朝日新聞は究極のポピュリズムがお好き?

食料とエネルギー安全保障の違いは何?


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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 6月8日付け朝日新聞は「参院選 消費税争点化?れいわ新撰組、廃止訴え寄付1.6憶円」との記事を掲げた。記事の内容は概ね次のようなことだった。
 『「れいわ新撰組」を立ち上げた山本太郎氏は格差是正のため、消費税廃止と政府のさらなる財政出動など「反緊縮」を前面に打ち出し、寄付が1億6826万円集まった。格差是正をめざし、さらなる財政出動を求める主張は、米民主党のオカシオコルテス氏、英労働党のコービン氏ら欧米で活発化する「反緊縮左派」と重なるという指摘もある』とあり、「反緊縮の訴えは世界的なムーブメントであり、山本氏はようやく日本に現れた最初の1人」との大学教授のコメントも紹介されている。
 記事を書いた記者、コメントした大学教授は「れいわ新撰組」のホームページを当然見ていると思うが、私がホームページを見た限りではオカシオコルテス議員ともコービン労働党党首の主張と重なる部分を見出すことはできなかった。れいわ新撰組の主張は、単なるばらまき、結果おそらく日本経済をどん底に突き落とす政策であり、インフラ、技術などへの投資を通し経済成長を図り、格差縮小を狙う英米の二人の主張とは異なっている。
 米国で左派的な主張を行ったのは、2015年の大統領選民主党予備選を戦った自称社会主義者のサンダース上院議員だった。この流れを汲んだのが、グリーンニューディール政策を打ち出したオカシオコルテス議員だ。彼女の主張の中心は、気候変動対策強靭化のためインフラ投資、再エネへの投資を行えということだ。投資を行った結果、簡単に言えば、より条件のよい仕事が生まれ、人種などにより生まれる格差を解消可能になるとの主張だ。
 この政策実現には巨額の予算が必要になるが、その資金がどこから調達されるかについては、彼女は何も触れていない。英国のシンクタンクは、左派的な政策により民主党穏健派の支持が離れることが予想されるので、このグリーンニューディール政策は、民主党を弱体化させる共和党の秘密兵器と論評している。
 コービン英労働党党首の主張には、鉄道、エネルギー部門、郵政再国有化、富裕層への増税などに加え、インフラ、教育への投資がある。今の労働党のマニフェストではインフラ投資の規模は10年間で2500億ポンド(34兆円)だ。主張は、労働党と保守党の差が分かりにくくなっていた英国では支持を集め、2015年労働党党首に就任した。この政策については、国有化で効率が悪かった部門を市場に任せたのに、再度国有化しても良くはならないとの批判もある。
 さて、れいわ新撰組だが、その主張をまともに論評する気にはならないが、いくつかの政策についてコメントすると次のようになる。
 まず、最低賃金の引き上げがある。全国加重平均時間給874円を一律1500円にし、中小企業対策があるので政府が負担増分を補填するとある。最低賃金が大きく上昇すれば、他の職の賃上げにつながらざるを得ない。政府の補填があっても企業の負担も上昇するので、企業は人件費抑制のため当然ながら人員を削減するしかない。結果は、仕事を失う人が生じ、失業率の上昇になるだろう。
 なぜ、どの国も最低賃金を一挙に引き上げることが難しいのか。ポール・クルーグマンは最低賃金の少額の引き上げは雇用に影響を与えないとしているが(Liberals and Wages https://www.nytimes.com/2015/07/17/opinion/paul-krugman-liberals-and-wages.html)、経済学の教えに反するとした反論も直ぐに発表された(Paul Krugman on the minimum wage https://www.econlib.org/archives/2015/07/paul_krugman_on_2.html)。多くの経済学者は最低賃金の引き上げは、結果として雇用に影響を与えるとの説を支持している。れいわ新撰組の政策の引き上げ額は少額ではない。政府補填のための制度作りと補填の必要資金も考えれば政策の実行可能性があるかないか直ぐに分かるだろう。
 消費税廃止に加え、奨学金の返済を全て免除するとか、公共住宅の提供、公務員増員との政策もある。「お金配ります」ともある。インフレ率が2%に達するまで、毎月1人当たり3万円を国が給付するとある。さて、いくらの資金が必要だろうか。月3万円の給付金だけで、毎月4兆円弱、年間約45兆円の資金が必要だ。所得税19兆円、消費税18兆円以上の金を国民に配るということになる。全ての政策を合わせれば年間いくら必要だろうか。いま、日本の政府予算は年間約100兆円だが、平成30年度では社会保障費が33兆円、国債の金利と返済が23兆円を占めている。一方、歳入では国債発行が34兆円ある。
 れいわ新撰組は必要な資金を新規国債で調達するとしているが、この政策を実行するとした瞬間日本の財政は破綻するだろう。なぜなら、財政の規律を失うことで国債の格付けは一挙にジャンクボンドとなり大暴落することになるからだ。政策実行前に破綻するので、実際に政策が実行されることはないだろう。ここまでのばらまきを打ち出しながら「とんでも法」一括見直しとホームページにはある。「とんでも政策」はよいのだろうか。
 米オカシオコルテス議員も英コービン党首も財政出動による景気上昇を狙っているが、当たり前だが、ばらまきは想定されていない。主として、インフラ、産業への投資を行うことにより、景気、賃金の上昇を狙う政策と言ってよいだろう。経済学者の中でも、スティグリッツ、クルーグマンのように英国は産業への積極投資を行えとの主張もある(When it comes to the economy, Britain has a choice: May’s 80s rerun or Corbyn’s bold rethink 
https://www.prospectmagazine.co.uk/magazine/britains-choice-on-the-economy-mays-80s-rerun-versus-corbyns-bold-rethink)が、日米英の財政状態が図の通り大きく異なっていることも各国の政策には影響を与える。

 れいわ新撰組の政策の中には、「原発即時廃止、主力は火力で」もある。火力が主体になれば、電気料金、温暖化対策、エネルギー安全保障政策全てで大きな問題が生じるが、それには触れていない。食料安全保障は国を守るために最重要なので、食料自給率100%をめざし一次産業には個別保証を行うとあるが、生産国が多くありお金を出せば購入可能な食料よりも、生産国が限られお金を出しても買えない可能性があるエネルギー安全保障がより重要と思うが、エネルギーと食料の安全保障が良く理解されていないようだ。
 政策をみると、触れていないことも多くあるようだが、朝日新聞は評価しているのだろうか。記事の最後には、野田元首相の「減税まで言うのはポピュリズムの極地」との批判を申し訳程度に載せているが、記者は記事を書く前に、欧米の政策を勉強したのだろうか。