第1回 板硝子業界はエコガラスでGVCを訴求する [後編]
板硝子協会・専務理事 森谷茂明氏、
板硝子協会・環境技術委員会委員長(日本板硝子(株)・執行役員 建築ガラス事業部門 日本統括部長) 宮之本昭二氏
インタビュアー&執筆 松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
板硝子協会のGVCのポイントは、住宅開口部に断熱性能・遮熱性能に優れた、エコガラス(Low-E複層ガラス)の普及拡大である。前編では、業界の温暖化対策やGVCの概要について伺った。前編はこちらをご覧ください。
―――エコガラスのコストについて教えてください。
森谷氏:住宅は、それぞれの規模や窓の数、ガラスの大きさもそれぞれ違いますので、「家1軒分のエコガラスの価格」の概算は難しいです。開口部はガラス単体ではなく、サッシと一体で考える必要があり、金額的にはサッシのコスト構成比の方が大きいです。
新築戸建て住宅のエコガラスの普及率は、すでに8割近くになっていますので、それほどコストアップという感じではないと思います。
―――参考までにお伺いしますが、ヨーロッパは窓の断熱基準が厳しいと聞きました。
森谷氏:ヨーロッパは、開口部の断熱仕様は非常にレベルが高くて、昔以前からサッシもアルミではなくて、樹脂サッシや木サッシが多いです。複層ガラスは3重のもの、ガスが入っているタイプが市場に普及しています。
宮之本氏:ヨーロッパも昔は単板ガラスでしたが、基本的に気候が寒いこともあり、複層ガラスが普及しました。住宅の省エネに関しての法整備もヨーロッパが先行しています。
森谷氏:今の段階では日本の省エネ基準は、ヨーロッパに比較し低いレベルです。もともと日本の住宅の文化は、家全体を暖めるという感覚がなく、こたつで温まる部分暖房の文化で、ヨーロッパなどの海外と感覚が違います。現在の日本の省エネ基準もそうした影響を受けている部分があるのではないかと、個人的には思っています。今の日本の省エネ基準は、地域的に寒いところではそれほど見劣りしないかも知れませんが、東京などのいわゆる温暖地の省エネ基準は、世界的に低いレベルと思われます。韓国や中国と比べても低いのが現状です。
―――高性能ガラス採用を促すための法制度や導入者へのインセンティブなどをお聞かせください。
宮之本氏:まず法制度としては、建築物のエネルギー消費性能に関する法律(建築物省エネ法)と、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)の2つがあります。建築物省エネ法では、住宅・非住宅ともに300m2以上の新築、増改築の建物に対して、建築物のエネルギー消費性能基準が設けられています。特に住宅では満たすべき外皮基準も定められており、北海道や東北地方などの寒冷地の1~3地域では、エコガラスを採用する必要がある水準になっています。もう1つの品確法では、新築住宅の瑕疵担保責任の強化と住宅性能評価が主な内容ですが、住宅性能表示制度があります。住宅性能評価は構造体力、遮音性能、省エネルギー、防犯などの住宅の性能を表示するための共通の基準を10分野定めています。省エネルギーとして「温熱環境に関すること」では、性能表示事項に省エネルギー対策等級があることからエコガラスの普及が期待されます。
―――国が断熱性能を高めることを法的に規制した方が、エコガラス(Low-E複層ガラス)は普及していくのでしょうか。
宮之本氏:そう思います。住宅の床、天井、壁、と同じように、開口部に断熱性能を定めることでエコガラスの機能が求められることになります。
森谷氏:現在、省エネ基準は、いわゆる300m2未満の小規模な戸建て住宅は義務化の対象になっていません。省エネ基準法に準じた住宅をつくる技術が普及していないのが、なかなか義務化に踏み切れない理由といわれています。義務化が実現すれば、今まで以上にエコガラスは普及する可能性はあります。
―――新築住宅ではガラスは、すでに省エネ基準を達成しているとのことですが、リフォーム市場の開口部は改善の余地がありそうです。省エネ改修のインセンティブが必要ですか。
宮之本氏:近年は、補助金制度が省エネ改修のインセンティブになっています。「次世代住宅ポイント制度(https://www.jisedai-points.jp/)」や、リフォームの「断熱リノベ(高性能建材による住宅の断熱リフォーム支援事業)」の補助金があります。次世代住宅ポイント制度は、新築とリフォーム、それぞれ対象となります。
断熱リノベについては、高性能建材による断熱リフォームによって一定の省エネ効果(15%以上)が見込まれる必要があります。この15%以上が達成されたかどうかの判定は、断熱リフォーム部分の床面積の割合から早見表で確認できます。2019年度より窓のみの改修も補助対象となっています。戸建て住宅は5月13日から公募が始まり、8月中旬まで受け付けています。交付の対象者は個人の住宅所有者と住宅所有予定者です。詳しくは一般社団法人・環境共創イニシアチブ(SII)でご確認ください。
http://sii.or.jp/moe_material31/overview.html(図1)
地方自治体も省エネ改修の補助金を出しているところがあります。例えば、東京都は2019年度から東京都が独自に定めた「東京ゼロエミ住宅」という補助金があります。「東京ゼロエミ住宅」の仕様と性能を満足することで戸建て住宅1棟あたり70万円の補助金が交付されます。開口部の断熱性能としては、省エネ等級(窓ラベル)4熱貫流率(U値)2.33W/m2・K以下の性能としており、開口部の一例として、エコガラス+アルミ樹脂複合サッシがあります。「東京ゼロエミ住宅」では、開口部以外にも、所定の性能を有する照明・空調機・給湯器等の設備や、壁・屋根・床等にも所定の性能を有する断熱材を使用することを求めており、全ての必須仕様を満たすことが必要です。
―――エコガラス(Low-E複層ガラス)について、最後にメッセージをお願いします。
森谷氏:正直なところ相当環境意識の高い方でないと、一般の住宅に住まわれている方がCO2削減のために窓を替えるという感覚はまずないと思われます。やはり窓の近くの冷え感がなくなる、ヒートショックの軽減、電気代が少なくなる、結露防止などのメリットがあるからこそ替えるわけです。板硝子協会としては、こうした健康面やエネルギーコストのメリットをもっと多くの方に知って頂きたいと思います。
特にエコガラスの健康面については、国交省で*スマートウェルネス住宅における住宅の中の温度差、ヒートショックによる健康への影響を調査しています。特に話題になっているのが、住宅の家の最低温度自体が低いことによって、そこに住まわれている方の疾病率が高いという調査です。WHO(世界保健機関)でも、住宅に関しての最低温度を18度以上にすべきであるとの勧告が出されています。
*スマートウェルネス住宅:最先端の技術を活用してより安全・安心・健康的に暮らせる要素を取り入れた住宅
宮之本氏:板硝子協会のホームページにある「エコガラス」のウェブサイトで、「冷暖房削減シミュレーション」を公開しています。「冷暖房削減シミュレーション」では、都道府県別に集合住宅、戸建て住宅の選択ができ、単板ガラスからエコガラスへ交換した際のCO2排出削減量や暖冷房費用削減額の試算をすることができます。
「冷暖房費削減シミュレーション」
http://www.ecoglass.jp/s_about/sim.html
【インタビュー後記】
板硝子協会のグローバル・バリューチェーン(GVC)について、エコガラス(Low-E複層ガラス)の普及を通じた削減貢献について解説いただきました。原料調達、製造段階から使用段階、廃棄段階まで削減貢献量の定量化を実施した結果、単板ガラスとエコガラスのCO2排出量を比較すると、30年間使用した場合、エコガラスは約2割削減できることがわかりました。協会に加盟する3社が技術を磨き、製造段階のエネルギー消費量が単板ガラスとエコガラスとの間で差がなくなってきていることも、バリューチェーン全体でのCO2排出量を減少させています。
家全体の断熱性能が健康にもつながるという観点は、消費者(ユーザー)に積極的に訴求したいポイントです。新築、リフォームで断熱性能を向上させたいユーザーには、補助金をうまく活用して頂きたいと思います。