化について事実やデータに基づき冷静な議論を促すと「温暖化懐疑論者」とのレッテルを貼られる傾向を皮肉ったものかもしれない。
Careful! It sounds like you have an informed and balanced perspective on the climate – don’t let anyone find out.
世界気象機関(WMO)のベッテリ・ターラス事務局長はフィンランドの新聞とのインタビューで「温暖化懐疑論は問題ではなくなっているが、問題なのは悲観的な人(doomster)や過激派(extremist)である。彼らは気候専門家に対してもっと過激になることを求めている。
彼らはIPCC報告書をあたかも聖書のように読み、その一部分を取り出して自分の過激な主張を正当化している。これは宗教的過激主義に類似している」と述べている。
環境NGO等から批判があったのだろう、彼はその後、「自分は確固たる温暖化対策の必要性に疑問を呈するものではない」とのステートメントを発表しているが、同時に「IPCC報告書の中から全体の文脈を無視して事実をつまみ食いし、気候変動対策の名の下に過激な対策を正当化することは科学的なアプローチを阻害するものである。
気候変動対策はIPCC報告書をバイアスをかけて読むのではなく、利用可能な科学のバランスのとれた見解に基づくものであるべきだ」と述べている。
IPCCの親機関であるWMO事務局長の発言だけに興味深い。温暖化に関する関心が高まることは大事だが、活動家や過激派の主張が先鋭化すればするほど、現実との距離が途方もなく大きくなり、かえって温暖化対策を遅らせることになることを懸念しているのだろう。
- 注1)
- 2018年時点の定義は1日当たりの所得が1.90ドル(2011年価格)