第3回 商社業界は、再生可能エネルギーのIPP(独立系発電事業者)ビジネスで貢献する[前編]
日本貿易会 広報・CSRグループ長 伊藤 直樹氏
インタビュアー&執筆 松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
日本貿易会は、1947年6月にわが国の貿易に関する全国的な民間中枢機関として設立された後、1986年6月に貿易商社および貿易団体を中心とする団体に改組された業界団体で、貿易を通じてわが国の経済の繁栄と国際社会の発展に寄与すべく、幅広い活動を展開している。商社業界のグローバル・バリューチェーン(GVC)を通じたCO2削減貢献について伺った。
―――商社業界におけるグローバル・バリューチェーンについてお伺いする前に、商社業界について教えてください。
伊藤氏:日本に商社は、おそらく何十万社もありますが、当会の法人正会員は42社です。一般的な商社のイメージは、貿易を行っている会社ということかと思いますが、当会の会員商社は、その中でも規模が大きく、「総合商社」と呼ばれて、全世界に広く拠点を展開し、貿易取引に加え事業や投資等を幅広く行っている日本特有の企業を含んでいます。
大手の総合商社は、数百社以上もの子会社や関連会社を傘下に持っています。「ラーメンからミサイルまで」などと言われたように、非常に多様な商売、商流に関与しています。最近ですと、大手コンビニエンスストアの中にも商社の資本が入っているところがあります。一般の方が商社の活動だと捉えていない分野も含めて、商社の活動が浸透しています。
―――総合商社は、広範多岐にわたる商品や事業分野があるのですね。
伊藤氏:はい。ですからCO2の削減実績数値などを正確に測ろうとしますと、どうしても商社活動全体を捉えることには無理が出てきます。例えば、コンビニエンスストアの場合は日本フランチャイズチェーン協会に加盟して温暖化対策の活動をしていますし、国内の発電事業では電気事業低炭素社会協議会に加盟して同様の活動を行っています。したがって、当会で行う低炭素社会実行計画のフォローアップでは、商社の親会社単体のオフィスにおける電力使用の効率化を目標としています。一方で本日のテーマのように、GVCという考え方をする場合は、他業種との重複部分も含めて、商社の活動を、連結ベースでとらえて活動を広く推進するように努めています。
―――わかりました。商社業界における温室効果ガス削減の取り組みは、非常に多様で広がりがあるということですね。それでは、商社業界として、温暖化対策はどのように進めていくのでしょうか。
伊藤氏:商社の活動は多岐にわたっていますが、マーケティングや流通・販売が得意分野です。低炭素社会を目指す取り組みの中でも、我々はその得意技を生かして、日本のいろんなメーカーが開発している先進的や製品を世界に展開し、CO2排出削減に貢献していこうというのが基本的な考え方です。
したがって、日本の製品や技術を全世界に紹介して使ってもらう、また商社自らがそれらを活用した事業を現地で展開することで、パリ協定の求める目標達成に貢献していくのが基本方針です。そういう意味では、日本の目標のみならず世界各国の目標達成、ひいては全地球レベルでの目標達成に幅広く貢献していこうというのが、当会および会員商社の基本的なスタンスです。
当会では地球温暖化対策は地球環境委員会の担当です。各社の先進的な取り組み事例については、できるだけ情報共有し、さらに広げていくように努めています。
―――商社の事業展開は全世界に及びますので、商社は日本のあらゆる企業にとってのパートナーとも言えますね。
伊藤氏:そうですね。一例として、天然ガスは、化石燃料の中で相対的に温室効果ガスの排出が少なく、世界的に需要が増えていますが、パイプラインでの供給範囲には地理的に限界があるため、液化天然ガス(LNG)として遠隔地にも輸送することで、ニーズに応えています。ここでも商社は重要な役割を果たしています。
そもそもLNGを本格的に商業利用したのは日本が最初だったのですが、そのためには天然ガスを液化する基地の建設、LNGを運ぶ船の開発・運用、その船を受け入れる基地の建設など、非常に多様な事業とそれらに携わる企業の連携が必要でした。商社はLNG用のガス田開発から、液化設備の建設、LNG船の保有・運行など、様々なビジネスを手掛け、もしくはそれらに関与する企業を結び付け、この複雑で巨大なバリューチェーンがうまく機能するようにする重要な役割を果たしています。今日では、日本のみならず世界中でLNG形態での天然ガス利用が広がりました。クリーンなエネルギーとして注目されるLNGバリューチェーンは、日本企業が共同で創ったものであり、その中で商社が重要な役割を果たしています。
―――日本がLNGの国際商品化に貢献したとは知りませんでした。
伊藤氏:パリ協定が求める地球の在り方に、商社業界として今後もそういう形で関わっていきたいと考えています。つまり単純に今ある商品や技術の活用で温室効果ガスの排出を減らしていくだけでなく、パラダイムチェンジという言い方が正しいと思いますが、それらの組み合わせにより、全然違う発想で違うレベルのことをやっていくのです。商社は、あらゆる産業界と手をつないで活動させていただいて、これとこれを足したらこういうことができると言うことが発想しやすい立場にあります。
―――従来とまったく異なる発想とレベルで、異なる産業をつなぎ合わせて、温暖化対策となる新しいビジネスを創出するのですね。
伊藤氏:たとえば今、話題になっている「モビリティ」と呼ばれる新産業分野は、自動車だけでなく、鉄道も含め、移動するための手段を包含するものです。空港、飛行機、車、部品、コネクテッドカー、カーシェア・・・これらをトータルに結び付けて、どのように持続可能な未来社会像を描いていくか、商社として腕の見せ所だと思います。
―――商社は未来社会のプランナーと言ってもよいですね。
伊藤氏:はい。当会のスローガンも「未来をカタチに 豊かな世界へ 日本貿易会」です。パリ協定の実現にもこのスローガンで貢献していきたいと考えています。
―――昨年経団連が取りまとめたグローバル・バリューチェーンを通じた削減貢献のファクトブックによると、日本貿易会は、再生可能エネルギーによるIPPビジネス展開を支援していくとされています。このIPPビジネスについて、取り組まれている理由や経緯をお聞かせください。
伊藤氏:IPPはおそらく一般の方には耳慣れない言葉だと思います。経団連のファクトブックでも、「IPP(独立系発電事業者)ビジネス」と括弧書きをしていただいています。
日本では長らく、地域の電力会社が電気をつくって家庭に届けるところまで、一貫して行う仕組みでしたので、IPP(独立系発電事業者)は存在しませんでした。昨今の規制緩和で、日本においてもIPPが始まっています。
発電事業者が、自営の発電所を持って発電し、既存の送電網につないで販売する。これがIPPというビジネスです。日本の大手電力会社がやられている仕事のうち、電気をつくるところ「発電」だけを独立して事業としてやっているわけです。このような役割分担が、国によってはもっと早くから制度化され、IPPを事業として国際展開するチャンスが広がっていることに着目し、当会の会員商社のうち7社*が、世界でIPPビジネスの展開をしています。
*7社とは、伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事。
〈後編に続く〉