気候変動対策を求める若者に、大人はどう応えるべきか
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(「公研」からの転載:2019年5月号)
気候変動問題への取り組みを強化することを求めて、いま、行動する若者が増えている。2018年8月、弱冠15歳のグレタ・サンバーグさんは、学校をストライキしスウェーデン国会議事堂前で抗議活動を行った。その後、毎週金曜日に続けられているこの活動は、共感する若者を巻き込み、本年3月15日には日本を含む世界約100か国で150万人が参加したとも報じられている。
本年1月のダボス会議でグレタさんが行った演説の動画などをご覧になった方も多いだろう。若者の危機感は、純粋であるがゆえに強い。若者が、未来はさらに良くなると思える状況を作り出すのが大人たちの役割であるのに、こんな思いを抱かせていることを心から切なく思うし、自分も子供の頃に森林伐採やオゾン層破壊のニュースに触れるたびにヒリヒリとした焦りを感じたことを思い出した。この真剣な思いに、我々大人はどう応えていくべきなのだろうか。
実は若者が気候変動問題について純粋な危機感を大人たちにぶつけたのは、グレタさんが最初ではない。さかのぼれば1992年にリオ・デジャネイロで開催された地球環境サミットで、当時12歳のセヴァン・スズキさんが行った演説は、政治的または経済的利益を優先する大人たちを戒め、環境保護が喫緊の課題であることを説いた名スピーチとして歴史に刻まれている。これほど有名にはならなくとも、気候変動対策の加速を訴える若者の胸打つスピーチを、これまで筆者は何度も聞いてきた。
しかし、気候変動の対策がなかなか加速しないのはなぜなのか。彼らが指摘するように、政治的または経済的利益を優先する大人たちの抵抗があるということも否定はしない。しかし本質的な理由は、気候変動問題は「行動しない悪い大人をとっちめる」ことで解決するような単純な話ではなく、安価な低炭素技術が普及するというイノベーションによってはじめて解決される問題だからだ。
若者は言う。「石炭火力発電は最もCO2を出す量が多い。だから今すぐ禁止すべきだ」。気候変動の観点からだけ考えればその通りだ。しかし気候変動対策に熱心だと言われるドイツでさえ、現状電力の4割を石炭に依存せざるを得ないのは、代替手段としての再生可能エネルギーがコストや安定性の点でまだ課題を抱えているからだ。再生可能エネルギーの発電コストだけを見ればここ数年で相当低減したが、再生可能エネルギーで発電された電気を使いこなすためには、送電線の整備や調整役としての火力発電の維持が必要だ。そうしたコストは将来世代にものしかかる。
さらに言えば、今後世界はますます多くのエネルギーを必要とするようになる。通信でも5Gが当たり前になり、ブロックチェーン技術が一般化し、誰もがウェアラブルのデータ端末を身につけて歩く。そんな世の中になるのを押しとどめるのは不可能だろう。いまは多くの未電化地域を抱える途上国も、一足飛びにそうした便利な社会に変化する可能性もある。
いまの気候変動問題は、何かをやめさせることで解決できる問題ではなく、安価な低炭素技術が普及するというイノベーションによってしか解決できないのだ。このことが共通認識であるならば、若者の危機感に応えて我々は何をすべきか。それは、いまの国際社会が抱える様々な課題を共に直視し、気候変動の科学を共有し、どうすれば課題を総合的に解決するイノベーションを生み出せるかを議論することではないだろうか。
いま多くの大人たちがしているように、若者の行動を称賛し、「自分たちは行動しない悪い大人たちとは違う」とアピールすることが、あるべき姿だとは筆者にはとても思えない。この非常に複雑な課題を単純化し、解決しないことを誰かのせいにしたり、誰かを非難することが解決への道筋だと勘違いさせるようなことは厳に慎むべきだろう。共感を示すのはたやすい。しかし、彼らの真摯な危機感に、真摯に向き合おうではないか。