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第3回 商社業界は、再生可能エネルギーのIPP(独立系発電事業者)ビジネスで貢献する[後編]

日本貿易会 広報・CSRグループ長 伊藤 直樹氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


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 前編では、商社の多様な事業内容や温暖化対策の方向性について伺うとともに、グローバル・バリューチェーンを通じた温室効果ガス削減貢献として、再生可能エネルギーによるIPP(独立系発電事業者)ビジネスの削減貢献があると伺った。商社が手掛けるIPP事業とはどんなものなのか。後編では、IPP事業に乗り出した経緯や事業の詳細について伺った。前編はこちらをご覧ください。

―――商社がIPP事業を始めることになった経緯について教えてください。

日本貿易会 広報・CSRグループ長 伊藤 直樹氏

日本貿易会 広報・CSRグループ長 伊藤 直樹氏

伊藤氏:高度経済成長期の商社は、メーカーが必要とする原材料の調達や海外の技術・ノウハウの導入で力を発揮し、さらに国内メーカーと二人三脚で輸出市場を開拓していきました。日本の重電機メーカーのつくっているボイラー、タービン、発電機、変電器など発電所に関連する設備の輸出も重要なビジネスでした。しかし1970年代後半から1980年代前半に、石油ショックの後遺症による世界経済の停滞や円高の進行によって商社の業績が低迷し、「商社・冬の時代」といわれました。その背景は複雑ですが、ひとつの要因として、日本メーカーが商社を通さず直接海外と取引するようになったことが挙げられます。商社の側から言えば、単に日本企業の製品を海外で売るだけの機能では商社を使っていただけなくなったということです。業績低迷にも直面する中、商社は事態を打開するために、取引の仲介役から一歩踏み込んで、海外投資を積極化し、IPP事業をはじめ新分野への取り組みを強めることなどで「冬の時代」を乗り越えてきました。

―――IPP事業は、経営危機に直面して打ち出した新分野のビジネスだったわけですね。

伊藤氏:いきなりIPPではなくて、まず発電所の設計からエンジニアリング、建設まで一貫して請け負うビジネスを始めました。商社が設計やエンジニアリングまで行うことで、役割も高度化し、設備の選定にも関与することでメーカーに対する発言力も強まります。
 こうした建設請負ビジネスの更に先にあるのがIPPです。建設請負は単発のビジネスで、利益をさらに拡大するには、多くの案件を積み上げていくことが必要です。IPPは事業ですから、実施期間を通じて長期にわたり安定的な事業収益が見込めます。発電所建設を受注する側から、発注する側に180度立場が変わったことになります。発注する時には、受注者の立場を経験していたことが大きな強みになりました。競争力があれば海外のメーカーの設備も使いました。世界中の建設業者、発電機メーカー、それを運転・保守する企業、電気を買ってもらう先の電力会社まで、いろんな人や企業とつながりができました。それらはさらに次の発電事業を行う際に役立ちます。商社が自ら株主となって発電事業会社をつくり、発電事業を行うことで、「商社は不要」と言われることはなくなるというわけです。

―――IPP事業は、当時の総合商社にとって生き残り戦略の一つだったわけですね。

伊藤氏:そうです。商社が手掛けるIPPの形態にもいろいろあります。例えば20年、25年といった長期の売電契約、Power Purchase Agreement(PPA)により、電気をその国の国営電力会社に供給するといった長期安定型のビジネスもあれば、電気を需給によって日々値段が変わる卸売り市場に売っている例もあります。
 商社が培ってきたいろんな企業との付き合いの中で、世界で一番その発電所に適した部品や発電機器、設備をそろえ、建設業者の選定をする。さらにもっとさかのぼると、発電所の立地地域の住民との交渉など、いわゆる開発段階のノウハウも必要です。商社は世界のいろいろな国や地域で、長年にわたり発電所の建設に携わったことで、必要なノウハウを培ってきましたので、スムーズにIPPビジネスを展開することができました。

―――IPP事業は、海外を中心に展開されているのですか。

伊藤氏:日本では電力分野の制度改革によりIPPが可能になったのが比較的最近ですので、商社が所有するIPPはまだそう多くはありません。海外で見ると、商社の電力ビジネスはIPPからさらに踏み込んで、送電や電力小売、需給調整などの事業にも進出しています。

―――再生可能エネルギーによるIPPビジネスをグローバル・バリューチェーンによる削減貢献に選んだ理由は?

伊藤氏:当会の地球環境委員会で色々議論したのですが、会員商社は事業が幅広く多様で、共通の取り組みとして取り上げるのが案外難しい。しかし、IPPビジネスは、現在、総合商社7社が共通して取り組みを行っていることに加え、各社とも再生可能エネルギーの拡大に注力していることから、削減貢献量も一定の規模が見込めると判断した結果です。
 7社が参画している海外の主な再生可能エネルギー発電プロジェクトを世界地図に示しましたが、7社の再生可能エネルギーの持分発電容量は3,434MWで、総発電容量は16,381MWになっています。(図1)

*7社とは、伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事を指す。

(図1)商社が参画している海外の主な再生可能エネルギー発電プロジェクト 出典:商社ハンドブック2019
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(図1)商社が参画している海外の主な再生可能エネルギー発電プロジェクト 出典:商社ハンドブック2019

 経団連で取りまとめた「グローバル・バリューチェーンを通じた削減貢献」の2018年度版には、このうち2017年度に日本を除く全世界31カ国で稼働済みの発電案件が、7社合計で91件、総発電設備容量(グロスベース)は1,825万kWに達しており、2017年度のCO2削減貢献量(ネットベース)が456万トンと記載しました。(図2)

(図2)日本貿易会会員商社の再生可能エネルギーによるIPPビジネス  出典:経団連

(図2)日本貿易会会員商社の再生可能エネルギーによるIPPビジネス  出典:経団連

―――まさにグローバルな削減貢献ですね。ところで、IPPは再生可能エネルギーが多いのでしょうか。

伊藤氏:石炭焚き、ガス焚きなどの火力発電所に加え、水力発電所もありますが、最近は太陽光、風力などの新たな再生可能エネルギーを拡大すべく注力しています。

―――海外におけるIPP事業の展開は、経済産業省が提言している地球温暖化対策3本の矢の国際貢献の実践かと思いますが、さらに拡大していく上での課題や抱負をお聞かせください。

伊藤氏:再生可能エネルギーのIPPをもっと広げていこうとしていますが、技術や経済的制約で直ちに化石燃料を全廃というわけにもいきません。2030年の世界共通の目標、SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)が掲げる17目標のうち7番の目標には「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」とうたわれています。
 2000年~2016年にかけて世界で電気にアクセスできる人口の割合は78%から87%に増加して、電気なしで生活する人々の絶対数は10億人を下回っています。しかし、言い換えると、10億人近くの方がまだ電気なしで生活をしておられる。ここに電気を届け、生活水準を向上するきっかけにしていただくことも大切だと思っています。それを100%再生可能エネルギーの電力にできれば素晴らしいことではありますが、技術的な制約、経済性の問題で、化石燃料を選択せざるを得ない場合もあります。無電化地域へ電気を広げていくことと、少しでもクリーンな電気を作り広げる努力をしていく、両者のバランスを取りながら進めていくことが、商社業界として一番の課題だと思っています。

【インタビュー後記】

 今回のインタビューで、伊藤様は商社の活動内容について、また初年度のグローバル・バリューチェーンを通じた削減貢献の柱である再生可能エネルギーによるIPP(独立系発電事業者)ビジネスについて、歴史や事例を交えながら、わかりやすくご説明くださいました。IPPビジネスへの進出は、「商社・冬の時代」と言われた時期に展開した商社の生き残り戦略だったこと。苦境を前向きに捉え、産業や社会の変化に素早く対応し、自己変革を成し遂げてきたエピソードにも感嘆しました。原料の開発・調達から製造・加工、流通、販売・サービスまで、商社がもつ幅広い知識や情報、人や企業とのネットワークをフル活用し、商社ビジネスと地球環境問題への貢献を積極的に進めていることが伺えました。グローバルな温暖化対策の展開の先導役として、商社が担う役割は大きいことを再確認しました。



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